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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅲ章 仮面騎士団とフェアリーダンス
24/50

Ⅺ 救うはいつも…

「それより、早く此処から出ようぜ?また賊が襲ってくるかもしれないし」


ファイのはムッとした表情を浮かべると、心音を自分の方に引き寄せる。

心音はというと、その行動に一瞬不思議そうにするもコクンと頷いた。

そんなファイに構う事なく、シルバは自身の羽織っていた青いマントをさり気なく心音に掛けてやると、後ろを向いた。


「そうだな、急ごう」


そのまま歩き出すシルバに続き、ファイも歩き出す。 しかし心音が一歩も動こうとしないことに気付くと、足を止めた。


「どうしたんだ、ココネ?」


ファイの声にシルバも足を止めると振り返り、心音を見た。その視線を受けながら、心音は迷うことなく言った。


「ねぇ…この人達は、此処に置いていくの?」


その言葉にシルバとファイは驚いたように目を見開いた。


「置いてくって…お前を攫った奴の仲間なんだぞ? お前を傷付けた奴らだぞ!?」


心底分からない、とファイは声を荒げる。 しかし心音はまっすぐにファイ達を見つめると、静かに続ける。


「うん。分かってるよ。…確かに、この人達がまた襲ってきたらって思ったら……怖い」


「だったら、なんで!」


「だけど、悪い人だからって見捨てるなんてこと出来ないよ。私は…そんなことしたくない」


「……。」


心音の真剣さに、何も言えずにファイは黙り込む。だがシルバは深くため息を吐くと心音に近づき、彼女の腕を取った。


「グラン…守衛騎士団員たちに此方に来てくれるよう頼んでみよう。絶対に見捨てない…だから、今は自分の身を案じろ」


「あ…」


「ああ、グランか?実は…」


腕を掴んでいない方の手で心音の頭に手を撫でるように優しく置いた後、魔法念話でグランに連絡を取るシルバ。その姿に心音は魔法念話を知らなくとも、シルバが自分の為に連絡してくれているのだと気付きじーっとシルバの顔を見上げていた。

やがて連絡を取り終えたシルバは、心音の視線に気づき視線を合わせる。


「なんだ?」


「!…ううん。何でも、ない…」


目が合った途端、パッと心音はシルバから顔を反らす。

心なしかその頬は赤く染まっており、シルバは不思議そうに心音を見下ろすのだった。


(…なんか一瞬、心臓が…)


胸に手を当てなくとも聞こえる鼓動は、いつもより早く…それでいてどこか心地よく感じ、心音はその不思議な感覚に首を傾げつつ、頬は徐々に熱さを上げていった。


「とりあえず中庭に行くぞ。そこで合流する」


「う、うん…」


「おう…」


シルバが心音の腕を放し歩き出せば、その後ろを心音と複雑そうな表情をしたファイが続いた。


 * *  * *


城に囲まれるようにしてある中庭の噴水前に出た心音達は、燃え盛る炎が上がる西側を見上げつつ、東側へと歩いていた。


「シルバッ!」


そこへ東側からグランを筆頭に、守衛騎士団員が数人駆け寄ってきた。


「隠れ家から来ていたんだな」


「ああ。グラン、まずは先刻言った通り…」


「分かっている」


シルバの言おうといていることが先程の魔法念話の内容だと分かったグランが、後ろに控えていた守衛騎士団員達に合図を送った。

騎士団員達は了解した。と短く頷き心音達が出て来た方へと駆けていった。


「此処は任せて、シルバも早く避難してくれ。火の手が異常に早くてな…ユクンの水魔法が利かないんだ」


「水魔法が?…ユクンのは確か上級魔法だろう?…何か炎に細工が?」


「ああ、それなんだが…」


シルバとグランが避難状況や火の手が今どこまで伸びているか…などを話し合う中、心音は強くなる炎を心配そうに見上げた。


(外から見たら…こんなにも火が強かったんだ……)


ゴオォ…と凄まじい音を立て、城共々燃え盛る赤い炎。

ラルを助け出した時の事を思い出し、心音は賊に追い詰められ不可抗力とはいえ落ちたことを少しだけ良かったと思った。

しかしそれと同時に、あの炎の中で見た焼け焦げた死体のことを思い出し身震いする。


「ココネ、大丈夫か?」


「え?…あ、うん。大丈夫だよ」


青くなっている心音の顔に、ファイが心配そうに声を掛ける。

けれど心音は心の内にある恐怖を隠し、無理矢理に笑顔を作った。


「ココ───」


「グラン隊長!」


心音の笑顔に何か言いたげな表情で見つめていたファイの声は、賊たちを背に背負った守衛騎士団員の一人にかき消される。

彼らはグランの所までくると、城の内部の情報を報告した。


「城の二階へと続く階段は、此処も駄目です。残るは西側になりますが、火の手が強く先へ進めませんでした」


「分かった。お前たちは先に賊たちを城の敷地の外に。…ああ、目が覚めても暴れないように拘束しといてくれ」


「了解しました」


賊を担いだまま、団員達は走り去っていく。

それを見送り、グランが静かに口を開いた。


「実はまだパーティー会場にカスラム様や貴族の方々が取り残されている。他の階段は全部崩落していて、此処が最後の望みだったんだが…」


「あっ…」


(そうだ…。あの助けてくれた白いタキシードの人もまだ会場に?それと……レオナルドも)


パーティー会場での最後の出来事を思い出し、心音はきゅっと拳を握り締めた。

だがすぐにまっすぐ前を見据えるとグランに詰め寄った。


「あの!…助ける方法はないんですか!?」


「!?…き、君は……あ。もしかして、ユーリと一緒にいた男の子が探していた子かい…っ?」


心音に詰め寄られ、顔を赤くしてたじろぐグラン。

それもそのはず…心音は髪も少し崩れ、顔や手足には煤と小さな傷がたくさんあり、ドレスはボロボロ。

一見、見窄らしい…などという表現が思い浮かぶが、問題はドレスがボロボロという件だ。

即ち…彼女が最も気にしている胸部の部分もはだけるようにして少し見えてしまっていたのだ。

武家出身、それでなくとも訓練などに明け暮れる見るからに体育会系で女性にあまり免疫の無いグランには…それだけで卒倒ものだった。しかし耐える。


「そのユーリって奴も会場にいるぜ」


その時、心音とグランの間に割って入るようにファイが現れ、心音を背に隠す。

そして睨みつけるようにグランを見上げた。


「会場にいた賊共は引き受けるから、俺に心音を探しに行けって逃がしてくれた。

アイツ強そうだったし、無事だと思う」


「そ、そうか…」


ファイの出現に少しホッとしたように息を吐いたグランは一つ咳払いをすると、シルバに向き直る。

その隙にファイは心音に羽織っているシルバのマントを胸元に引き寄せるよう注意をし、心音はそこでやっとファイが庇うように立った理由が分かり顔を赤らめながらマントを羽織り直した。


「ユーリがいるならカスラム様達は無事だろう。しかしいつまでも火の中にいてはいずれ…。だが上へ行く道は───」


『シルバ!聞こえるか!?』


「ユーリ?」


「え…?」


どうしたものかと考え込むグランは、シルバの表情も変えずに言い放った名前に目を丸くし瞬きを繰り返す。


「ユーリ…ってもしかして、魔法念話テレパシーで?」


ファイが問えば、シルバは一度そちらに顔を向け頷く。そして片手を皆に向けるように胸元の高さまで上げると、短く呪文を唱えた。手の平から放たれた銀の光はファイ、心音、グランを一瞬の内に包みすぐに消えた。


『よかった、繋がって』


(あ…これがもしかしてユーリさんって人の声?さっきの魔法念話テレパシーっていうのは、電話みたいな感じなんだ。)


光が消えたすぐ後聞こえた安堵したような青年声に、心音はシルバが皆にも聞こえるようにしたのだと理解した。

魔法念話テレパシーは魔法でお互いの意識に直接話しかけられる便利な魔法だ。しかし魔法念話を使う相手同士しかその声を聞くことができないという弱点があった。

現代で言うならば携帯電話のような魔法である。しかし先程シルバが施した魔法は、術者の指定した人物にも魔法念話の相手の声を聞かせることができるようにする魔法であった為、心音達にも聞こえるようになったのだった。


「ユーリ、今どこにいるんだ?カスラム様たちもご一緒か?」


『その声はグランか?ならシルバは城にいるんだな…。

今、俺はカスラム様たちと一緒に城から脱出しようと下を目指している。……レオナルドと共に』


「なに!?」


「……。」


ユーリの発言に誰もが顔色を変える。ファイは怒りに、シルバは読めないがどことなく怒りの色が滲み、グランに至っては何やら考えるような仕草をしていた。

ただ一人…心音だけは何故かホッとしているようにもとれる表情をしていた。


(……あの人も、一緒なんだ)


心音自身も不思議に思っていた。

レオナルドがしたことをファイたちに言えば間違いなく怒るだろう事をした相手にもかかわらず、心音はレオナルドが無事だったことに少なからず安堵していた。

それは多分…もう人の“死”を見たくなかったから。


(悪いことをした人だとしても…私は…っ。)


心音の体が恐怖で震えだす。それほどまでに、あの炎の中で見た死体は心音に恐怖を植え付けていた。

自分の内にある恐怖。それを認識した心音は自然とシルバに震える手を伸ばしていた。

けれど彼の現状回復への真剣さと、心音の過去のトラウマである「また、裏切られてしまう」という固定観念に、彼女はそのまま手を静かに下ろした。


「それで、今は城のどの辺りなんだ?」


「っ…。」


ぎゅっと、心音の下ろされた手が強く握られる。

驚いて顔を上げた心音は、ユーリに話し掛けながらも自分の手を握るシルバの横顔を見た。

そこには変わらない真剣な顔。けれど繋いだ手から伝わるシルバの温もりに、心音はふとさっきまでの恐怖感が消えていることに気づく。


(最初に会った時も、今も…シルバは、どうして私をいつも救ってくれるんだろう。私は…どうしてこんなに人を疑ってしまうんだろう)


シルバの手を握り返し、心音は改めて自分の嫌な部分を見つめた。

『変えたい』―――今までも思ったことはあった。けれど心音は今なら…シルバやファイ、クロムのいる此処なら、変われるのではないかと決意を固めた。


『今は東側五階の階段前にいる。これから四階に移動しようと思うが、いつ炎に囲まれてもおかしくない程に東側も火の手が回っている。至急救援を頼む…レオナルドの件は脱出してから詳しく話すよ』


「分かった。しかし此方も上の階に行きたいのだが、階段が崩落していて進めない。とりあえず俺たちも東側に向かうが―――」


「それなら心配ない。東側の階段が崩落する直前に召喚狼・第二“攻”と…適任者を会場の方に向かわせた。…今頃、だいたい四階辺りにいると思う、合流してくれ…ユーリ」


『え?…わ、分かった。』


戸惑い気味に答えたユーリは、次いでふっと笑みを漏らした。


『さすが、シルバだな。また何かあったときは連絡する』


それだけ言うとユーリからの魔法念話は途切れたのか、辺りには城の燃える音だけが響いていた。


「適任者を向かわせたなんて、初めて聞いたが?」


「今、言ったろう」


「ははは!確かにな」


可笑しそうに笑い声を上げるグランに、シルバは表情を変えることなくそれを見つめていた。

その隣で心音は首を傾げ、ファイは呆れたように息を吐いていた。


(さもんうるふ?…って何??)


「その疑問は、後で説明してやるよ」


心音が何に疑問を抱いているのか何となく察したファイは、ポンッと心音の頭に手を置いた。


(…なんか、たまに子供扱いされる気がするのは気のせい?……私の方が年上なのに)


心音がファイとの関係に疑問を持ちつつ不機嫌に頬を膨らませていると、表情から笑みを消したグランがシルバに問い掛ける。


「とにかく、東側へ────」


────ドオォォーーン!!


「きゃっ!!?」


グランが言いかけたその瞬間、心音達の背後で凄まじい爆発が起きた。

西側、五階辺りが激しく燃えており、爆発はそこで起きたものだとシルバとグランは城を見上げながら結論づける。


「側に来い」


「え…わっ!」


グイッとシルバに握られたままの手を引かれ、心音はそのままシルバの胸に倒れ込む。

するとシルバはもう片方の手を空に翳し、無詠唱で防御魔法を発動させた。

一瞬にして銀色の光がシルバ達の周りを包むように広がり、先程の爆発で落ちてきた火の粉や瓦礫を防いだ。


「すごい…」


シルバにもたれかかるようにして防御壁(シールド)を見つめていた心音は、不意に腕を引かれ繋いでいた手と共にシルバから離れる。


「俺だって…あれくらい」


「…ファイ?」


「何でもねぇよ」


腕を掴んだ主・ファイはそう言ったものの、ぶつぶつと何かを呟く。

だが、心音は首を傾げるだけで深く追究しなかった。


(あれ…?)


その時何かに気付いた心音は、噴水の方をじっと見つめた。

火の粉や火のついた瓦礫が噴水の水に落ちた瞬間に、ジュッと音を立て火が消える。

普通なら当たり前の光景かもしれない。だが先程のグランの言葉が蘇り、心音は眉間に皺を寄せ考え込んだ。


(グランさんは確かに…“水魔法が利かない”って言ってた。それって水じゃ火は消せないってことだよね?……なら、なんであの火は噴水の水で消えたんだろう?)


「つい話し込んでしまったが、此処は本来危険区域だ。早く東側へ行こう」


「分かっている」


グランが逃げ道を確認するように東側を見ながらシルバの防御癖から出ると、その後に続くようにシルバが歩き出す。


「ココネ、行くぞ!」


「あっ、待っ…!」


考え込んでいた心音の手を取ると、ファイはシルバの後ろをついて行く。

心音は気になる事が解決しないまま、遠ざかっていく噴水をちらりと見て、ファイの後を歩いていった。





此処まで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字等ございましたら、お知らせ頂けると幸いです。

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