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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅲ章 仮面騎士団とフェアリーダンス
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Ⅷ 仮面の下に潜む野心 Ⅱ

熱い炎の中を顔には煤をつけ、手足は小さな傷だらけ。それでも心音は歩いた。

そしてやっと火の無い場所へとたどり着いた。


「ケホッ…もう、平気、かな?」


かなり体力を消耗しているようで、心音はふらつくと側の柱に手を着いた。


「まだ、倒れたりなんかしないんだから…。…日本人をなめるなよ!」


誰に対して言うでもなく、心音はフードを取ると辺りを見渡した。

前には大きな柱が間隔を空け並び、間にはバルコニーのように心音の腰あたりまでの高さの半円型の低い壁がありその上には窓など無く、外の景色が広がっていた。

後ろにはすぐそこまで炎が迫っており、残る右も左も廊下が続いていたが、右には下へ下りる階段のような物が見え、心音は既に気を失っているラルを抱え直し一歩踏み出した。


(きっと、ファイが私を探してくれてる。…もしかしたら、クロムもシルバもかも)


そんな考えを浮かべる自分に、心音はクスッと笑みを零す。


「前までだったら、自分を探してくれてるなんて思いもしなかった。…だけど今はそう思える」


(私…ファームに帰りたい!)


強く前を見据え、心音は痛む足に構わず進む。しかしそんな心音の前に、立ちふさがるようにして男が何人か階段から上ってきた。

その男たちはボロボロで少し汚れた暗い服を着て、手にはナイフや刀などが握られていた。


(何…この人達…)


心音はゆっくりと後ずさる。しかし男たちも心音の存在に気づき、ニタリと笑みを浮かべゆっくりと近寄っていった。


「っ…!」


心音は恐怖に青ざめ後ろに向きを変えると、一目散に駆け出す。

だがその後を急いで追いかけるかと思いきや、男達は笑みを浮かべたまま歩み寄るままだった。


「…!」


それを不安そうに確認しながら走っていた心音は、前方から来る同じ様な格好をした男達に気づき走るのを止めた。


(…挟まれた)


心音は反射的に少し後ずさるも、後ろからも男達の足音が近づく。

違う道を行こうにも、あと残された道は先程出てきた炎の道だけだった。


「あらら?カワイイ子発見!」


「ドレスボロボロだけど、確かに可愛いじゃん!…ってそのローブ超高級品じゃね?!」


まるでナンパのノリで近寄る男達に、まだ現代人のナンパの方がましだと心音は後ずさりながら考える。

しかし囲むように迫る男達に、心音はトンッと腰に壁の感触を感じ、背には夜風の冷たさが感じられ恐る恐る後ろを振り返る。

そこには外の景色が広がり、下には飛び降りたら助からないだろう高さから見た遠い地面が存在した。


「あ、この子ボスと取引したあの仮面付けた騎士団の奴が言ってた、異世界人の娘ですよ」


「何?ボスの?…そんな娘が何で此処に、ボロボロでいんだよ?」


「そ、そこまでは知らねぇっす」


男達の中でも上の存在だろう厳つい男が、側にいた腰の引けてる男を睨む。


「ただ、あの野郎が望む物をボスがくれてやる代わりに、高く売れそうな貴族や異世界人をくれるって話だったらしいっす」


「っ!?」


男達の話に、心音は合点がいった。

レオナルドの“面白い事”とはこの男達が現れること。そして、この火を放ったのもたぶん彼らなのだと。


(私…また、売れそうになってたんだ……)


心音が思い出すのは、初めてこの世界に来たときのことだった。

その時はシルバが助けてくれた。しかし今は誰もいない。だから自分で何とかしなければと頭では分かっているのだが。

心音はどうしても、体が震えてしまう。


「お、もしかして怖がってる?大丈夫だって!ボスは優しいし、きっと君を良いところに売ってくれるよ…」


「っ!…さ、触らないで!!」


近くにいた男が手を伸ばし、心音の肩に手を置こうとした。

しかし、寸での所で心音がその手を弾くと、男達の態度が一変した。


「女の商品だからって、手を出さないでいたが…図に乗るなよ!」


激高した一人の男が心音に、手を伸ばす。

それを逃げるように側の柱に手を伸ばした心音は半円型の手すりのような壁の上に立った。

一歩でも下がれば落ちてしまう状況に、周りの男達が焦りだす。


「お、おい…早まるな?死んだって良いこと無いぜ?

それにボスの大事な商品に怪我でもされたら、俺達の首が飛ぶんだぜ…!?」


最初こそ心音の身を心配する言葉に聞こえるが、男達のそれは後の自分達の身を心配していた。

それが分からない心音ではない。


「……。こんな世界に…来たくて来たんじゃないのに…どうして、こんな目に遭わなくちゃいけないの?」


(売られるくらいなら…死んだ方がまし…かな)


心音の保っていた心が、音を立てて崩れ始める。

そして彼女は一歩後ろに足をずらす。

それを慌てて止めようと男達が手を伸ばす。

けれどその時、ギュッと抱きしめた手に、ラルの体温を感じ心音はハッとして踏みとどまった。


(…そう、だよ)


「…出会ったら…優しくして貰ったら…忘れられる訳ないじゃない!…一緒にいたいって、思えたんだもん…ホントは死にたくなんか、ないよっ…」


熱を帯びる頬、溢れる涙。

心音の内にはクロムやファイ、シルバの顔が浮かびラルを抱きしめる手を強くした。


「何だよ…脅かしやがって!」


だが心音が踏みとどまった事に対し、怒りを露わにした厳つい男が心音に近づく。

そしてローブを掴むと、心音を引き寄せようと勢いよく引いた。

しかし───


「あっ…」


その力にローブをとめていたピンが外れ、するりと心音の体からローブが離れ、男の手に残る。

そして心音は…バランスを崩し身体が後ろへと傾いていた。


(う、そ…でしょ?)


恐怖や驚愕、青ざめる男達の表情が徐々に遠のき、心音は自分が落ちた事に気づく。


(いや、だよ。…また落ちるの?

今度は本当に…死ぬのかな、私。……ううん、死にたくなんかない!)


心音の脳裏に、神社の階段から落ちた事がフラッシュバックする。

けれどあの時願った“死にたくない”と、今の気持ちが少し違う事に気づく。


(あの時は、ただ死にたくないという自分だけの願望だった。

けれど今は──…クロム達と一緒にいたい!一緒に…此処で生きたいの!!)

 

ギュッとラルを庇うように抱きしめ、心音は縮こまる。

何とか助かる方法はないかと考えを巡らせる

が、落下のスピードに諦めの気持ちが芽生えてしまう。…その時。


「ココネェーッ!!」


金色に光る何かが、心音を追いかけるようにして落ちてきた。

呼ばれた自分の名にハッと目を開いた心音は、その正体に気づき瞳を輝かせる。


「っ…ファイッ!!」


その光…ファイに心音が片手を伸ばせば、ファイも手を伸ばす。

お互いの手が落ちる中しっかりと結ばれると、その手を引き上げファイは片腕で心音を抱きしめる。

そしてもう片方の手に持つ剣を下に突き出した。


「“王剣の輝き(シツァン・ブラスト)!!”」


ファイが叫んだ呪文に反応し、剣の先から金の光がまるで滝のように吹き出す。

それをロケットのように噴射し続け、徐々にその威力を弱め、ファイ達は地面に着地した。


「…ファ、イッ」


ファイにしがみつくようにしていた心音は、やっと出た声でファイの名を呼んだ。

そこには嬉しさ、安堵の意が感じられた。


「っ…ココネ…!」


カランッと剣を落としたファイは、心音と共に座り込むと、両腕でしっかりと彼女を抱きしめた。


「よかった……間に合った…っ…ココネッ」


ファイが心音の胸に耳を当て、鼓動を確かめるようにして、消え入りそうな声で言う。

その背が、ファイを年相応の少年に見せ、心音はあやすように背をさすった。


「ありがとう…ファイ…助けに来てくれて」


「!…当たり前だ!お前はもう…ファームで働く仲間なんだ!家族…みたいなもんなんだよ!

…勝手に、死なれてたまるか!」


顔を上げたファイの目は赤く、少し涙ぐんでいた。

それは心音も同じだったのだが、今は何よりファイに生きて会えた事が嬉しかったのだった。


「いや、待てよ…本当に死んでないよな?幽霊とかじゃ」


「そんな訳ないでしょ!」


冗談なのか本気なのか分からない表情で言うファイに、心音は怒ったようにポカポカとファイの肩を叩く。

それを受け止めるファイは、可笑しそうに笑った。それにつられるように、心音も笑顔を浮かべたのだった。───


「…とりあえず、シルバ達にお前を見つけたことを言わないとな」


「あ…シルバも、探してくれてたんだ」


「は?当たり前だろ。…お前をファームに寄越した張本人なんだ、最後まで面倒みるのがシルバの勤めだろ」


「……何、その…拾ってきた犬や猫的な扱い」


むくれるように頬を膨らました心音を改めて見たファイは小さく息を呑む。

ボロボロになったドレスに、綺麗に結われた髪。ナチュラルだが化粧をした顔には煤がつき、足や手は傷だらけ。

綺麗とは程遠いものの、ファイには心音の初めて見るドレス姿に少し頬を赤く染めた。

そしてこんな傷だらけの姿にしたであろう賊やレオナルドに、ファイは憤りを覚えた。


「そうだった!ファイ、ラルのこと治せる?!」


「え?」


心音の声に怒りを静めたファイは、心音にぐったりとしたラルを差し出される。

一瞬顔をしかめるも、ファイはラルの身体に手を触れ、生きていることを確認すると、心音を安心させるように言った。


「大丈夫だ。これくらいなら、治癒魔法で治せる」


「本当!?…よかった」


ホッと息を吐いた心音は「待ってろ」と言ったファイの手から溢れる金の光に見入った。


(綺麗な金色…。魔力には色があるってクロムが言ってたけど、ファイは金色なんだ)


そしてファイが手を放す頃には、ラルの身体には傷が無くなっていた。


「すごい、治った!」


「確かに外の傷は治した。だけど、中の…つまり血管とか内出血してるところとか傷ついた部分はラル自身が治すから、しばらくは目を覚まさないだろうな」


「そう、なんだ…」


ファイの説明に心配そうに目を伏せる心音。

そんな彼女の額を、ファイは拳で軽くつついた。


「いたっ…な、なにす──」


「大丈夫だ。ラルはクロムさんの契約召喚獣だぞ?損所そこらの召喚獣と違って、強いんだ。…だから、心配すんな」


「う、うん」


(なんか…ファイが優しい?)


ふとした瞬間に、大人の表情をするファイ。

心音は少しだけ…高鳴る鼓動に頬を染めた。


「とにかく此処は危険だ。…早く城の外に出て、シルバと合流しよう」


「うん!」


さり気なく、ファイは心音の手を握り走り出す。

心音はその手を握り返し、やっとファイに会えたのだと、確認するように安心することが出来たのだった。


 * *  * *


パーティー会場に残されたユーリと青年は、初めて会ったにもかかわらず、息の合った攻撃で軽々と賊を倒していた。

剣を持つ相手には剣で。持たない相手には蹴りや拳で。ユーリは騎士団員のため、日々訓練をしているのだが、そんなユーリと同等の能力で応戦する青年にレオナルドの表情が少し変わる。


「お前…本当に何者だ?」


「っ!…アナタにっ!話すっ義理など、ないっ!!」


会話の間に三人を倒す青年。ユーリも負けじと剣を振るう。

しかし次から次へと沸いて出る賊に、ユーリは顔を歪めた。


「くっ、切りがない…!」


そして目を向けたのは倒れる貴族の者達は勿論、カスラムの姿。

青年が張ったと思われる結界により、賊たちがカスラム達に手を出すことは出来ないでいるため、心配はなかったのだが、城が燃えている今ここにずっと居るわけにもいかず、そちらを気にしていた。


(レオナルドが本当に売る気ならば、傷つけはしないだろう。…だが賊がこれだけ居るとなると、避難出来るまで時間がかかり過ぎる…!)


「はあぁ!!」


考えながら戦っていたユーリに、レオナルドが襲いかかった。


「っ!!」


間一髪、ユーリは自身の剣でレオナルドの剣を受け止めるも、上から押し付けられるようにして攻撃され、膝を着きそうになる。

 

「剣でお前が、俺に勝ったこと無いだろ!」 


「く、っあ!」


キンッ!と剣がユーリの手から吹き飛び、回転しながら降下し床に突き刺さった。

見れば、レオナルドは押さえつけていた剣とは別に、左手にもう一本の剣を握っていた。

その剣を下から振り上げ、ユーリの剣を弾き飛ばしたのだった。


「そういえば…お前は二刀流だったな」


ドサッと、押さえつけられていた力がなくなり、ユーリは反動で尻餅を着いたのか苦笑いを浮かべレオナルドを見上げた。

その喉元にレオナルドは、剣先を突きつけた。


「お前は優秀だったよ。…だけど、それだけだ」


「ユーリさん!!」


青年が周りの賊をなぎ倒すと、ユーリに駆け寄ろうとする。

しかしレオナルドがもう片方の剣をユーリの上に振り上げた為、動きを止める。


「どうして、こんな事をしたんだ」


ユーリは静かにレオナルドと視線を合わせる。

そして振り上げられた剣を気にすることなく、語りかけた。


「お前もカスラム様に仕えるファスティアス国の騎士だろう。

街や領に住む国の人々を守る騎士だろう!

悪を断ち切り、正義を貫くのが騎士だ!

それを…何故国を裏切るように賊と手を組んだ!…答えろ、レオナルド!!」


射抜くようにユーリがレオナルドを睨みつける。

そこには同じ騎士として、仲間だったレオナルドを今でも信じている。と語る瞳があった。


「お前は…分かってないよ、ユーリ。…国の闇も、俺の…闇も!!」


ユーリの言葉に耳を傾け、動きを止めていた剣をレオナルドは振り下ろした。

しかし、剣はユーリの横を掠め、床に叩きつけられた。

ハラリとユーリの赤色の髪が何本か落ちる。


「レオ、ナルド…」


目を見開いたまま驚愕の表情でレオナルドを見つめるユーリの顔から血の気が引いていく。そして服には赤い何かが染みていく。

それは喉元に突きつけられていた剣先から伝っていた。


「…な、ぜ…」


掠れた声でそう言ったレオナルドの胸には…後ろから剣が刺さっていた。


「ぐあっあ!!」


「レオナルドッ!!」


剣を引き抜かれ、カランッと二本の剣を床に落とすと、レオナルドの体が傾く。それをユーリが支えた。

胸の傷口からは、止めどなく血が流れる。


「レオナルドッ……っ!貴様は何者だ!」


傷口を押さえ、ユーリはレオナルドを刺した人物を睨みつけた。


「!!…お、まえ…!」


しかしそこにいた人物に、ユーリは目を見開き固まった。

長い黒髪を後ろで結い、同じ色の瞳には光を宿していない冷酷な男。

ユーリもよく知るその人物の正体は…────仮面騎士団第一部隊 副隊長 カイル・ナストアーガだった。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字など御座いましたら、お知らせ頂けると幸いです。

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