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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅲ章 仮面騎士団とフェアリーダンス
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Ⅴ 謎の救世主

「ん…」


心地よく優しい風が頬を撫で、心音はゆっくりと目を覚ました。

見れば自分は上質なベッドの上で寝ており、心音は慌てて意識を覚醒させ飛び起きた。


(此処どこ!?……あ!確か変な仮面つけた人がこっちにきて、ファイの声が聞こえて、それで……あれ?その後は覚えてない…)


少しばかりズキズキと痛む頭を押さえ、心音はゆっくりとベッドの上から周りを見渡した。

天蓋付きのベッドの側には白いチェスト。白色の壁には窓があり、夕陽のオレンジ色を纏ったレースのカーテンが揺れていた。

ベッドから真正面には金の取っ手の白い扉があり、側には心音のポシェットがぶら下がっていた。


「クロムの家じゃない…だとすると」


焦りそうになりつつも冷静に、心音はベッドから降り、扉に近づいた。


「……開かない」


だが取っ手を回し、押したり引いたりするものの、扉は鍵がかけられビクともしなかった。


(…これって、監禁…みたいな?)


自分で考えておきながら、恐怖で足が震えだした心音は扉に背を預けた。


(…なんでこんなことに。そうだ…ファイ!ファイも捕まってたり?ううん、そんな事無いよね。

でも…心配してるかな。…心配…してくれてるよね?)


自信の持てない自問を振り払うように、心音が首を振ったその時。──バンッ!


「!?…きゃあ!?」


突然体を支えていた扉が開き、心音は後ろへ倒れる。


「おっと…」


しかし力強い腕で抱き留められ、心音はハッとその人物を見上げる。

そこにはニコやかに笑う、寝癖でボサボサの緑色の髪をした男性の顔があった。


「あ、あのすみませ…」


「まったく。…逃げようとか、考えてた?」


「っ…!」


咄嗟に謝ろうとした心音は、男の一言に固まる。そして目に映る男の笑みがニコやかどころか、凍りつくように冷徹に見え顔を青くした。


「あ、そんなに警戒しないでね?…俺は女の子には優しいし、何もしないからさ」


男の口が動き紡ぎ出される言葉一つ一つに、心音は体が震え出すのを感じた。


(どうしよう…怖い…っ!)


ギュッと震える手を握りしめたその時、部屋の外の廊下で話し声が聞こえた。

それは騎士団員なのか、警備について話し合っているようだった。


(…一か八か、声を出して助けをっ!)


心音が恐怖を押し込め、息を吸った瞬間、男に羽交い締めのようにお腹辺りに腕を回され、片方の手で口を覆われてしまう。


「シッ。…中に入るよ」


そしてそのまま扉を閉められ、騎士団員達の足音が遠ざかるのを確認すると、男は心音を解放した。


「“他の”騎士団員にバレるとさ、色々と厄介なんだよね」


「あ、なたは…」


解放されると同時に震える足で男と距離を取った心音は、やっとでた声でそう問う。

そんな怯える心音を見て、男…レオナルドは困ったように肩をすくめた。


「そんなに怯えないでよ。…俺、別に君をどうこうしようなんて思ってないって」


(…でも…間違いなく、この人が私を此処に連れてきたんだよね?)


心音が睨むようにレオナルドを見つめていると、彼はそんな思考を読み取ったのか、悪びれもなく言う。


「うーん、まあ確かに君を連れてくるように言ったのは俺だけど…連れてきたのはルークね」


「!…なんで考えてたこと」


「ん?ああ、俺読心術っていうの?ああ言うの得意なんだ。それとさっきもいったけど、君に何かしようなんて思わないよ。だって俺はもっと胸が大きい方が好みだ…ブッ!?」


(ハッ!…つい)


心音の投げた枕がクリーンヒットし、ぽとりと枕が床に落ちる。


「痛くはないけど、君…面白いね」


またも悪びれた様子もなく笑うレオナルドへの怒りからか、少し恐怖が薄れた心音はレオナルドを見据えた。


「なら、なんで私を連れてきたんですか。…これって立派な誘拐ですよね?」

 

淡々と。そう言った心音に、レオナルドは短く口笛を吹くとまっすぐに心音を見つめた。


「冷静だね…さっきまであんなに震えてたのに」


「っ!…それはっ」


「そういうのは嫌いじゃない」


レオナルドはゆっくりと心音に近づくと顎に手を触れる。

そして顔を心音の耳元に近づけると、今までで一番低い声を発した。


「だけど、あんまり反抗的な態度は止めた方がいい。君みたいな無力な女なんて、すぐに傷物に出来ちゃうんだよ?」


すると心音は手に鋭い痛みを感じた。

目の前にある深い緑色の瞳から視線を逸らすことができなかったが、何か温かなものが手の甲を伝い、床に落ちるのが分かり心音はビクッと体を揺らす。

それは…小さな仕込みナイフで、レオナルドが心音の手の甲を浅く切りつけた為だった。


「ま、余興はこんなもんか。君を連れてきたのはさ、興味があったからなんだ」


心音から離れたレオナルドは窓へ近づく。


「君さ、シルバに助けてもらった異世界人なんでしょ?

…あの冷酷で知られるシルバがだよ?たかが異世界人を他人を助けてその上、職業認定証(ファスタル)を推薦?

こんなに楽しいこと、今までなかったよ!」


まるで壊れたかのように、レオナルドは高らかに笑い続けた。


「だからさ、そんなシルバの“お気に入りの玩具(オモチャ)”をさ、一回見てみたかったんだよ」


再び心音に近寄るレオナルドの瞳は、最早人のそれではないと、心音は感じた。


「まあ、それはそれとして…俺ってさ、面白いことが何より好きなんだ。

…だからこの後のパーティー、俺のパートナーとして出てくれない?

…面白いことが起こるからさ」


ニコッと笑ったレオナルドに、心音は言葉を発することも、頷くことも出来ずただ呆然とレオナルドを見つめ返した。


「パーティーにはパートナーが必須なんだって。ああ、君に拒否権はないよ。

…悪いとは思ったけど、パーティーに参加しなかったら…この子の命はないから」


そう言うとレオナルドが指を鳴らす。すると心音の前にスクリーンのようなものが映し出され、そこにはどこかの部屋の床に横たわる傷だらけのラルの姿があった。


「ら、る?…ラルッ!!」


スクリーンに心音が手を伸ばすと、その手首をレオナルドが強く掴む。


「君のポシェットに入ってたんだよ、知らなかったの?…まあいいや、これで分かってもらえたかな」


ギリッと嫌な音を立てる手首の痛さに耐えながらも、心音はキッとレオナルドを見上げた。


「アナタは…騎士なんじゃないんですか」


「だとしたら?」


「騎士は、人を守ったり助けたりする人でしょ?…こんなの、最低!」


瞳を潤ませながらも必死に抵抗する心音に、レオナルドはそこで初めて笑みを消した。

 

「知った風な口利くなよ。…異世界人がこの世界…この国の事を何も知らないくせに」


「っ!!」


ドンッと押され、心音はベッドに倒れ込む。

それに構うことなく、レオナルドは扉に向かうとそれを開ける。


「舞踏会が始まる前に、メイドさんにドレス用意してもらうから。…それと、俺は仮面騎士団第一部隊隊長レオナルド・シルフレントだ。…パーティーで名前を間違えるなよ」


───バタン…ガチャ。


それだけ言い残すと、レオナルドは扉の外に姿を消した。

途端に恐怖が心音を襲い、ガタガタと体が震えだす。


「…っ…ラル、ごめんっ。…ファイ、クロム……シルバ…っ!」


(…助けてっ!!)  


心音はベッドに顔を押しつけるようにして、体を震わせながら声を押し殺し泣いた。

既に外の夕焼け空は、心音の不安と恐怖のように、夜の闇に覆い尽くされようとしていた。───


 * *  * *


そして、舞踏会が開かれた。

レオナルドの側に立つ心音は、お団子で纏めた髪に宝石を付け、一房は垂らしている髪型に、薄いピンク色の膝上丈のパーティードレス。

それは前から見た姿で、後ろから見るとまるで貝殻ようにふわりと裾が広がり長い所は床に着いていた。

手はシルクの手袋に包まれ、レオナルドの付けた傷が上手く隠れ、靴は少し高めのヒールを履いていた。


(ドレス…初めて着たな。)


絶望に瞳の光を無くした心音は、自分の姿が場違いではないかと辺り見る。

そこには貴族の令嬢令息など、紳士淑女が何人も話に花を咲かせていた。


「馬子にも衣装。…東方の方ではそんな言葉があるらしいよ。……意味は知らないけどね」


すると隣にいるレオナルドが、寝癖の髪を整え、シルバのように仮面を付け青いマントを羽織っていた。

その姿にシルバを重ねた心音は、泣きたくなるのを必死に堪えた。


「レオナルド殿」


そこへ優しげな顔つきの男性、ヒガミヤ領主カスラム・ミレマナーが近付いてきた。


「これは、カスラム様」


恭しく腰を折るレオナルドに続き、慌てて心音も頭を下げた。


「レオナルド殿、此度の成果、王からも良い返事が聞けましたぞ」


「光栄で御座います」


自分の事のように朗らかに笑うカスラムに、心音は全てを話してレオナルドから助けて欲しいと言いそうになってしまう。

しかしラルの傷ついた姿が頭を過ぎり、キュッと唇を噛み締めた。


(こんな人が…シルバと同じ騎士だなんて…)


シルバは自分を助けてくれた。仕事だと言いつつも、いつも助けてくれる。

そんな彼と同じ騎士だと言うことが、心音は心から許せないと思った。

しかしレオナルドの言うとおり、心音は自分がこの世界や国について知らないと思った。


(もしかしたら…この人みたいな人は他にもいるのかもしれない。…私が見ているのは、ほんの一部だから)


最初にシルバに聞かされた“七歳から働かなければならない”という条例のような決まり。

それは国の者の心を曲げ、レオナルドのような人を創り出しているのかもしれないとも心音は思ったのだった。


(……でも、今はそれよりも…この状況を何とかしなきゃ。ラルの身が危ないもの)


心音がグッと手を握りしめていると、ふと自分に向けられている視線に気づき顔を上げる。

それは心音のいる会場の壁とは反対側の壁。レオナルドとは違った仮面をつけ、白いタキシードを着た青年だった。


(…私を、見てる?)


少し首を傾げた心音に、青年はゆっくりと距離を縮めていった。

その時、会場の曲が変わる。ダンスタイムの時間を告げたのだ。


「レオナルド殿、せっかくパートナーがいるのでしたら、踊ってきては如何かな?」


「いえ、私はダンスは…」


困ったように笑みを浮かべたレオナルドはカスラムにバレぬよう心音を睨みつけた。

その視線に心音がビクッと体を揺らした丁度その時、先程の青年が心音の前に靴音を響かせ現れた。


「もし宜しければ、(わたくし)と踊って下さいませんか?」


「え…」


クリーム色のふわりとした髪を揺らし、ダンスに誘う時の礼を取る青年に、少し頬を赤らめて戸惑う心音。

しかしそれをレオナルドが止めようとしたときには既に、青年は心音の手を取ってホールの真ん中へと歩き出していた。


「あ、あのっ…私、ダンスなんて踊ったことがなくて」


(それにレオナルドから離れたら、ラルがっ!)


青ざめた顔で青年の優しく気遣うように握られた手を振り解こうとした心音に、青年は優しく笑みを零した。


「大丈夫、安心して。君を助けてあげるから…心音」


「どうして…私の名前を?」


トンッとダンスホールの真ん中に着くと、青年は心音の腰に手を回し、片手は優しく心音の手を握った。


「知ってるよ。…何故なら君は、僕の命の恩人だから」


仮面越しに微笑んだ笑顔に、何故か懐かしさを感じた心音は音楽が始まると青年に身を任せた。

慣れないヒールながらも、青年のリードに合わせ踊る心音。

まるで花の妖精のように、ドレスを浮かせ心音は舞った。


(何でだろう…この温かい感じ、知ってる。……凄く、安心する)


見れば青ざめていた心音の顔には血の気が戻り、瞳には希望の光が宿っていた。

やがて曲が終わると、皆が拍手した。それは全て心音と青年に向けられたものだった。


「おい、人のパートナーを勝手に奪っておいて!」


そこへ苛立ちを滲ませたレオナルドが近づき、心音は足が震えた。

しかし青年が優しく心音を庇うように、背に隠した。


「勝手?彼女はお前の物じゃない。…返して貰う!!」


──ボンッ!!


青年の叫び声と共に、彼は何やら丸い物を地面に投げつけた。

するとたちまち白い煙が上がり、何も見えなくなる。


「ゲホッ!?な、煙幕だと!?」


「けほっ、けほっ!」


レオナルドの驚愕した声を耳に、心音は優しく手を引かれる。


「こっち。…これを持ってまっすぐ進んで。……後で合流するから」


人の合間を縫って、会場の外へと続く扉を出た青年は、心音の着ていた服とファイから貰ったローブ、そしてポシェットを彼女に手渡し、廊下の先を指し示した。


「ま、待って!…アナタはどうするの?」


「僕はもう少しアイツを足止めする。此処には他の騎士もいるけど、アイツの部下もいるから気をつけて進んで。

それと君の探し物は多分城の外だ、とりあえず外を目指して。…大丈夫、心音なら出来るよ」


ポンと心音の頭を撫で、ニコッと笑うと青年は大騒ぎの会場内に入っていった。


「…ありがとうっ!」


心音は青年に聞こえるようそう叫ぶと、ヒールを脱ぎ捨て、荷物を抱え走り出す。


(ラル!待ってて、今行くから!!)


場所は分からない。けれど今は走ろう、と心音は顔を上げ、前を見据えた。───



 

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


誤字脱字などございましたら、お知らせ頂けると幸いです。

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