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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅳ章 魔王と勇者のダブルブッキング!?
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Ⅹ ドラゴンフルーツの孵化

「なんていうか……殺風景だね」


「言わないで下さい。……私も初めて見た時はそう思いましたけど」


ユキヤの言葉にムッとしながらも心音は畑の中に足を踏み入れる。

柔らかな土の広がる第二エリア。

単純に広大な畑という印象通り点々といくつかの苗が植えられていた。が、苗と言っても心音が初めて育てたサクラの実のように成人一人分の背丈はある苗であり、花はまだ蕾さえ付けていなかった。

その為、ユキヤの言う通り…辺り一面茶色一色だと言っても過言では無い。


「召喚獣の卵である実が育つまでには時間も掛かるんですけど、それよりも“種”を作る方が大変なんです」


「え、種って作ってるの!?」


ユキヤの驚愕した声に心音は頷き、クロムとファイから教わった知識を語る。


―――召喚獣の卵である実を作るためには、その主となる木などが必要である。

グリフォン・サクラの生まれた第五エリアの木は元々“何の変哲もないただの木”だったが、其処にクロムが魔法を施し、ファームに植えた事からリジュウやクレリアと呼ばれる“召喚獣の木”へと変わった。

そうすることで食用であったはずの実が召喚獣の卵となるわけだ。


だが第二エリアの召喚獣は主に野菜などが主体となる。

方法は木と同じで、主とする野菜の種にクロムが魔法を施し、第二エリアに埋めることで召喚獣の卵である野菜を実らせる。

しかし、木と違うのは種に魔法を施すのはとても難しいという所だ。


「どうして難しいのですか?」


ユキナの問いに心音はクロムたちの説明を思い出すように首を捻った。


「えっと…普通の木なら枝に幾つも実を実らせますが、召喚獣の木は木一つに一個の実しか付けないんです。当然、育った実を収穫した木には実がなくなりますよね?」


説明をしながらも植えられている苗の葉に隠れて実が無いか探す心音にユーリたちは頷く。


「ですが数か月経てば、新しい芽を芽吹かせ、実が出来るんです」


「えっと…?」


「あ。分かったかも」


それがどうして種を作ることが難しいということに繋がるのか分からないと、ユーリとユキナが首を傾げていれば、ユキヤがポンッと拳を打った。


「木は一つの木で何回も実を付ける事が出来る。でも野菜なんかは一度収穫すると、また種を撒いて一から育てなきゃならない。そういうことだね?」


「はい!」


正解です、と心音が笑顔を向ければユキヤがガッツポーズを取る。それを横目に納得したようにユーリが頷く。


「なるほど…同じ木から何度も実が出来ればそれだけ同じ属性の召喚獣が生まれる確率が上がるし、能力が高い召喚獣が生まれれば、また高い召喚獣が生まれる可能性も大いにある。

でも種からの召喚獣は一度高い召喚獣が生まれてもまた同じ召喚獣が生まれるように計らうにはその野菜の種を上手く配合しなくちゃいけないから、難しいって訳か」


「はい。でも、クロムのファームは五法魂魔育成型なのでお客さんの要望に応じてはその属性の召喚獣を故意に作らなければいけないらしいですけど、その場合は種の配合で何とかなるってクロムは言ってました」


(一度試した配合は全てメモを取っているので、作ろうと思えば望んだ属性の召喚獣が作れる。って自慢げにファイが言ってたよね。……ファイが作る訳じゃないのに)


尊敬を通りこして狂気すら感じるファイのクロム好きには、心音もたまに苦笑すら浮かべられないことがある。


「実は難しいと言ったのは作る方法ではなくて…」


「ああ、種の入手かな?」


「はい…」


頷いた心音は苦笑を浮かべ、ユーリも納得したように腕を組んだ。


「そんなに貴重な品を使ってるのか?」


ユキヤが率直思った事を口にすれば心音が頷く。


「私も最近知ったばかりなんですが…魔法で配合する召喚獣の種の元になる“普通の野菜の種”という物自体がこの世界では貴重なんだそうです」


「正確にはこの国、だけどね」


ユーリは心音の言葉を補足するように口を開いた。


「ファスティアス国は仕事に関して厳しいところがあるんだ。それこそ他国や異世界の人から見たら馬鹿げてるって思うくらいにね」


「……?」

(ユーリさんがこんな風に言うなんて…)


国に仕える騎士のユーリが見方を変えたら国を非難しているように聞こえなくもない言葉に心音が驚いた表情を浮かべるも、ユーリは気付いた様子もなく続ける。


「農家という括りに入る人達も結局は野菜なんかを育てる“職業”に入る。だから国は野菜の種は農家という職業の人にだけは安く、他には高く、そういう規制を掛けているんだよ」


「では、ファームと農家は違うのですか?…同じ農業のような気がするのですが?」


「まあ、その疑問は最もだね。でも国はファームを農業という括りには入れていない。それにこの国には此処しかファームがないから」


「え、そうなの?」


ユキヤとユキナに真実かどうか確かめるような視線を向けられた心音は迷った末に小さく頷いた。

クロムたちにはそう教えられたが、心音は此処ファーム・クロムとヒガミヤ街しか自分の目で見たことが無い。

自分の目で見たものしか信じられない、とまでは言わないが似たような感覚を持つ心音は素直に頷けなかった。


「それでしたらファームへの種の売値が高いということには頷けます。しかし、農業という括りに入っていないというだけでこうも価格に差があるなんて…よく騒動に発展していませんね?」


世界には世界の、国には国の、それぞれやり方があるとは承知している。

けれどユキナは自分の価値観から考えてそれはある意味で差別、格差を生んでいると目を鋭く光らせた。


心音も引っ掛かりを覚えない訳では無い。が、幼い子供ですら働くことを定められている国ではこういう事はしょうがないかもしれない、と無意識に思っていた。

それは良く言えばこの世界・ファスティアス国に順応してきた。悪く言えば心音自身が持っていた価値観がなくなってきているという事を意味していた。


「まあ、無かった訳じゃないです。歴史の中にはそう言う事もあるにはあった。…けど、今はこれのおかげで特に問題なく過ごせています」


ユーリが懐から取り出したのは真ん中に丸いサファイアが嵌め込まれた十字を模ったブローチ。


「それって…もしかして職業認定証ファスタルですか?」


「うん。ヒガミヤ騎士団…いや、領専属騎士団は皆この形をしたブローチが職業認定証なんだ」


「それは?」


不思議がるユキヤたちに簡易ではあるが職業認定証について説明をする。と、ユーリは懐にブローチを戻した。


「―――農家はこの職業認定証を持って野菜なんかを栽培してるけど、もっと良いものをと考えるとファームのように種を配合する。その際に種を大量購入するから安くしてるし、そうして育った物を自分達は毎日食べている。職業認定証が生まれてからそんな意識が国民に芽生え始めた。だから最近は暴動みたいなことは無いんです。

それに安いと言ってもそこまで差は無いし、普通の野菜なら取れた内の何個かを種に変わるまで待って、それを次に栽培する事が出来る。だから売る側も全て高値だと農家の人に買ってもらえないという思考があるみたいで、そこに国は上手く規制をかけたんだと思います」


「そう、ですか」


説明を受けてますます表情を曇らせたユキナに心音が慌てて口を挟む。


「た、種を買うのは農家やファームの私達くらいなので、他の人はあまり買わないから、だから高値でも一般の人は納得しているんだと思いますよ!」


「……。」


必死で弁解する心音に俯いていたユキナから「クスッ」と笑い声が漏れ聞こえる。


「え?」


「ふふっ。大丈夫ですよ、ココネさん。

私も国を纏める者として世界や国それぞれでこうもあり方が違うのかと、少し衝撃を受けてしまっただけです。不快には思っていませんので弁解の必要はありません」


「そ、そうですか」


またも早とちりしてしまった、と心音が恥ずかしそうに頬を染めればユキヤがゆっくりと挙手をした。


「はい」


「ユキヤ様?」


皆の視線がユキヤに集まった時、俯いていたユキヤは勢いよく顔を上げると大きな声を上げた。


「もう無理! 難しくて話に付いていけん!!」


「「「………。」」」


「もう此処に卵はなさそうだし! あいつらと合流しようぜ!」


「「………。」」


子供の様に第一エリアの方へと足を向けてしまったユキヤの背を呆然と追いかけてしまう心音とユーリにユキナが申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません。ユキヤ様はいつも“ああ”でして…。国でも、勇者なのですから軍議には必ず参加して頂きたいのに、いつも気がつけばお姿がなく…」


「それはけしからんですな」


「……ユーリさんだって脱走して書類とか溜まっているんですよね?」


ツッコミを入れるかどうか迷った末にツッコミを入れた心音にユーリはビクッと肩を揺らす。


「それは、誰情報かな?」


「シルバとマリアさんです」


「そうですか……なんか、すみません」


ジトッとした視線を心音に向けられ、ユーリはガクッと肩を落とした。


「とりあえずユキヤさんの言う通り此処に卵は無いみたいですから、その事も含めてファイと相談したいですし、私達も行きましょうか」


異存はないとユキナとユーリが頷けば、心音は眉尻を下げた。


「改めてすみません、ユキナさん。こんなことになってしまいまして…」


「いいえ。むしろ異世界の文化に触れることが出来て、楽しいくらいです」


お世辞でなく本心からの言葉だと感じた心音は上品に笑うユキナに笑みを返したのだった。


「あっ―――…ココネちゃん!」


「はい?」


ユキナと並んで第一エリアへと歩き出そうとした心音は突然ユーリに肩を掴まれ振り返る。

そこには先程までの愉快さはなく、騎士としての真剣で引き締まった表情をしたユーリが心音を見ていた。


「ファームで一番安全な所ってどこだか分かる?」


「一番安全な場所かは分かりませんが…。此処はクロムの家以外に建物はありませんので、多分そこが安全だと」


「そうか…じゃあ、ファームの出入り口の場所は?」


「え? えっと第一エリアの何処かにあると……」


「正確な場所は分かる?」


「どうしたんですか、ユーリさん!」


矢継ぎ早に尋ねられれば流石に心音も訝しげな視線をユーリに向ける。ハッとしたようにその視線を受け止めたユーリはいつの間にか強く掴んでいた心音の肩から手を放した。


「ごめん…ちょっと嫌な“予感”がして」


「予感ですか…?」


心音と顔を見合わせて不思議そうにするユキナにユーリは第一エリアの方に視線を移す。


「自分で言うのもなんだけど、俺の勘は良く当たるんだ。だからココネちゃんはユキナちゃんと一緒にファームを出て、シルバたちの所に―――――」


ユーリが心音たちの背を押して出口へ向かわせようとした、その時。


――――グオオオオオオオォーー!!!


地響きと共に空高く、耳をつんざくような咆哮が上がる。


「きゃあっ!?」


途端に巻き起こった強烈な風は心音達を襲うと勢いそのままにファーム全体へと広がり、第一エリアは勿論、遠くの第五エリアの木までもを激しく揺らす。

思わずよろけた心音はユーリが支え、慣れたように一歩も動くことなく風を耐え抜いたユキナは驚愕の表情で“何か”を見上げた。


「何ですか、あれは…!!」


風が収まったのを確認したユーリが体を離すのと同時に目を開けた心音は、ユキナの視線を追った。


「う、そ…」


最初に認識したのは濃いピンクだということ。そしてそれは第一エリアに生える木々を遥かに超える身体の表面の色でもあった。


「あれも…此処で育てている召喚獣なのですか?」


ユキナの驚愕した声に心音は静かに首を横に振った。


「ち、違います。今このファームに召喚獣はいませんから。それに……あんな大きな召喚獣、初めて見ました」


そこまで言って自分の言葉を心中で否定する。


(ううん、違う。本当は…本当はつい最近、似たようなモノを見たことがある。もう二度と起きて欲しくないあの時の、すごく怖かったあの時に見た生物――――)


形は違えど“同種”と言っていい生物。


「あれは―――ドラゴンだ」


ユーリの口から低い声音紡がれた名前に、心音の体が小さく恐怖に震えた。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


ファームついての設定は考えながら書いているので自分でもたまに「あれ?」って思ったりしてます…汗

分かりやすく言うと作者の心は今回のユキヤのような気持ちです…技量不足で申し訳ありません!泣


次回もよろしくお願いします!


誤字脱字などありましたら、お知らせください。

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