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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅳ章 魔王と勇者のダブルブッキング!?
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ⅩⅢ ファームの秘密 Ⅰ

竜の苦しげな咆哮と激しくぶつかり合う剣戟の音を背後に、グリフォンの背に乗った時よりも穏やかな風の流れを肌で感じながらシャッテンの腕の中にいた心音はやがてクロムの家の前までやってきた。


「えっと、これからどうするんですか?」


地面に降り立ったシャッテンは恥ずかしそうにする心音を優しく下ろす。


「クロムの元へ向かう。元はと言えば今、このような状況になっているのはアヤツの所為であるからな」


「クロムの所為って…?」


心音自身も日々を過ごしているクロムの家の玄関を開け、リビングへと足を踏み入れたシャッテンの後に続き、心音も中に入る。


「我がこの世界に来る際、ファームの結界に異常を感じた。先日、結界の一部が壊れたそうだな?」


「はい。それはファイが?」


「ああ。…まさかこうも早く“扉”に異変が起こるとは思わなかったがな」


(…扉?)


シャッテンの小さな呟きに心音が引っ掛かりを感じていると、二人はいつの間にかクロムの部屋の前までやってきていた。


「此処か…」


「あの…クロムはもう一ヶ月も部屋に閉じこもったままなんです。何度もノックしたり声をかけたりしたんですけど返事はなくて――――」


「ほいっ」


心音が沈んだ表情で話している間にシャッテンは軽く握った拳をクロムの部屋の扉へと突き出し、ドォン!と大きな音を立てて扉は砕け散った。


(嘘でしょ…)


派手に壊してきながら心音の安全を確保するように自身の身体を壁にして庇ったのか、シャッテンの体には破片が幾つか突き刺さっていた。

しかし、気にした様子もなくシャッテンは破片を引き抜くと、程なくして体の傷は無くなり元通りの白い肌になっていた。


(さすが不死身の魔王…じゃなくて!)


「いきなり何で扉を壊すんですか!? 普通に開ければ済む話で…!」


「いや。普通にでは開かぬ扉であったからな、壊すのが早いと思ったのだ」


「え?」


「見てみろ」


シャッテンに促されるまま床に散らばった扉の破片の内、一番大きな破片には淡い青色の光を放つ不思議な文様が描かれていた。

それは心音も何度か目にしたことがあり、この世界でも日常的に使われ、特に“魔力線マナライン”により使われるモノ。


「魔法陣ですか?」


「ああ。外部からの侵入を防ぐための魔法だ。それも解除するか魔法陣自体を破壊しなければ解けない高度なものだ」


「…どうしてそんなものがクロムの部屋に?」


破片に触れようとしゃがみ込んでいた心音がシャッテンを見上げる。


「決まっておる。誰も立ち入らせたくない“何か”が中にあるからだ」


「何か…」


ジッと扉のあった場所を見つめているシャッテンと同じ場所に目を向けた心音はハッと息を呑むと立ち上がった。


「な、んですか…これ」


シャッテンと心音の前にあったのは確かに扉だった。

何の変哲もない、どこにでもある家屋の扉。けれどその扉が無くなった途端現れたのは―――闇だった。

部屋の中に広がる闇、本来ならばクロムの落ち着いた印象を受ける私室の風景があるはずのそこにはどこまでも続く、黒一色の闇があった。


「なるほど。まだ不安定な為にこのような事に…」


「しゃ、シャッテンさん一体どうなって! クロムはどこに!?」


「落ち着くが良い、ココネ。大丈夫だ」


肩に優しく置かれた手の感触に心音は一つ息を吐くとシャッテンを見た。


(シャッテンさんは動じてない。きっと…この先に私の出来ることがある。なら、気をしっかり持たなくちゃ!)


それを満足げに見つめ返したシャッテンはもう一度、闇へと視線を移すと覚悟を決めたような声音で「行くぞ」と、ゆったりとした足取りで闇の中へと足を踏み入れる。

そんな彼に続き、心音は不安そうな面持ちのまま、それでも元気良く「はい!」と返事をすると闇の中へと入っていった。


途端、闇の表面が水面のように波紋を広げる。そして水のような冷たさを肌で感じ、心音は無意識に自身の両腕を抱いた。


(なんだろう。とても部屋の中だとは思えないくらいに寒くて……怖い)


背筋を駆けた悪寒にブルッと体を震わせた心音の手を少し温かいモノがやんわりと握った。


「我の手を握っていると良い」


暗闇の中では何も見えない。けれど側でシャッテンの笑う気配がし、心音は握られた手を握り返すと肩から力を抜いた。

そのままシャッテンは心音の手を引くと闇の奥へと歩き出す。後ろでは部屋の外の光が扉の枠と同じく長方形の形を保ち、輝いていた。


「あの…聞いてもいいですか?」


「ああ、ココネの問いならば何でも大歓迎だ。それこそ我のスリーサイズから好みのタイプ、それから我と其方の婚儀についても―――!」


「そういうのはいりませんから!」


シャッテンの声が本気であることに、心音は慌てて話を逸らそうと質問をぶつける。


「今更ですけど、ファイのさっきの態度と今向かっている場所は何か関係があるんじゃないですか?」


「……。どうして、そう思う?」


シャッテンの口調から先程のふざけているような気配が消え、真剣な双眸を向けられているように感じた心音は考えていたことを口にした。


「少し違和感を感じたのはファイとシャッテンさんが今日初めて会った時です。

あの時ファイはシャッテンさんがファームに訪れたのが初めてではないような、知り合いだという対応をしていました。それって、シャッテンさんは前に一度召喚獣を求めて此処にやってきているという事ですよね?」


「…つまりココネは既に召喚獣のいる我がもう一匹、召喚獣を求めにくるのはおかしいと言いたいのだな?」


「はい」


「そうは言うがな、ココネ。我が二匹目の召喚獣を求めてきたという事に何の違和感がある? 何かを求めるのに一つだけだ、という決まりはなかろう?」


シャッテンの言い分は最もだ。

心音も楽譜を買いに行く際に一冊以上、買い求めてしまう時がある。

目的の物を求めてお店を訪れたにも関わらず、物色する内に目的の物以外も欲しくなってしまうというのは良くあることだろう。

そしてそれを誰かが強制的に止める権利はない。


(此処に来る前の私だったら疑問に思わなかったと思う。でも―――)


「いいえ。求めに来ること自体がありえません」


小さく首を横に振り、そう言い切った心音はこれまでに学んできた召喚獣とこの世界についての知識を思い出した。


召喚獣は契約する相手との相性や魔力の量により、一人の人間が契約できる召喚獣の数には限りがある。

例えばシルバは『狼』の召喚獣五匹と契約を交わしているが、それは彼と狼の相性がよく、また彼の魔力量が常人よりも多く存在しているからである。

それに加え、属性は異なるも“狼”という『種類』が同一のものであるが故に魔力の変動も少なく済み、五匹と契約出来ていた。


しかし、この五匹の召喚獣を魔力量はシルバと同等だが相性は良くない者が契約するとする。

この場合、狼を召喚する際に無駄な魔力を消費することになり、結果として五匹全てとの契約が出来なくなるのだ。

そしてそれは逆の事でも言える。相性は良いが魔力量が少ない。この場合は契約時に相応の魔力が足りず、結果として前者と同じように契約出来ない。


簡単に言ってしまえば召喚獣と契約する場合、大切なのは召喚獣との『相性』、そして契約出来るほどの膨大な『魔力』ということになる。

勿論小型やランクの低い召喚獣とならば何匹とも契約出来るが、この世界において常人が契約可能な数は最低で『三つ』と言われている。


そして心音がシャッテンに対して抱いた疑問。それは―――異世界の人間は一匹の召喚獣としか契約出来ないという事に関してだった。


「魔王であるシャッテンさんなら魔力の量はとても多いと思います。でも何故かこの世界で育った召喚獣は異世界から来た人達と“一回”しか契約出来ないはずです。

それなのにどうして一度召喚獣を求めて此処にやってきたことのあるシャッテンさんが今日また此処に来たのか。それって――――他に何か目的があって此処を訪れたんじゃないですか?」


「……。」


闇の中、不自然に心音とシャッテンの靴音だけが反響する。


「クロムならきっとその事について説明しているのではないかと思います。

それに第二エリアを私とユキナさん達で探すことになった時、シャッテンさんがわざとファイと二人きりで第一エリアに向かう為の行動を取った。そんな風に見えたんです」


「……。それで?」


「シャッテンさんはその時に何かを話した。それもクロムやこのファームについて」


シャッテンの反応を窺おうと隣を見た心音はすぐ側にジッと自分の目を見つめているような双眸を見つけ、見つめ返した。


「…確かに我は奴と二人きりで話をした。それも其方が言うようにこのファームについて、そしてクロムについてもだ」


そこまで言って、シャッテンは微笑を浮かべる。


「しかし、ココネ。我に質問を繰り返しているが…其方はもう答えを導き出しているのではないか?」


「…え?」


「我が此処を訪れた理由だ」


(これかなって思うのはあるけど…)


心音は自分の導きだした答えに自信が持てず、口を閉ざしてしまう。そんな心音にシャッテンは再度笑った。


「言ってみるが良い。我はどんな答えだろうと怒ることはせぬぞ」


「……。私は―――シャッテンさんがクロムを助けに来てくれたんじゃないかって思ったんです」


心音の言葉にシャッテンは目を丸くする。


「突然、ですよね。自分でも突拍子もないことだって分かってます。でもさっきも言いましたけど…クロムが部屋に閉じ籠ってもう―――1ヶ月になるんです」


俯いた心音は震える手をギュッと握りしめた。


「ファイは“大丈夫、心配ない”としか言わないし、ラルも気にした様子もなくて…でも一ヶ月ですよ?

一ヶ月も飲まず食わずの生活なんて…。勿論、毎日の食事が出来ない生活を送っている人達がいるのも知ってます。

でも、クロムのいる此処ファームは私やファイもいて、食料も十分にあります。

それなのに部屋から出てこなくて、姿さえ一度も見ていない…っ…そんな状況で心配しない方がおかしいじゃないですか!!」


いつの間にか顔を上げ、シャッテンに声を荒らげたことに気付き、心音は再度俯く。


「…ファイとラルも本当は不安だと思うのに、私に気を遣って本音を表に出してくれなくて。

そんなときに“知り合い”だというシャッテンさんが来てくれた。だから…私は」


(期待をした。ううん、今もそうであって欲しいと思ってる)


「シャッテンがクロムを助けに来てくれたんだって思ったんです」


「……。」


「今も…こうやって進んでいるのは、クロムを助けに行くためじゃないかって」


暗闇の中で声は聞こえても目は見えないだろう。それでも心音は期待を込めた眼差しをシャッテンに向けた。

するとシャッテンは静かに歩みを止め、手を繋いでいた心音も釣られるようにして立ち止る。


「“光よ”」


「あ…」


小さく紡がれた呪文に心音が声を上げた瞬間、隣から光が溢れ、瞬く間に心音とシャッテンの周りだけが光を放ち、明るくなった。

一瞬、光に目が眩んだ心音はすぐに目を開けるとシャッテンを見上げた。


「あの、シャッテンさん…」


「……。」


(やっぱり間違ってたのかな? そうだよね、虫の良い話だもん。シャッテンさんにはきっと違う目的があったんだ)


シャッテンの沈黙に心音が居心地悪そうに口を開いたその瞬間――――


「やはり…我の目に狂いは無かったな!!!」


「へっ!?」


沈黙を破るとはまさにこの事だろう。大きな声が耳元で響き、心音は咄嗟に繋いでいた手を放し、耳を塞いだ。

しかし、その手を引きはがすように取られ、我慢の限界だとばかりに心音はシャッテンの方へと体を抱き寄せられた。


「その観察力に推理力、そして自らの力で身に付けし知識から冷静に真実を導き出したその技量! やはり其方は我の妻と成るべく生まれし美の女神!!」


「いやいや、落ち着いて下さい!」


嬉々とした表情で顔を近づけてくるシャッテンの胸元を心音が押し返せば、彼は小さく笑みを零し、ポンッと心音の頭に手を置いた。


「うむ! “奴”に関係なく、我は其方の力になろう」


「え…」


(奴? それって誰のことだろう。…って、そうじゃなくて!)


「やっぱり、シャッテンさんはクロムを?!」


欲しい言葉を貰えると期待する眼差しを向けてくる心音にシャッテンはニカッと笑った。


「今更、隠すことでもあるまい。そうだ。我はファームの異変を察知し、こうして訪れた。

クロムを…というと少し語弊が生まれるが、まあ結果としてクロムを救うことになるだろうからな。全ては其方の言う通りという訳だ!」


「そう、なんですか…そう……なんですねっ」


ポロッと頬を伝う涙に心音が気付いたのはシャッテンが焦ったような、困ったような表情を浮かべた為だった。

涙が出た理由は簡単で、シャッテンという存在の登場と彼の『クロムを助ける』という言葉に、心音の中にあった“クロムのいない時間”の分だけ溜まっていた不安が和らだ為だ。

まだ助けた訳じゃない。それ以前にクロムが今どういった状況か、それすらも分からない状況の中で気丈に振る舞っていた心音。

それが今、助ける為の『希望』が見えた。それが彼女にとって何よりも嬉しく、とても安心できた。


「泣いてしまって、ごめんなさい…っ…でも、ありがとうございます。助けに来てくれて」


「はぅっ!!」


涙を拭い、満面の笑みを浮かべた心音にシャッテンは胸元を押さえると心音に背を向けた。


「ど、どうしたんですか?!」


「な、なんでもない…気にするな。

……くっ、鎮まれ! 我が心の蔵よ! 此処は危険だ、闇の中…二人きりではいかん!! いかんぞ…いかんぞ、落ち着けえぇ!」


(胸が苦しいのかな…?)


独り呟くように何度も頷くシャッテンを心音が不思議そうに見るも、その後しばらくの間シャッテンは深呼吸を繰り返していた。


「ごほん。それでだな」


やっと平常心を取り戻したシャッテンは気恥ずかしげに少し頬を赤く染めたままだ。


「そろそろ説明しても問題ないだろうとは思うのだが…。ココネ。其方はどこまでこのファームの事を知っている?」


「ファームのことですか? 私が知っているのはここはクロムが経営している召喚獣を育てて売る場所で、従業員は私とファイ、クロムを含めても三人しかいなくて……」


「ああ、いや。質問が悪かったようだな。我が問いたかったのはファーム“自体”についてだ」


「ファーム自体?」


再び歩き始めたシャッテンの側には白い光の玉が幾つか舞っており、心音達の周りだけ明りが存在しているため、お互いの顔が見えるくらいには明るい。

心音は自分を見つめてくるシャッテンから一度視線を外すと、以前クロムやファイに教えてもらった事を思い出す。


「私が教えて貰ったのは…ファームの周りには結界が張られていて、外から見た大きさと実際の大きさは異なっているということ。

それと普通のファームとは違って五属性全てを育てている…えっと、五法魂魔育成という方法を用いているということ。…くらいですね」


他にも何かあっただろうかと思案する心音をよそに、シャッテンは考え込むように顎に手を当てた。


「なるほど…クロムの奴、何も言わずにココネを引き込んだか」


「え?」


「よく分かった。礼を言うぞ、ココネ」


「あ、はい…?」


(特に役に立つようなことは言ってないと思うんだけど…)


疑問符を浮かべて首を傾げる心音にシャッテンは苦笑を零すと腕を組んだ。


「まあ、ある程度なら構わぬか」


「シャッテンさん?」


「ココネ。クロムを助ける前に聞いて欲しいことがある。それはこの先にあるであろう“場所”そして“あるモノ”について」


「は、はい」


時折見せる真剣な表情。それはシャッテンが魔王という地位にいる人物だからだろうか、心音は威圧にも似た感覚を覚え、無意識に背筋を伸ばした。

その様子にシャッテンはクスリと微笑を零すと心音の頭を撫でた。


「そんなに畏まらなくてもよい。今の我は魔王では無く、自身の“嫁”の為に自ら動く、格好良き“夫”なのだから!」


「あはは…」


もう突っ込むのも面倒くさいと心音が笑って流すと、シャッテンもまた心音の対応になれたのか話し進めた。


「まずクロムのことだが…小僧の言う通り心配せずとも良い。奴はこのファームの結界を修復しているに過ぎないのだから」


「確かに私もファイからそう聞いてます。…でも一ヶ月飲まず食わずの生活を送らなくてはいけないほど、結界というのは大事なものですか?」


言外に「クロムの命より大切なものはない」と言っているような心音の言葉にシャッテンは顔つきを厳しくした。


「ああ、大切だ。よく覚えて置くが良い、ココネ。

この世界も我の世界も…いや、魔法がある世界にとって結界とは最強の“防壁”と言える。

それこそ巨大な魔物や戦争など戦で沢山の兵士から攻撃されようとも、使う要素は様々だが一括して言えるのはそんな何かから大切なモノを『護る』為のモノだ」


此処は召喚獣を育て、売るファーム。客は異世界からの者が多い。

それはつまり異世界との交流、異世界との接触が他の店や国よりも多いということを意味する。


(ファームの結界はどんな異世界からお客が来ようとも対処できるように護ってくれていたんだ…。

この世界にだって人身売買や多くの“悪”がある。ううん、この世界だけじゃない。私の世界にだって犯罪として殺人や窃盗なんかは毎日のようにある。…そういったモノからファームや私達を護る役目をしているのが結界なんだ)


漠然と、結界とは外部からの侵入や攻撃から身を護るためのものだと思っていた。

けれど自分が考えていた場所よりも、もっと深い所までクロムは考え、この結界でファームを。延いては自分たちを護るために結界を直そうとしていたのだと、心音は知った。


「特にこのファームにとってはその役目を果たすと同時に、この空間を保たせる役割をしている」


「空間を…保たせる?」


「先程ココネも言っていただろう。このファームは“中と外では面積が違って見える”と」


「あ…」


心音がいくら魔法に関しての知識が少ないと言っても、シャッテンの『空間を保たせる』その言葉の意味は理解できた。

そして結界が無くなってしまった時、どんな恐ろしい事が起こってしまうかという事も。


(私、簡単に考えすぎてたんだ。結界なんて無くても伊座と言う時はファイやクロムの魔法でどうとでもなるんじゃないかって。魔法を知らないからこそ、此処で魔法の凄さを知ったからこそ…私は無意識に魔法を頼っていたんだ)


事実は小説よりも奇なり。そんな言葉を心音は思い出す。


(私が好きで読んでいた小説や漫画で描かれる魔法にも便利さと同じくらい、恐ろしいことも書かれてた。でも現実に、目の前でそれを体験して初めて私は“魔法”というものを知れた気がする)


そこでふと、心音は初めてこの世界に来た時、シルバが口にした言葉を思い出した。


――――「そんな…便利なものではない」


あの時初めて見た魔法にはしゃいでいた心音とは違い、シルバが悲しげに伏せた瞳が不意に脳裏を過ぎり、心音はきゅっと胸元で手を握った。


(シルバは知ってたんだね、魔法がどういうものか。でも…それだけじゃない気がする。分からないけど……魔法で何か辛いことがあったのかな?)


此処にはいないシルバの顔を思い浮かべた心音は軽く頭を横に振るとシャッテンを見た。


「私は色々と知らないことが多いみたいです。シャッテンさん、続きをお願いします」


「…! ああ、心得た」


真っ直ぐに、この束の間に一歩大人へと成長したように感じさせる心音の双眸にシャッテンは笑みを浮かべた。

そしてこれからの心音の成長への期待と、心音の違った一面を見るたびに増していく愛しさに、胸を高鳴らせるのだった。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字などありましたら遠慮なく、お申し付け下さい。

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