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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅲ章 仮面騎士団とフェアリーダンス
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ⅩⅣ かけがえのない存在

心音が光に包まれ消えるのを確認した後、シルバは無事に帰還したユーリの肩に手を置いた。


「後は任せる。俺はファームに向かう。必要に応じては、第二部隊の面々も好きに使ってくれ」


「あっ、待てよシルバ!」


颯爽と歩き出してしまったシルバに、ユーリは彼の持つバッグに目が留まり尋ねる。


「ファイくんはどうした?あの、ココネって子はちゃんと助かったか?」


「……。」


どう説明したらいいのか。シルバは直ぐに答えることが出来ず間が空いてしまう。

それを訝しんでか、それともシルバから伝わる言いようのない不安感を読み取ってか、ユーリは眉間に皺を寄せると不安げな声音で言葉を紡いだ。


「無事…だよな?」


「……。ああ、無事だ」


力強く頷き、シルバは答えた。

それはシルバ自身がファイの強さを、そして心音やクロムの想いを信じて口にした言葉だった。

今降る雨や、今何が起きているのか状況を把握していないユーリは、それでもシルバの言葉に安堵した表情を見せた。それはユーリがシルバを信頼している証だった。


「そうか。…なら、第二部隊の指揮は一時俺が預かる。行ってこい、シルバ」


「ああ。」


背を叩き、シルバを送り出そうと笑みを浮かべる。

そんなユーリにシルバも少し笑みを見せ返事を返すと、降り注ぐ雨に逆らうように空へと舞いあがった。


「シルバは行ったのか」


「ああ。何が起きてるかって言わなかったけど、シルバなら大丈夫だろ」


ユーリとシルバのやり取りを見ていたグランが近づき、ユーリの肩に手を置く。


「シルバは仮面騎士団の騎士として、俺たちと抱えているものが違うからな…」


「ああ。だから俺たちは、アイツが帰って来た時少しでも楽になれるよう頑張らないとな」


二人の視線の先には、既にファームに向けて遠くを飛ぶシルバの姿があった。それを最後にユーリは一つ深呼吸をすると、背後にいたレオナルドに視線を向けた。


「俺は俺の出来ることをする。色々とけじめはつけないといけないだろうが、今は騎士としての仕事をしろよ…レオナルド」


「……。」


ユーリの言葉が意外だったのか、レオナルドは目を丸くする。

そんな彼の横を通り過ぎると、ユーリは控えていた騎士や兵士に指示を与えていた。


「そうだな。まずは残っている火や瓦礫の始末、そして避難した住民や貴族さんたちへの怪我の手当てやらだな…ちゃんと手伝えよ、レオナルド」


「え…」


グランもまた大きく伸びをした後、気合を入れるように両拳を打ち鳴らすとレオナルドの肩を叩きユーリの傍まで歩いて行った。

罪は罪だ。償わなければならないのは確かだった。ましてや同じ騎士団を裏切るような行為をしたにも関わらず、今まで通り…とは言わないがそれに近い態度を取られ、レオナルドは唖然とした様子でその場に立ち竦んでいた。


「レオナルド隊長」


そこへ一人の少年が近づく。

灰色の髪が特徴の彼は先程、炎に包まれる城の中をシルバの召喚狼と共に進み、レオナルドや領主カスラム達を助けるため導いた者だ。

それは罪滅ぼしにも取れるようで、レオナルドは話しかけることは愚か、目を合わせることすらしていなかった。

愚かな隊長に従い、愚かな行為の片棒を担いでしまった少年。それでも彼・ルークはレオナルドのことを『隊長』と呼び、笑みを浮かべながら近寄り、レオナルドの前に片膝を着いた。


「城から離れた南方面に民たちを避難誘導させたと、第二部隊から連絡を受けました。第一部隊の何名かは既に其方で治療や食料の配布などを行っております。

レオナルド隊長、残りの第一部隊の面々はいかがいたしましょう」


「……俺に命令する資格は最早無い。各自自分の判断で行動すればいいだろ」


冷たく言い放つレオナルドに、ルークは俯かせていた顔を上げ、真剣な双眸をレオナルドに向けた。


「恐れながら。我らの隊を率いる長は、レオナルド隊長以外におりません。我らが真に忠誠を誓っている隊長はレオナルド・シルフレント殿。貴方しかいないのです」


「!」


ルークの真摯な言葉に、レオナルドは息を呑む。しかしルークはそれに構わず続けた。


「第二隊長に言われました。部下は必ずしも隊長の命令に従う義理など無いと…」


「だったら、俺の命令など仰ぐ必要はないだろう」


「いいえ…。ダメなんです、俺」


「…?」


急に声音を押さえたルークの声は、雨音によって遮られる。

もう一度、何と言ったのか問おうとしたレオナルド、ルークの表情を見てその口を閉ざす。


「従う理由が正当なものなら従えばいい、もし正当ではなく間違っているようなら止めればいい。そうシルバ殿に言われましたが…俺にとってレオナルド隊長は、そんなことはどうでも良いくらい尊敬しているんです」


今にも泣き出しそうなのに笑う年相応の顔。それはレオナルドも初めて見るルークの素の表情だった。


「命令が例え間違いでも…そう自分で思っていても、レオナルド隊長の期待に応えたい。そう、思ってしまうんです」


「っ!」


ルークの言葉が、レオナルドの胸に響く。


「他の連中も俺と同じような考えを持っていました。今回の件も、正直な気持ちを言えば……とても怖くて、苦しくて、嫌で嫌でたまりませんでした。

それでも!罪を償い、また隊長と騎士団の騎士として共に働きたいと、今、率先して救助活動に取り組んでいます!だから…隊長。……俺たちと一緒に、また騎士としてこの街を、国を、護ってください」


「ルーク…」


無礼なのは重々承知していると言いたげに立ち上がり、ルークはレオナルドへと手を伸ばした。

そしていつの間にか赤くなるまで強く握りしめられていたレオナルドの拳をそっと解き、ルークはその手を両手で包み自身の額に当てた。


「…“仲間”が…愚かな行為をしたのなら、間違いだと思う行動をしてしまったら。それを止めるのが仲間なんです」


「仲間…」


「はい。隊長が道に迷われたのなら、差し出がましかろうが…俺が全身全霊を持って止めてみせます。それが部下である俺の役目ですから」


額から手を放し、ルークはレオナルドに微笑みかける。

その表情はレオナルドが知る冷たく冷酷な、意のままに動く人形のような部下の姿ではなく、とても温かい『人』のそれだった。


(それが部下の役目、か…)


「お前…実は超がつくほど馬鹿なんじゃないのか?」


「どう思われていようと構いません。俺がついていくのは隊長だけです」


「っ!……ホント、馬鹿だなぁ…ルークはっ!」


「え!?」


ルークに握られていた手を彼の頭に置き、ぐしゃぐしゃになるまでルークの髪をかき乱す。

止めて下さい!と抗議するルークからはレオナルドの足しか見えない。

けれど遠くから見守っていたユーリ、グラン、ユクンにはハッキリと見えていた。レオナルドが悲しそうに、苦しそうに涙を流し、けれど嬉しそうに頬を赤く染め笑っている姿を。

雨で涙を隠しながらも、レオナルドは泣き笑い続けた。


(すごく…心が温かい)


ルークの言葉は、レオナルドも口にした言葉だった―――『部下』の過ちを止めるのは『隊長』は役目と。

救えなかった『仲間』である副隊長のカイルへ告げた言葉。それを同じような意味で似た言葉で表したルークに、自然と笑みと涙が浮かんで止まらなかった。レオナルドは、改めて自分が犯した罪の大きさを知った。

しかしこれからどんな処罰を受ける事になろうとも平気だ、とレオナルドは決意を固め不安は無かった。

今は姿無きシルバや心音、そしてヒガミヤ領の面々にきちんと謝罪をしようと心に決めた。


「演技だったとしても、心音を売ろうとしたことは本当だった。それは認めますか、レオナルド・シルフレント」


ルークから手を放したレオナルドに、オッドアイの青年が歩み寄る。

今まで気付かなかったが、彼の放つ気高きオーラに今更ながらレオナルドは息を呑む。そしてゆっくりと口を開いた。


「認めるよ。カイルの事があったとしても、俺の本心が混じってた。ホント、愚かなことだ。全部カスラム様や国王陛下にお伝えし、厳選なる処罰を待つよ。ルークたちと共に街の復興を手伝いながらね」


今まで見せたことの無いキリリとした表情に、ルークは笑みを浮かべると頭を垂れた。


「俺も…隊長と共に処罰を待ちます」


「…はあ。貴方にはもったいないくらいの部下ですね…ですが、私は国王とは違います」


ルークとレオナルドを交互に呆れたように見た後、青年はスッと目元を細めると冷たい視線をレオナルドに向けた。


「心音を危険にさらし、傷を負わせ、怖い思いをさせ、今彼女を命の危機にさらそうとしているこの件。それを起こした貴方を、私は許すことが出来ません。」


「なら、どうすれば償いになるのかな」


きっぱりと告げる青年に、レオナルドも覚悟をしたように青年を見つめ返した。


「貴方が…命を懸け、心音を救ってくれるというのであれば許しましょう。それこそ、こんな事件は端からなかったことにだって出来る。」


「どういう、ことだい?」


「つまり、罰も無く、国王に知られることもなく、仮面騎士団として働けるという事です。私の条件を呑めば…ですが」


ニコリと口元だけ笑みを浮かべた青年に、レオナルドの背を冷や汗が流れる。

激しくなる雨の中、青年と対峙するレオナルドとルーク以外は、まるで青年たちが見えていないかのごとく素通りしていく。


「君は…いったい」


「どうしますか?…レオナルド・シルフレント。」


怪しげな笑みを浮かべた青年に、レオナルドは少し考える素振りを見せた後、真剣な表情で青年を見つめ返し口を開いたのだった。


 * *  * *


「ココネ!」


突然のことに驚きを隠せないでいた心音の元に、抱えるほど大きな青い球体を抱えたクロムが駆け寄った。

第三エリアは大きな湖の事を指すが、第四エリアの花畑とは隣接しているため境になる目印は特にない。統合されていると言っても過言ではないその二エリアの上空だけに、城と同じ黒い雲がかかっていた。

雲やファームに広がる重々しい気配を肌で感じ、心音は駆け寄ってきたクロムを不安げに見た。


「クロム…ファイは助けられるよね?大丈夫だよね?」


「落ち着いて。心配ない、必ず助ける」


クロムの落ち着いた声に心音も落ち着きを取り戻す。

そして気になるのはクロムの抱える球体だった。青々とした宝石のような球体は、長く見続ければ心も魂すらも奪われそうな深い深い海のような色で輝いていた。


「それは…」


「ウォルンの…あの龍の心臓だ」


「え…」


クロムはそういうと球体を地面にそっと置いた。

未だクロムの言葉に衝撃を受け固まっていた心音は、球体をそのままに湖へと歩いて行くクロムを慌てて追いかけた。


「し、心臓って…じゃあ、あの龍はどうして生きているんですか!?」


「さっき言ったよ。この世界の者は皆魔力が命の源なんだって。それは召喚獣、動物だち生き物も例外じゃない。けれど獣たちの中でも特殊な“魔獣まじゅう”と呼ばれる獣たちは、魔力その物で生きている」


「え、えっと…」


唐突に難しい話になり、心音は理解しようと首を捻る。そんな彼女を尻目に、クロムは湖の水をいつの間にか手にしていた試験管のような透明な筒で掬い、また球体の方へと戻っていった。


「召喚獣はその魔獣、魔物とも呼ばれる存在だ。簡単に言えば、魔獣は魔力のみで生きていける。つまり…『心の蔵』無しでも生きられるという事だよ」


「っ!」


心音が息を呑んだ瞬間、クロムは先程掬った水をウォルンの心臓・青い球体にかけた。

波紋を玉全体に広げ、水は染み込んでいく。球体の中では海のように波が起こり、まるでもがき苦しんでいるかのように激しく揺れる。

その様子を静かに見つめていたクロムは、振り返るようにして体を背後に立つ心音に向けた。


「今からやるのは『再契約の儀』だ」


「再契約の儀…?」


「うん。それを行えば、必ず助けられるはずだ」


「!…私に出来ることがあるなら――――」


何でもする、そう答えるつもりでいた。けれど心音は冷たく、感情の無いようなクロムの初めて見る瞳に知らず体を強張らせ、口を噤んでしまう。


「けれどこの儀を行うには、代償として…失ってしまうものあるんだ」


「そ、れは…?」


無意識に震えた声を出す心音に、クロムは悲しげに目を伏せると小さな声で呟いた。


「ココネ。……君の世界への帰路だ」


「え―――――」


自分の命と引き換えに。そんな風なものはファンタジー小説や物語ではありがちだ。心音もそんなことを言われると身構えていたのだが、クロムの言葉を理解するまでに数秒掛かった。


「帰路…。それって、私が元の世界に帰れなくなる…ということですか?」


確信を持ちつつ問えば、クロムは頷き返した。

心音には儀式を行う事と自分の帰り道が関わる意味が分からなかった。けれど迫られる選択は自分の帰路かファイの『命』。心音は迷いなく、既に胸の内で答えを出していた。


「やりましょう、クロム。私が帰れなくなるくらいでファイが助かるのなら…、命が救えるのなら迷うことは無いです」


「ココネ…」


(自分で言いだしておいてこんな風に思うだなんて…っ)


クロムは心音を犠牲にするような罪悪感と、彼女の性格や意志の強さを知る者として断れぬような選択を与えてしまった事に胸を痛めた。

それでもクロムは勿論、心音にとってもファイはとても大切な存在なのだ。


「分かった。手順は僕が教える。…ファイを救うよ、ココネ!」


「はい!」


罪悪感を振り払い、クロムは儀式に集中するため前を見据えた。その視線に応えるように、心音も大きく頷き返したのだった。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字等、ありましたらお知らせください。

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