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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅲ章 仮面騎士団とフェアリーダンス
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Ⅻ 召喚魔法

崩れそうな部分や炎の強い場所は避け、城の中を進んで行く心音たち。

城内の有様に、火の勢いは弱まるどころか範囲を広げているように見えた。


「“水よ…わ……た………っ!!”」


すると誰かが呪文を唱える声が聞こえ、グランとシルバが立ち止る。

その後ろを歩いていた心音とファイも歩みを止め、耳を澄ました。


(あ…!)


「火の進行を何としても、食い止めろ!カスラム様たちをお救いしなくては!」


「はっ!!」


視線を廻らし、心音は先程の噴水があった中庭と同じような造りの庭に、水を操る数人の男性を見つけ駆け出した。


「ココネ!?」


突然走り出した心音に続き、先にいる男たちに気付いたファイ達も駆け出す。

身に纏った白いローブは煤だらけの彼らが、それでも大量に操る水はカーテンのように城壁に沿って広がっていった。しかし炎を消すことは出来ず、ただ城の中に炎を閉じ込めているだけのように見えた。


「ユクンッ!」


数人の男性たちの中で極めて存在感を放ち、尚且つ一番大きな水の柱を操る人物に、グランが片手を上げながら近寄った。

ユクンは片手を城に向けながら、顔だけをグランに向けるとそのまま後ろにいる心音達を見つけ嫌味な笑みを浮かべた。


「城の一大事にシルバ殿はどこをほっつき歩いているのかと思えば…女、ですか」


「………。」


ユクンの嫌味には答えることなく、シルバは水の壁と城を見上げた。また「女」といわれた心音も話を聞いていなかったのか、目の前の水の壁を見つめながら何かを考え込んでいた。


「本当に魔法が効かないんだな」


ポツリと呟いたシルバの言葉の通り、水は城の炎と反発するようにして、城から弾き出そうとするため水が城に入ることすら出来ていなかった。そして炎が水に触れても消えることも、弱くなることもない。言うなれば魔力の無駄としか言いようのない状況だった。

しかしそのことは解りつつも、ユクンは魔法を使っていたのだった。


「魔法が効かないから、なんだと言う。…炎を抑えることはできるのだ、今はこれくらいしか――――」


「そっか!そういうことね!」


ユクンが悔しげに顔を歪め言った言葉に重なるように、心音の大きな声が響いた。

その声に誰もがぎょっとしたように、心音に視線を向けた。

だが一人、ユクンだけは忌々しげに苛立ちも含んだ視線を向けた。


「……。何なんだ、その女は?」


「ココネだ」


「そんな返答は求めていない」


「なら、どんな返答をしろと?」


「そんなものは知らん」


(何なんだ…この二人)


両者共に自分の言葉でしか会話しないため、単調な会話が続く。

それを呆れたように見つめていたファイは、次いで隣でやけに活き活きとした表情を浮かべるココネを見た。


「それで?何がそういうことか、なんだ?」


「この炎を消す方法だよ。」


「!?」


ユクンが目を見張れば、シルバやファイ、グランも目を丸くする。

その視線を浴びつつ、心音は周りを確認するように見渡し、ある一点でその視線を留めた。


「魔法で火を消すんじゃなくて、普通の水で消せば消えると思うの」


先程心音たちがいた場所と同じ造りの庭、ということで同じ様に噴水が存在していた。

心音は近づくと、手皿で水を掬い、地面に飛び火していた小さな炎へとそれをかける。

すると水を受け、炎は音を立てて消えたのだった。


「ほらね?」


「火が消えた!」


「…火に魔封じが施されているのなら、魔法で創り出した水では消えなかった。ということであれば納得だな…」


ファイとグランが驚いたような声を上げるなか、ユクンは険しい表情を浮かべると心音に近づいた。


「確かに消えた。しかし、この城一つを覆う炎を手作業で消せというのか?」


「それは…。」


言いよどむ心音の態度に、ユクンは考えていなかったと判断し、背を向けた。


「何も考えずして、異世界の者が安易に口出ししないでもらおう」


(この人…私が異世界人って、気付いてたんだ)


「おい!そんな言い方ないだろ!」


「待って、ファイ!」


掴み掛かろうとしたファイを、心音が止める。

ファイは止めた心音を振り返り、彼女の表情が悔しげに歪んでいるのが目に入ると、大人しく手を下ろした。


「確かにどうすればいいか…分かりません」


「はっ、やはりか。これだから異世界人は…」


「でも、何とか火を消す方法を考えます!だから…!」


「もういい。部外者は口を―――」


「消せると分かったんだ。それはコイツの御陰なんじゃないのか?それに方法は本来俺たちが考えなくてはならない問題だろう?」 


悔しげに俯く心音の肩に手を置き、シルバがユクンと対峙する。

その表情は、まるで挑発するように不適に笑んでいた。

滅多に笑みを見せないシルバを知るユクンは、彼の笑顔に驚愕の表情を浮かべた。


(シルバ殿が、笑った?…それよりも、彼は今彼女を助けた?)


「シルバの言う通りだ、ユクン。消せると分かっただけ、彼女には感謝しなくてはだろ?」


「しかし…時は一刻を争うのですよ?」


「だからこそだ。こんな言い争いをしていても、火の進行は進むだけだ」


「っ…」


グランに肩に手を回され、考え込んでいたユクンは心音を見つめる。

その視線を受け、おどおどしてしまう心音だったが、肩に置かれたシルバの手から伝わる体温に落ち着きを取り戻しユクンを見つめ返した。


「そう、ですね。少し言い過ぎたのかもしれない…異世界人よ、謝罪する」


「い、いえ…」


素直に謝罪したユクンに表紙抜けするも、心音は彼の焦る気持ちを悟り静かに首を横に振った。

しかしユクンの言う通り心音の御陰で火は消せることは解ったが、肝心の目の前にそびえ立つ大きな城を覆うほどの火を消す方法は中々思いつかず、そこにいた誰もが焦りの色を浮かべた。


「魔法を用いず、水を掛ける方法…か」


「そもそも魔法無しに水を動かすなど…」


ユクンとグランが考え込むように俯けば、周りにいたユクンの部下たちの顔にも焦りや不安の色が浮かび始める。


(日本では消防車のホースで水を掛けることができるけど…この世界にそんなものはないよね)


ユクン達と同様に考え込む心音は、ふと空を仰ぎ見た。


(こんな時、雨でも降ってくれたら…っ。…ん?…あ!)


「ねえ、シルバ!」


「なんだ?」


「魔法で『雨』を降らせることは出来ないかな?!」


「雨…」


勢いよく頷く心音に、シルバは考えるように顎に手を当てると、横目でファイに視線を向けた。

その視線に気づきビクッと体を反応させたファイは、次いで苦しそうな表情を浮かべた。

しかし真剣に目の前の炎を何とかしたいと思っている心音の姿を見て、ファイは苦しげな表情を崩し深く息を吐いた。


(ココネを護るって言ったのは、俺だしな)


「ココネ、俺が何とかしてやるよ」


「ほ、ホント!?」


ファイの声に嬉しそうな表情を浮かべ視線を移した心音は、彼の顔を見た瞬間ハッと息を呑む。

何かを覚悟したような、けれどとても苦しそうに…ファイは笑みを浮かべていた。


「ファ―――」


「ユクン、グラン。そして騎士たちよ」


心音が伸ばした手をすり抜け、ファイが噴水へと近づいた。

それと同時にシルバがその場にいた者たちに圧を掛けるが如く低い声音で言葉を紡いだ。


「これから起こることは他言無用だ。…頼む」


深々と腰を折るシルバに、誰もが驚きを隠せなかった。

仮面騎士団マスカレードの隊長として威厳があり、簡単に人に頭を下げるような人物でないことを長い付き合いであるグランもユクンも知っている。

そのシルバが頭を下げたのだ。勿論口外するつもりはないが、彼の態度にこれから何が起こるのだろうとその場にいた誰もが息を呑んだ。


「…クロムさん、約束を破ります。すみません…」


誰にも届かないような小さな声でそう呟いたファイ。けれど心音だけにはその言葉が耳に届いていた。


(約束を破るって…何?まさか、ファイ…何かやりたくないことをしようとしてるの?)


「ファイ、待って!!」


噴水に手を翳し集中し始めたファイに心音は駆け寄る。

けれどその瞬間ファイと心音の間に金色の何か壁のようなものが光を放ち出現する。それに阻まれた心音は弾かれるように後方に吹き飛んだ。


「きゃあっ!?」


「危ないだろ!」


吹き飛ばされた心音は、意外にもユクンが受け止めた。

しかしユクンは心音を放すことなく、そのまま立ち上がった。


「放してください!ファイを止めなくちゃ!」


「いい加減にしなさい!魔法詠唱中に割って入るなど、貴女は死ぬ気ですか!!」


ユクンの声に諌められ、心音は大人しくファイを見つめる。

すると壁と成っていた光がファイを包むようにして周りを囲むと、噴水の水まで金色に染まる。


「“我は亡国王に仕えしつるぎの主にして、第三の鍵を管理せし者なり”」


ファイの声に反応するように金色の魔法陣がファイの足元に広がる。


「まさか…召喚魔法ですか!?」


「あんな小さい身体してんのに…凄い魔力だな」


ユクンとグランが、空気を震わせるほど強大なファイの魔力に関心したような声を上げる中、ファイの詠唱は続く。


「“管理者の権限により今『第三の扉』を開かん!”」


――――カチャンッ…


(え…?)


ファイの言葉と共に、心音の耳に錠の開く音が届く。

それはとても大きく重い扉の『金』の錠。並べられた六つの扉に囲まれるような場所に立っている感覚に襲われた心音は、ぎゅっと目を瞑った。

けれどその重苦しい雰囲気は離れることなく、彼女の周りに纏わりつくように『扉』は静かに聳え立つ。


「何、これ…っ。」


暗い闇の中に独り佇んでいるかの如く、恐怖が心音の胸を占めた。

しかしそこで『金色の光玉』が上から降ってきた。

それはある扉の前に止まると、開かれた錠を壊し、扉を開け放とうとする。


「“を護るは水を制すもの。湖に力を与えしものは水神みずかみの。我の呼びかけに答え、眠りし神獣よ姿を現し、此処に雨を降らせよ!!”」


(ダメ…それを開いちゃ…。ダメだよ…ファイっ!!)


「どうしました?」


自分の腕の中の心音が頭を抱えるように蹲っていることに気付いたユクンが、覗き込むように心音を拘束していた腕を緩める。

しかしそれを見たシルバが途端に目を鋭くさせたかと思うと、ユクンの肩を掴もうと手を伸ばす。


「ユクン!ココネを離すな!!」


「え…」


「やめてー!!」


シルバがユクンの肩を掴む寸前、心音は叫び声を上げると詠唱を続けるファイへと駆け寄った。

その背にシルバはユクンへと伸ばしていた手を伸ばし、彼女のドレスを掴もうとした。

しかし心音にその手は届かず、心音はファイのいる魔法陣の中へと入る。


「“出でよ!『水神龍・ウォルンティシーア』!!”」


心音が魔法陣に入るのと、ファイの詠唱が終了するのは同時だった。

その瞬間、魔法陣は激しい金の光を放つと、噴水の水を纏いながら空に吸い上げられるかのように上っていった。

その水柱に…ファイと心音を巻き込んで―――――



ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字等ございましたら、お知らせ頂けると幸いです。


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