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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅳ章 魔王と勇者のダブルブッキング!?
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Ⅺ ドラゴンの足止め

「これは…立派なドラゴンだな」


「呑気に言ってる場合か!!」


心音達が呆然とドラゴンを見上げている中、その足元にいたファイは感心したように竜を見上げるシャッテンにツッコミを入れると手元に魔力を集中させた。


「“亡国王に仕えし(つるぎ)よ、我が命に従い姿を現せ―――王剣・シツァン=リーブル!”」


ファイの声に反応し、金色の光が手元に集中する。やがて光が形作るように現れたのは柄も刀身も金色をした神々しい剣だった。


「こんなにも大きいやつ相手にしたことないぞ!…っ…こいつが目覚めたのはお前の所為なんだから、ちゃんと責任とれよな!」


「分かっておる」


シャッテンの返事にファイは勢いよく跳びあがると素早く呪文を唱えた。

すると彼の体を包むように一陣の風が吹き抜けると、ファイは浮くようにして空へ飛翔していった。


「ほう…飛行魔術か。あの頃よりも格段に魔力は上がっていると見える―――が、動揺が見られるな。まあ、それだけ“先刻の話”に責任を感じている訳か」


竜の頭部へと飛翔していくファイを見上げていたシャッテンは一つ息を吐くと背の黒き翼を大きく広げた。


「仕方ない…“奴”の願いを聞く気はなかったが、クロムのこともある。我も腹を括るとしよう」


ファイの時よりも素早く、そして静かにシャッテンは空へと舞い上がった。



 * *  * *


表面を覆う鱗は濃いピンク色、手足の先は緑色をし、広げた両の翼は白に黒のドットが描かれた何とも奇妙な色合いをした竜を見上げていた心音達の元に先行していたユキヤが駆け戻ってきた。


「すっごい奇抜な色してるんだけど、この世界のドラゴンって皆こんな感じ?」


「いや。俺の知る限りこんな色合いのドラゴンはいなかったはずだ」


ユーリの答えにユキヤたちは再度、竜を見上げた。


(まあ、確かにドラゴンフルーツだから竜が生まれるとは思っていたけど…まさか色合いまでドラゴンフルーツだなんて)


最早突っ込むことすら面倒だと心音が乾いた笑い声を上げれば、竜の顔付近で金色の何かが光ったことに気付く。


「あれって……ファイ?」


(そうだ、ファイは第一エリアにいたんだった…。って、まさかまた無茶を!?)


「ココネちゃん!」


瞬時にそれが剣を持ったファイの姿だと認識した心音はユーリの制しの声を無視し、駆け出す。

ユキヤとユキナは顔を見合わせると心音の後を追いかけようと走り出し、ユーリも仕方がないと顔を手で押さえた後、駆け出したのだった。


第一エリアに近づけば近づくほどその巨大な姿に圧倒されそうになるも、心音たちは竜の足元を目指して駆けていく。

その時、またも大きな咆哮が轟くと“ドシンッ”という音がファームに響き渡る。


「え…」


徐々に大きくなるその音に心音は自分が駆け寄っているためだと思っていたが、目の前に大きな陰り生まれ、歩みを止めると空を仰いだ。

眼前に迫るキリリとした自分の身長と同じ大きさの緑色の瞳が二つ、呆然とした表情の心音の姿を映していた。

肌を撫でる温かな息吹が人間のそれにも似ており、心音の長い髪をブワッと舞い上がらせた。


「「「心音ちゃん(さん)!!」」」


ユーリ達の叫びが重なり、心音が息を呑んだ瞬間。


――――グオオオオオオオォー!


目の前で大きな口が開き、鼓膜が破けそうなほど大きな咆哮が上がる。

だが襲いくる猛烈な風はなく、不思議に思った心音が目を開ける。すると心音は空に浮くようにして立っていた。


「えっと…あれ?」


「あれ?―――じゃないだろ!!」


「いたっ」


突然後頭部を叩かれた心音が振り返れば、そこには眉を吊り上げてファイが仁王立ちしていた。


「なんですぐ危ない所に首を突っ込むんだよ! 竜なんて遠目に見ても危ないもんだって分かるだろ!? なら近づくなよ! 逃げることだけ考えろよ!」


「それはファイが――――」


「俺が助けなきゃどうなってたかっ…この、バカッ!!」


「なっ…!?」


自分が助かったことより、自分が空に浮いている事より、年下に“馬鹿”と言われたことに心音は怒り、ファイに詰め寄った。


「馬鹿とはなによ! また竜だし、ファイがあの時みたいにまた無茶なことしようとしてるんじゃないかって心配したんじゃない! それを…バカの一言で片づけるなんて!」


「そ…っ」


ファイの中でも心音同様にあの時―――ファイが龍を召喚し取り込まれた時―――のことは記憶から消えないほど後悔し、今でもその事に対して申し訳ないと思っている事だった。

だがそれと同じくらい、心音にとっても“もうあんな事はさせたくない”と思える出来事であり、ファイや心音達にとって良くも悪くも忘れられない出来事なのだ。


「もうあんなこと、起きて欲しくないの…」


「ココネ…」


グッと柄を握りしめたファイは深く息を吐くと、くしゃりと前髪を掻き上げた。


「悪かったよ…その…バカって言って、叩いてさ」


「うん…もう良いよ。私も危ない所を助けてくれてありがとう、ファイ」


「おう」


ふわりとお互いに微笑み合った後、ファイは視線を竜へと移した。


「とりあえずあの竜を何とかしないとな」


「でもどうして今になって生まれたんだろう…。まだ生まれるような感じはしなかったのに」


「ああ、それはシャッテンの所為だ」


「え?」


突然ジトッとした目で心音の立っている場所とは反対へと視線を移した。

そこには腕を組み、静かな眼差しで竜を見つめる、黒き翼を背に生やしたシャッテンがいた。彼は心音達の視線に気づくとニヤリとして笑みを浮かべ、近寄ってきた。

それとほぼ同時に魔法を使い、ユーリ、ユキヤ、ユキナが空へと舞い上がってきた。


「ココネちゃん、大丈夫かい!?」


「はい、大丈夫です」


ユーリに肩を掴まれながらも頷いた心音にユキヤとユキナも安堵の息を吐いていた。


「それで…魔王シャッテン・フェルカーの所為、というのはどういう意味ですか?」


「恐ろしく地獄耳な娘だな」


シャッテンの口から零れた言葉にユキナが睨み付けるような視線を送るのを尻目に、ファイが口を開く。


「実は第一にココネの見つけたっていう実を探しにきたのはいいんだけど、そいつが見つけた途端に実を木から切り離しやがったんだよ。『我の僕となるが良い!わははは!』…ってな」


その時の状況を思い出しているのかファイは片手で顔を覆う。


「え、じゃあ…」


「多分、考えている通り。その衝撃で本来の孵化より早く孵化してしまったというわけだ。その所為で理性やら自我やらがまだ不安定で…このままだと今以上にファームを荒らしかねない」


ファイの言葉にココネは竜のいる第一エリアを見下ろした。

そこは踏み荒らされたのか木々が薙ぎ倒され、地面の土は大きく削れ、まだ花すら咲かせていなかった小さな芽も、無残な姿と化していた。


「…酷いな」


ユーリの呟きを耳に心音はある一つの木を見つける。

前日までファイと共に実がないかと探していた時に見つけた、蕾を付けていた木。だが今は根から掘り返され無残にも蕾は潰れ、横たわっていた。


(せっかく…ちゃんと育っていたのに)


今までの努力や何もかもを踏みにじられた思いが胸を込み上げ、目尻に浮かんだ涙を拭う。


「とりあえずあの竜は早期に生まれた事で混乱しているんだと思う。だから落ち着かせて、自分の今の状況を教えてやれば何とかなると思うんだ」


心音に気遣うような視線を向けるファイにユキナが一歩前に出る。


「それでしたら、私も微力ながらお手伝いさせていただきます」


「俺も協力する。それでなくとも、もしかしたらあの竜は元々俺たちが購入するはずだった竜かもしれないんだし、扱えなくてどうすんだって話だもんな!」


「ああ、感謝する」


素直に礼を述べたファイにユキヤが目を丸くする。その目が意外だったからと語っていたのでユキナが背を叩いていた。


「俺も協力させてくれ。騎士団の団長として、何か役に立てることはあると思うからね」


ユーリも自身の腰にある剣を軽く叩くと笑みを浮かべた。


「ふむ、若い時の無茶は買ってでもしろと言うしな! ははは!」


「元凶が何を言うか」


ファイの言葉に同意するようにユキナたちは頷いた。


「よし。それじゃあ…」


「私も手伝わせて」


ファイが竜を見下ろし、皆に視線を移した時、心音がファイの前に立つ。


「私も、ファームの為に頑張りたい。私は魔法も使えないし、剣も扱えないけど…何かの役には立つはずだから!…ううん、立ってみせるから。だから―――!」


「ココネは何もしなくて良い」


「え…?」


ファイは心音の方を向かずして言い放った。

呆然とファイの背を見つめていた心音はハッと我に返ると食い下がるように慣れない空の上を歩き、ファイに近づく。


「わ、私もファームで働く仲間でしょ? 私だってこの状況を何とかしたい!」


「…だったら、ココネは何もしないで俺たちをここから見守ってくれていれば良い」


「それって…足手まといってこと?」


ココネの問いにファイは答えなかった。けれどその背が肯定しているように誰もが見えた。

沈黙するしかない心音に気遣わしげな視線を送っていたユーリがファイを見れば、彼の横顔がどこか辛そうな事に気付く。


「ファイくん…?」


「っ!…とにかく、あの竜を落ち着かせる。攻撃は最小限で、ファームに被害が出ない程度には魔法を使ってもらって構わない」


「りょーかい」


「ええ、分かりました」


「…ああ、了解だ」


ファイが心音以外の自分達に対して放った言葉だと瞬時に気付いたユキヤたちは素直に頷くが、ユーリは心音を気にしてか、少し歯切れが悪いように見えた。


「それと…シャッテン」


「なんだ」


「“ココネの事”…頼んだぞ」


「……。ああ、任せるが良い」


大きく頷いたシャッテンを最後にファイは視線を竜に移すと剣を構えた。その周りではユキヤ達が同様に剣を構え、竜を捉える。

だがこの時ユキヤたちは彼らの会話に少しの違和感を覚えた。しかし今は目の前のことに集中するべきだと、その違和感を心の隅へと追いやったのだった。


「行くぞ!」


ファイが掛け声と共に竜へと突っ込めば、後にユキヤ、ユキナ、ユーリと続く。

最後まで気遣わしげに見つめてきたユーリの背を見送り、心音はきゅっと胸の前で拳を握った。


(足手まといだって…自分が一番わかってるよ)


ファイにシルバ、クロムにラル、レオナルドの事件ではユーリやグランにも助けてもらった。

思い出すだけで後から後から脳裏に浮かぶ親しくなった人たちの顔と名前。その数だけ自分は助けられてきたのだと、心音は拳を解いた。


「私も…魔法が使えたら、剣が扱えたら……もっと皆の役に立てるのかな」


ファイを助けた時も結果として自分は歌うことで役に立てた。けれど目の前でまた同じことが起きた時、心音はまた同じように役に立つことが出来るかと不安な気持ちを抱えていた。

その根源が『自分は無力である』ということだと気付くも、最近特に『役立たず』だと思ってしまう。と、俯きかけた心音の肩に白くしなやかな手が置かれた。


「シャッテンさん…」


「あれも不器用な男だからのう…其方を危険な目に遭わせたくないと素直に言えんだけだ。

だから気にすることは無い。現にあの連中の中で一番強い我を其方の護衛につけたのだ。それが小僧の其方に対する想いの証明にならぬか?」


「あ…。」


(確かにファイは素直に感情を表すタイプじゃない。それにシャッテンさんは魔王で、強いということもユキヤさんとの戦いを見て知ってる)


真下では剣戟に交じりユキナの唱えた魔法がキラリと光を見せ、竜を圧倒しているようにも見えた。


(いつもファイは私やクロムを護ろうとしてくれる。だからその時も今度は私の番だって思えた。…でもそうじゃない。仲間なら―――助け合う事に借りも順番も関係ないよね)


その中には真剣に竜と向き合うファイの姿もあり、心音はグッと拳を握るとシャッテンを見上げた。


「シャッテンさん、ありがとうございます! 落ち込んでなんかいられませんよね…ファイがどう思っていようと私…自分に出来ることを探して、それをやります!」


「っ…!」


強き意志を持ち、何処までも透き通ったかの如く美しい瞳に危うく心奪われそうになったシャッテンは小さく息を呑むと口元に笑みを浮かべた。


「なるほど、杞憂だったようだな」


「え?…シャッテンさん?!」


不思議そうにする心音の側に近寄ったシャッテンはそのまま心音の膝下に手を伸ばすと、軽々と心音を横抱きにした。


「行くぞ!ココネ!」


「どこにですか?!」


「其方にしか出来ぬことをしにだ。」


「本当ですか!?」


思わずシャッテンの顔を見上げた心音はその近さに少し頬を赤らめる。


「ああ、我は嘘は吐かん。好きな女に対しては、な」


「っ…えっと、ありがとうございます?」


共学の高校だったとはいえこうも男子と接近したこともなく、口説いているわけではないだろうがそれに似た言葉を聞いて平然と出来るほど心音は男慣れしていないのだ。

そうとは知らず…いや、気付いているが心音の反応を見て楽しそうに笑ったシャッテンは大きく翼を広げた。


「では、行くか!」


「ど、何処にですか!?」


「決まっている。クロムの城だ!」


「え、えぇ!?…って、このまま行くんですか!?」


心音の声には耳を貸さず、シャッテンは心音を大事そうに抱えながらクロムの家へと飛んでいった――――


「良いのか、魔王にココネちゃんを任せて」


竜と対峙していたユキヤがファイを見る。

剣を上手く滑らせユキナに襲い掛かろうとしていた竜の手を弾き返し、ファイは一息吐くと既に遠くを飛んでいるシャッテンたちを見つめた。


「良いんだ。…アイツにしか出来ないと思うから」


「何かを…ココネさんに関する何かをアイツ…魔王に頼んだのですね?」


ユキナの言葉にファイは逡巡した後、小さく頷いた。


「シャッテンから聞いた。…ココネが倒れた事」


「っ!…そうか」


心音が倒れた事を知っているユーリは悲痛な表情を浮かべるも、迫り来る竜の足を軽々と避け、その固き鱗に剣を打ち付けた。


「ココネちゃんはファイくんに心配かけたくなくて―――」


「それはちゃんと分かってる。ココネにそういう所があることはちゃんと…理解してるつもりだ」


ファイはユーリが傷つけた足とは反対の足に剣戟を食らわせ、バランスの崩れた竜から全員が距離を取った。


「そうだよね。彼女と一緒にいた時間が一番長いのは君だもんな」


「……。そんなの何の役にも立たない。アイツが無理してることも、自分の“変化”にすら気づけないんだから」


「え?」


ドシンッと竜が地面に倒れた音にかき消されたファイの言葉にユーリが不思議そうな視線を向けるが、ファイは首を何度か横に振ると竜を見つめた。


「情けないけど、ココネのことはシャッテンに任せる他ない。それとコイツをどうするかについて“専門家”を呼ばなきゃいけないと思ってたし、それも…悔しいけどシャッテンが適任だから」


「「専門家?」」


「適任…ですか?」


不思議そうに首を傾げて同時に言うユーリとユキヤに対し、何処か訝しげなユキナ。三人の視線を一身に受けたファイは眉尻を下げて微笑を浮かべた。


「俺じゃ“起こす”ことも“直す”ことも出来ないからさ」


その言葉の意味がどういったものなのかユキヤとユキナには分からなかった。けれどユーリだけは意味は分からずとも『大丈夫』だと心から思えた。何故なら彼の“勘”がそう告げた事と、ファイが悔しそうに悲しそうな顔をしていたから。


(ファイくんは凄い知識と魔力、それに剣の扱いも上手い。そんな彼が一目を置き、頼った相手だ。きっと何とかなる…そう、信じよう)


ユーリは自分の勘が先程とは違う結果を与えたという初めての経験に戸惑うことなく、気を引き締めるように剣を握りしめた。


「なら、ココネちゃんたちが戻ってくるまで精一杯がんばらせてもらうよ!!」


ユーリの声にユキヤとユキナも力強く頷く。

その様子に自身の剣を握りしめたファイは大きく深呼吸をすると小さく呻き声を上げながらも既に起き上っていた竜を見つめた。

生まれたばかり、しかも中途半端な時期に生まれてしまったがために暴れる竜に罪は無い。

だからこそ大きな怪我を負わせる訳にもいかず、かと言って手加減できるほど甘い相手でないのはファイもユーリ達も承知の上だ。

それでも足止めくらいなら―――ファイたちが皆同じ気持ちでアイコンタクトを取った。


「行こう!」


「「おう!」」


「はい!」


ファイの掛け声と共に、四人は一斉に竜への攻撃を開始した。





ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字などありましたら、お知らせください。


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