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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅲ章 仮面騎士団とフェアリーダンス
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ⅩⅧ 平穏の訪れ Ⅰ

『契約は成された。』


消えていく扉を呆然と見ていたクロムたちに、威厳ある声が届き其方に視線を向ける。

そこには扉と同じように身体が尾の方から薄くなり消えていくウォルンティシーアが目を閉じていた。


『魔力が溢れ、湖は満ちた。我は消えよう…さらばだ、ファームの主よ』


静かに消えゆく龍を呆然と見つめるクロムと心音。


「契約…」


「出来たの…?」


クロムの側まで歩み寄っていった心音は、ふとそこで何か金色の光が消えゆく龍の身体から零れ落ちるように、ふわふわと舞い降りてくるのを目にした。

それに気づいたクロムと共に心音はその光の正体に気付くと駆け出した。


「「ファイ!!」」


精一杯腕を伸ばした二人は、届けとばかりに身体を前へと投げ出した。

そこへ真っ直ぐに落ちたファイの身体を受け止め、クロムと心音はうつ伏せに地面へと倒れる。

けれど二人の腕にはしっかりとファイの姿があった。


「ファイ!ファイ!?」


「しっかりして!ファイ!!」


心音とクロムは両脇からそれぞれ抱えるようにしてファイの上半身を起こし、声をかけ続けた。

すると閉ざされていた瞼が開き、ファイは小さく息を吸う。


「クロ、ム…さん?……ココネ?」


掠れた声だったが確かに彼の口から紡がれた自分たちの名に、二人は瞳を潤ませると勢い良くファイに抱きついた。


「ファイー!!」


「良かったぁー!!」


「え?…え?え??」


ぎゅっと首に腕を回し名を呼ぶクロムと同じように抱きつき頬を寄せる心音。

二人の行動に驚きを隠せないファイは、二人の目から溢れる“涙”に気付くとそっと二人の背に手を回した。


「えっと……何かあったのか?」


オロオロしながらも二人の背をファイがさすっていると近づいてきたシルバにそう問い掛けた。

しかし彼のボロボロになった服や怪我をみて、大体の予想がついたのか顔をしかめた。


「お前が無事だったんだ。今はそれで十分だろ?」


「っ!」


シルバは穏やかに目を細めた。その優しい視線に全てを察し、けれど同時に自分の事を想ってくれる人達の温かさを知りファイは嬉しそうに頬を緩めたのだった。


「とりあえず俺は街に戻る。色々と他の騎士に任せてきてしまったからな。やらなくてはならない事が多い」


「そうか。……ありがとな、シルバ」


「礼ならその二人に…って」


「おわっ!?」


去ろうとしたシルバに恥ずかしげではあったが礼を言ったファイは、次の瞬間後ろへと倒れてしまう。

突然の事に目を丸くしたシルバだったが、目の前に広がる光景を見た途端、表情を崩し苦笑を浮かべた。


「本当に…見ていて飽きない連中だな」


シルバの視線の先、そこには二人分の体重を支えきれず仰向けに倒れたファイの胴を枕に寝息を立てるクロムと心音の姿があった。

穏やかに眠る二人の顔は安心しきっており、どこか幸せそうに微笑んでいた。


「う、重い…」


「しばらくそうしているんだな。」


そう言い残し、シルバは背を向けてしまう。


「え!?ホントに置いていく気か!?」


「冗談だ。クロムの家から毛布でも持ってこようと思っただけだ。

そいつらはお前の為に頑張ったんだ、少しくらい寝かせてやれ」


「……ああ。」


シルバは悪戯っぽく微笑を浮かべると歩いていった。

遠ざかる足音を聞きながら、ファイは恥ずかしそうに顔を赤らめるとポソリと呟いた。


「ありがとう…クロムさん、ココネ」


その時、クロムと心音の口元が笑みに変わる。二人は心地良い眠りへと落ちていった。


────ファームの草原に寝転ぶ三つの影。彼等を夜空に浮かぶ月だけが、優しく見守っていた。


 * *  * *


後日、心音の誘拐事件は黒竜船団(ブラックドラゴン)の襲撃事件として取り扱われた。

一つは城主であるカスラムが心音の存在を知らなかったこと。そして二つ目は心音の誘拐について誰もカスラムに報告しなかったことにある。

騎士が人を攫うなど本来ならば然るべき処罰が与えられていたことだろう。

だが幸いにも今回は大きな事件が重なりすぎた為にこのような結果になった。

指名手配である黒竜船団の襲撃、信頼たる存在の騎士の裏切り、そして妖精舞踏会祭り。

更に城は焼け落ち、街に少数ではあったが被害が出た。領主であるカスラムは其方の対応で手一杯であった。


逃げ遅れた黒竜船団の一味はシルバの指示で街を固めていたシオン達により捕縛され、貴族や街人も全員無事だった。

船により逃亡した黒竜船団のリーダーであるガイラスや手下数名は取り逃がしたものの、竜の尻尾辺りではあるが賊には違いない者たちの捕縛は領主・カスラムもそれなりの評価を与えた。

しかしヒガミヤ街を覆っていた結界は壊れ、ヒガミヤ街は当分の間、結界の無い生活を強いられることとなった。


街に張られた結界は特別な物で、外界からの攻撃を弾き、出入りする場合に危険性のあるものを認識したりと様々な役割がある。

街近くには船の出入りする海や緑豊かな森があり、魔物も多く生息している。そのためどの国でも街や村には結界を張るのが義務付けられていた。

家々を直すのにそう時間は掛からない。けれど街を覆うほどの結界となれば、それ相応の時間と魔力、人員が必要だった。

そんな結界の無い街に残る街人もいれば、近隣の街や村、王都へと移る者と様々な選択をしていた。


それはまた、騎士たちも同様で――――


「ヒガミヤ領担当騎士団、同じく諜報騎士団は後日この地を訪れる王宮魔法師団と共に結界造りの補佐、及び外界の警備に当たってくれ」


「「はい。」」


焼け落ち、瓦礫の撤去作業が騎士たちの手により行われる中、臨時会議室として解放された施設に騎士団や隊の長と副長が集まっていた。勿論、領主カスラムの姿もある。


「守衛騎士団たちは王都の方から、正式に此方に帰還せよと命令が届いていた」


「しかし…このような有り様を前に我々だけ帰還するわけには…!」


カスラムの言葉に立ち上がったのはグランだ。その顔色には疲れが滲んでいた。


「いいんだ、君達はよくやってくれた。それこそ私が今生きているのは君達のお陰なのだから。

復興に尽力してくれたこと、忘れはしない。君達はどうか…気に病まず王都へと帰りなさい」


カスラムの優しげな声音に、グランは為すすべもなく再度椅子に座った。


───あれから一週間が経過していた。


街の復興に騎士たちが奮闘し、徐々に元の街の姿を取り戻し始めていた。

魔法を使える者が多く所属する騎士団の働きもあったが、街の建設関係者の手伝いも大いに貢献していた。また民家の修復を最優先にさせたカスラムの計らいにより、今は城の再建に人員を避けるほど街は回復の一途を辿り、残るは街の結界復元だけ。


――――問題は多々あるが、賊の捕獲により平穏が訪れたと誰もが思っている。


「それから…仮面騎士団 第一部隊」


「はい」


レオナルドが静かに椅子を引き立ちあがると、その側に仕えていたルークもカスラムに視線を向けた。


「君たちも速やかに王宮へ帰還せよ。と、陛下並びに仮面騎士団統括・ヴァン団長より言伝だ」


「分かりました」


レオナルドが深々と頭を下げる。


心音が職業認定証(ファスタル)保持者である事もそうだが、シルバと今回の事で事情を知ったユーリとグラン達の助言により未だ誘拐についてはカスラムに知られてはいない。

仮面騎士団 第一部隊の副隊長であったカイルが裏切っていたことは騎士の皆に知れ渡っていた。

仮にも騎士という立場でありながら敵に主を売ったことはとても許されることではない。

カスラムにもいずれ伝わる事だろうと思っていたが、先にその上、ファスティアス国王並びにレオナルドの上司である仮面騎士団総隊長ヴァンに報告した者がいたようだった。


国王はカスラムに詳細は知らせず『帰還せよ』と第一部隊に伝える命令だけを下した。

だがその命令を受けたレオナルドや第一部隊の面々、そしてこの事件の裏を知るユーリやグラン達には命令の本当の意味を感じ取った。

事件を起こし“裏切り”という行為をした副隊長の事を見抜けなかったとして、隊長であるレオナルドと仲間である隊全員に帰還後、適切な処罰を言い渡すと。

それが分かっているからこそ、レオナルドは素直に命令に従う事にしていた。勿論、ルークや部下の面々も同様に。


「これにて今日の会議は終了とする。…王都から魔法師団が到着するまで三日、それまで街の為に守衛騎士殿、仮面騎士殿。よろしく頼む」


「「はっ。」」


カスラムが改めるように皆の顔を見回し頭を下げた。それに応えるように騎士たちは皆立ち上がると敬礼を取った。


 部屋から出ていくカスラムを見送ると、騎士たちは深く息を吐いた。

直後ユーリは椅子に腰かけると椅子の背に寄りかかり、グランも同様に腰を掛ける。その対面にいたユクンも腰を掛けると机に組んだ手を置き、その隣ではレオナルドが立ったまま椅子に手を掛けていた。

長方形のテーブルを囲むように座っていた両側の面々を見つめ、カスラムと対峙する位置に座っていたシルバは椅子をテーブルの下に戻し唯一ある窓の外を見つめていた。


「これから忙しくなるな…」


開口一番にそう言ったのはユーリだった。それを機に皆が心の内の想いを吐露し始めた。


「被害は少なかったとはいえ城は半壊。街を覆う結界が壊れた以上、街人の避難は回避できまい」


「でも残る人もいるんだろう?そういった人達はどうするんだ?」


ユクンの方へ顔を向けたユーリの問いには側に控えていたマリアが答えた。


「騎士が臨時施設として仮眠や食事などの生活拠点としている場所で炊き出しを行うことが検討されています。」


「そう、だな。王都や近隣に親戚がいてそっちに移り住むっていうならいいが、家族も親戚も皆この街の者なら他に行く当てもないだろうし…それが良いな」


その呟きに対しユクンの後ろに控えていた諜報騎士団副団長 フォルマ・ベスターが口を開く。


「というより、その方法しかないと思います。この被害を受け食料などの物資を運んでいた港の船も、渡り歩く商人もこの街には訪れないでしょうから」


「フォルマの言う通りだ。」


ユクンとユーリ達の会話はこの街についてだった。彼等はヒガミヤ領担当の騎士団だ、何があろうとこの街から離れることは無いだろうし、彼ら自身この街を護るのが自分たちの仕事だと理解している。

あの日以来、街を奔走する彼らの姿は街人に希望をもたらしていた。

それを知っているグランとシルバは少し笑みを浮かべると口を開く。


「俺たちも王都に帰るまでは力を尽くす。だがそれだけでは足りないのであれば、俺からも国に掛け合い必要物資を此処へ送ってもらえるよう頼んでみよう」


「カスラム様に対する国王陛下の信頼は厚いと聞く。心配せずとも国はこの街への援助を惜しまないと思うが、俺からも少し人員を割いてもらえるよう騎士団に掛けあおう」


「おう、ありがとな………」


はにかんだように笑うユーリだったが、次第にその表情が沈んでいった。


「でもグランは…三日後には王都に帰っちゃうんだよな…」


グランたち守衛騎士団は元々王都を守護する騎士であった。だが王よりヒガミヤ領を守護するよう言い渡されこの街に滞在していた。


「今更な事を…。グラン殿は初めこの街に居なかったのですから。それに彼ら王宮騎士団は指令が下れば例え辺境の地だろうと行かなくてはならないのですから」


「ユクンは相変わらず冷たいのな」


「何っ!?」


ぶすっとした顔でユクンと言い合いを始めてしまったユーリを温かな目で見ながら、グランはシルバに聞こえるように呟く。


「あいつらも変わらないな。此処について早々ユクンは真面目で…いや真面目過ぎて、ユーリは対照的にフレンドリーでその上能天気な発言も多かったりサボり癖もあってな」


「これが騎士か?…と何度思ったことか」


「はは!確かにな!」


シルバの言葉にグランが豪快に笑う。


「だけど此処に来れて良かったと思うよ。ユーリに…ユクンに会えて良かった、カスラム様も良い方だしな」


「そうだな……同意する」


未だ言い合いをするユーリとユクンを止めようと間に入る副隊長二人を見つめ、グランはこの光景をずっと見ていたいと思っていた。

王都へと戻れば此処へは戻れないかもしれない。例え戻れたとしてもいつになるかは分からない。

グランは目に焼き付けようと思っていたのかもしれない。


「何笑ってんだよ、グラン!」


そこへ少し苛立ちを含んだ声でユーリがグランに詰め寄る。


「別にユーリの悪口を言っていた訳じゃないぞ?」


「そうだ。グランはお前が能天気でサボり癖のある奴だなんて一言も言っていない」


「おい!?シルバ!?」


「グランそんな事を言ったのか!!」


ユーリがグランに掴みかかればそれをニヤリとした笑みを浮かべ見つめるシルバ。その後ろでは驚いた表情をして動けないシオンとカシック。

殴り合いが始まりそうな雰囲気にユクンが怒鳴り、マリアとフォルマは既に諦め溜め息を吐いていた。

そんな光景を眺め、レオナルドは笑い声を上げ、ルークは笑うのを必死に堪えていた。


皆、連日の復興作業に疲労の色を隠せずにいた。緊張感を常に保ち、自分たちの中にある少しの不安すら表に出すことなく仕事をこなす騎士たち。

けれど今この時だけは、皆の心に安らぎが溢れていた。


「そういえば…!」


じゃれ合いに一段落着いた時、ユーリが思い出したとばかりに手を打った。


「どうした?」


グランの問いは皆も同じだったので、全ての視線がユーリに集まる。


「実は今日、来てるんだよ」


「誰がです?」


ユーリに面会の予定のある人物などいなかったはずだと、副団長であり団長・ユーリのスケジュールを把握しているマリアが訝しげに首を傾げていた。

そんなマリアを制し、ユーリは皆から一歩引いた位置に佇んでいたレオナルドに視線を向けた。


「お前が帰る前に、絶対に会っておかないと後悔する相手だよ」


含みのある言葉に息を呑むレオナルド。その隣にいたルークもまた、その相手が誰だか分かったのか無意識に拳を握りしめていた。


(ユーリの奴…いつの間にそんなことを?)


このメンバーの中では一番その“相手”と接した時間が長いと自負していたシルバは、少し胸の辺りがモヤモヤしていることに気付く。

けれどそれは一瞬で、すぐに何も無かったかのように落ち着いた。


「で…本当に誰なんですか?」


大体の察しがついているグランとユクン以外の主に副隊長たちは不思議そうにユーリを見ていた。

そんな中カシックがそう問い掛けると、ユーリは演技がかった動作で足を組み、片手を動かし真っ直ぐにビシッとカシックを指さした。


「今、君の家に居るようだよ。カシック・ジンセット君」


「へ??」


カシックの口から間抜けな声が漏れ、皆はカッシクの家を思い浮かべた。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字などありましたら、お知らせください。


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