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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅲ章 仮面騎士団とフェアリーダンス
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Ⅰ 仮面騎士団

ファスティアス国──今では世界にその名を知らぬものはいないと断言出きるほどの大国。

だが大昔、戦争が頻繁に起きていたその頃は小さく、隣国にいつ吸収されてもおかしくない国であった過去を持つ。

そんな時代に王族が住んでいたのが、現在のヒガミヤ領。

そこは当時のファスティアス国と同じ面積の土地をそのまま一つの街のようにし、国王の命を受けたカスラム・ミレマナーという男が統治していた。

彼はヒガミヤ領の一角、嘗て王族が暮らしていた白い外壁に青い屋根のレナート城を、自分の家として使っていた。

しかし、城の一部をファスティアス国王に忠誠を誓い、民を護るヒガミヤ領担当騎士団たちの本部として解放するなど、きちんと統治者としての意志があり、民に慕われている優秀な人である。


──明け方。そんな城の長く続く大理石の廊下に、二つの影があった。

一つは銀色の髪が印象的な、仮面騎士団(マスカレード)第二部隊 隊長シルバ。

彼は仮面とマントを着用し、ある場所に向かうべく靴音を響かせ歩いていた。

いつものことながら、仮面の下の顔は無表情だったが、今日は少し苛立ちを含んでいるようだった。

そんなシルバを追いかけるように一歩後ろを歩くもう一つの影は、シルバ同様の格好をした短い茶髪に琥珀色の瞳をした、知的な印象の青年だった。

彼の名はシオン・クストリーレ。シルバ率いる第二部隊の副隊長であり、騎士団の中でも切れ者として有名だった。


「隊長」


長い廊下の先、丁度分かれ道の辺りで、シオンは向いから歩いてくる人物に目を留めると、シルバに短く声をかけた。

その声にシルバはシオンと共に歩みを止める。


「あ、シルバ。おはよー」


寝癖のようにボサボサの濃い緑色の髪を掻きながら、薄い緑色の瞳でシルバ達を見つけた男はニヤリと笑う。

彼もまたシルバ同様青いマントを羽織っていたが、仮面はつけていなかった。


「……行くぞ、シオン」


シルバはそれだけ言うとマントを翻し、一度止めた足を動かし歩き出す。

シオンはというとレオナルドと呼ばれた人物に一礼すると、再びシルバの後を追った。

しかし───


「相変わらず冷たいね~?同じ隊長どうし、仲良くしようよ…“冷酷の銀騎士”さん?」


「レオナルド隊長!」


「シオン」


後ろからシルバを罵倒され、シオンが反応し振り向く。

冷酷な銀騎士とは…騎士団の者たちや民の噂から広がったシルバの呼び名だった。

彼のいつもの無表情が、他人を下に見る冷酷な男だ、犯罪者にも容赦がない、など。様々な想像とシルバの珍しい髪の色を取り“冷酷な銀騎士”と呼ばれるようになっていたのだ。

しかしいつもというわけではないが、行動を共にする事が多い副隊長として、シオンはシルバと同じ隊長格であるレオナルドが許せなかったのだ。

しかし当の本人であるシルバはシオンを制すると、ゆっくりとレオナルドを見た。


「部下がすまなかった。」


それだけ言うとシルバは再び歩き出す。

そんなシルバの背を、シオンは何か言いたげに見つめるだけで歩き出そうとはしなかった。


「……失礼、します」


だがやっとでた声でレオナルドにそう言うと、拳を強く握りしめたまま一礼して、早足にシルバを追いかけたのだった。


「あらら。嫌われちゃった~?俺はホントのこと言っただけだけど」


わざとらしく苦笑いを浮かべたレオナルドは、後ろにいつの間にか控えていた人物に声をかける。


「まあ、いいか。それで…俺がいない間、何か面白いことあった?」


そこには肩まで伸びた灰色の髪を真っ直ぐに揃え、同じ色の瞳をした少年が立っていた。

彼は青いマントではなく黒いマントを羽織り、仮面も銀の刺繍が入ったものを付けていた。


「はい、一つ。実は異世界人が一人…この国に来たのですが」


「ふ~ん…異世界人ね」


この世界で異世界人が訪れるのはそう珍しくない。

それこそクロム達のファームが経営出来ているのも、異世界人がこの世界に訪れるからである。

そんな当たり前の話に、レオナルドは興味が失せたように歩き出そうとする。

だが少年の次の言葉に足を止める。


「その異世界人…第二部隊長の推薦で、職業認定証(ファスタル)最上位サファイアを手に入れ、例のファームで働いているそうなんです」


「へぇ…あの他人には無関心で冷酷な銀騎士、またの名を孤高の銀狼なんてあだ名のシルバが推薦?しかもあのファームに?」


レオナルドの言葉は言い過ぎだと思うも、少年はゆっくりと頷いた。

それを見たレオナルドは、ニヤリと口元に笑みを浮かべると、自分の顎を撫でた。 


「その異世界人に…会ってみたいな…ソイツ男?それとも女?」


「…十六、七くらいの女です」


「女!?それはまた、愉快な話だな!」


あはは!と大袈裟に腹を抱えて笑い声を上げたレオナルドは、次いで少年を睨むように見つめた。 


「これから会議だから…そう、だな……。夕方くらいには仕事を終える。この意味、分かるな?…ルーク」


「はっ。承知しています」


ルークと呼ばれた少年の返事に満足そうに笑うと、レオナルドはシルバが向かった方向と同じ方に歩き出す。


「楽しみだな…面白い子だといいけど。俺…退屈なのは嫌いなんだよね~」


口角を上げるように笑みを深めると、レオナルドは後ろで気配の消えたの確認し、靴音を廊下に響かせたのだった。───


 * *  * *


「仮面騎士団 第二部隊 隊長シルバ氏、並びに第二部隊 副隊長シオン・クストリーレ氏がお見えです」


入り口付近にいた兵士が、敬礼をしながらそう告げる。

会議室。そこは嘗て謁見の間として使われていた為、名残として周りを白い石柱に囲まれていた。

その中央、頑丈そうな木で出来た長方形のテーブルには既に数人が着席していた。


「通しなさい」


そんなテーブルの一番奥に腰掛けていた、深い藍色の髪と目をした三十代の男性“カスラム・ミレマナー”が、兵士にそう告げる。

すると入り口の重く頑丈な白い扉が開き、シルバとシオンが姿を見せる。


「失礼致します」


入るやいなや敬礼をした二人に、カスラムは席に着くよう促した。

そしてシルバはカスラムから見て左側の入り口近くの椅子に腰を下ろした。

シオンはというと、シルバの斜め後ろで待機する。


「遅刻ですよ、シルバ殿」


シルバが着席した席の斜め反対側に座る淡い青色の長い髪に金色の瞳をした男性が腕を組みながらシルバを見た。

白い外套ような物を羽織り、胸元にグリフォンの羽根飾りを付けた彼は「諜報騎士団 ヒガミヤ隊 隊長ユクン・スイリー」。

諜報騎士団とはその名の通り、諜報活動に特化した騎士団のことである。

それぞれの領地に隊が存在し、他の部隊に伝達をしたりと幅広く活躍する。

彼は此処ヒガミヤ領担当諜報騎士団をまとめる隊長だ。


「まあまあ、ユクン殿。シルバに限って遅刻はないですよ、現にまだ予定時刻の一分前ですし」


「五分前行動が当たり前でしょう!そう言うファイン殿こそ、三分前だったではないですか!」


「ギクッ…」


シルバを助けようと口を開き、逆にユクンの餌食になった赤い髪と瞳が印象的な青年は「ヒガミヤ領騎士団 団長ユーリ・ファイン」だ。

騎士団にはそれぞれの領地に一つあり、ユーリはヒガミヤを護る騎士団をまとめる団長である。

カーキ色の軍服に、騎士団の特徴である十字の剣をかたどった紋章を胸元に付けた彼は、焦ったように隣に座るシルバに話を振った。


「そ、そういえばレオナルドはどうしたんだ?昨日ヒガミヤに到着しただろ?」


「先刻、廊下で会いましたのでもうすぐ来るかと思います」


何故か敬語で答えるシルバは、やはりどこか苛立ちを含んでいるように見え、ユーリはまずいことを聞いてしまったかと焦る。

すると今度はユクンの隣に腰掛けていた人物が耐えられないというように笑い声を零した。


「なんか、今日はやけに機嫌が悪いな。ユーリと話すときはいつももっと砕けてるだろ?なんでそんなに怒ってんだよ、シルバ」


ニカッと白い歯を覗かせた、濃い茶色の髪と瞳をした大柄な男性は「守衛騎士団 第二部隊 隊長グラン・クストリーレ」。

青色の軍服に短く白いマントを肩に掛け、胸元には守衛騎士団の象徴である盾の紋章があった。

彼は言わば城の守りを固める…最後の砦といった部隊の指揮官である。

本来ならば城の兵士は兵士の中での上官がいるのだが、ヒガミヤ領には兵士の数が少ないため、グランが指揮をとり、グランが隊長を勤める守衛騎士団第二部隊の面々も城を護っている。

クストリーレと言った名門武家の出身で、実はシルバの部下であるシオンの兄でもある。


「何故、俺にレオナルドのことを聞く」


「ん?なんでって、そりゃあお前…同じ仮面騎士団隊長だからだろ?」


「………。」


グランの答えに益々シルバの機嫌が悪くなる。中央に寄った眉間は幸いにも仮面で隠れ見えることはなかったが、漂う雰囲気に重さを感じ、隣に座るユーリは知らず息を飲む。


だが丁度その時。


「仮面騎士団 第一部隊 隊長レオナルド・シルフレント氏がお見えです」


またも来訪者を知らせる兵士の声が部屋に響き、誰もが扉の方に視線を向けた。


「通しなさい」


そしてカスラムの返答に扉が開くと、青色マントをはためかせ、レオナルドが足を踏み入れた。


「いやいや…皆様お揃いで。というより…私の遅刻でしょうか?」


悪びれた様子もなく笑うレオナルドの登場は、同時に会議開始の合図でもあった。──


「全員揃ったようなので、昨日(さくじつ)お話した議題について、本日は話し合いたいと思います」


レオナルドがシルバの対面に座るのを見計らい、カスラムの隣に控えていた彼の重臣がパチンと指を鳴らすと、テーブルの中央に何やら物が浮かび上がる。


(…やはり、か)


それを見たシルバはあからさまにげんなりとした。

そこには紺色の肩に掛けられる少し大きめのバック。それは此処に心音がいたならば間違いなく大声を上げるだろう物…それは、スクールバックだった。


「これは一カ月程前に街を巡察中であった騎士団の者が持ってきたものです。ユクン殿」


カスラムの重臣に名を呼ばれ、ユクンが静に立ち上がる。


「はい。我が諜報騎士団が調べた所、これはこの国…いえ、この世界には存在していない物だと言うことが判明致しました。」


(当たり前だ。異世界から来た物だぞ)


シルバはこっそりとため息を吐く。

実は昨日、会議内容を知らされたシルバは、すぐにそれが心音の物だと気づき、また厄介な事になりそうだと今日の会議は出席しないように部下に言ったのだが…手違いから出席する事になっていたため、朝から機嫌が悪かったのだ。


(あれがココネの物と知れたら、確実にココネは城に呼び出される。…それだけは、阻止しなくては)


シルバは何も自分が心音について問われることが苦だから、出席しないようにしようとしたわけではない。

自分の話から心音に興味を抱いてしまったカスラムに心音が呼び出される事を案じていたのだ。

異世界人が珍しくないとはいえ、心音は魔法を使うことが出来ないにもかかわらず、この世界に来たのだ。

そんな異世界人の中でも“特例”な彼女の存在が知れたなら、最悪、実験対象として使われる可能性が高かった。


(くそっ…ココネへと繋がる物はないかと、何回もあの路地には行っていたが、先に騎士団の者に見つけられていたなら、無くて当然だ。)


会議に出席する事になっていたことへの怒りだけでなく、心音のバックを見つけ出した騎士団の者への怒りもシルバの機嫌が悪い原因の一つであった。


「はいはーい」


ユクンの説明に皆が驚いて固まる中、声と手を上げる者がいた。

それはシルバの向かいに座るレオナルドで、彼は一瞬シルバに向けて笑みを見せると立ち上がる。


(なんだ?)


シルバがそれを不気味だと思った瞬間、レオ

ナルドはとんでもないことを言い出す。


「俺、そのバックっぽいやつの持ち主知ってますよ?」


「な!?それは、本当ですか!レオナルド殿」


「…!?」


驚きの声が次々と上がる中、一番驚いたのはシルバだった。


(何故、レオナルドが?アイツは…仮面騎士団第一部隊は遠征部隊だ。昨日今日帰ってきたコイツに、何故ココネのことが…。っ!いや、確か…)


シルバはそこで同じ仮面騎士団だからこそあることに気づいた。


(仮面騎士団には諜報騎士団とは別に二、三人の諜報隊員がいたはずだ。内は一人だが…第一部隊は確か三人いたな)


その中でも一人、灰色の髪をした優秀な少年のことをシルバは思い浮かべる。


(自分の娯楽のためなら部下をとことんこき使うレオナルドのことだ。彼をヒガミヤ領に残していったのなら…知っていてもおかしくないか?)


「あ、いや…間違えました」


シルバが思考の海に沈んでいると、レオナルドが申し訳なさそうに頭に手をやる。


「持ち主ではなく、その持ち主をご存知の方を俺は知ってるんです」


そう言って、レオナルドはゆっくりと正面に身体を戻す。そしてニヤリと笑みを浮かべる。


「それは…そこにいる仮面騎士団 第二部隊 隊長シルバ殿です」


「っ!!」


「な、シルバが!?」


「本当なのか、シルバ?」


短く息を呑んだシルバを、グランとユーリが目を見開いたまま見つめる。


(コイツ…最初から俺に話させる気だったな)


シルバが仮面越しにレオナルドを睨みつけると、レオナルドは飄々とそれを受け流す。


「本当ですか、シルバ隊長」


今まで静かに話を聞いていたヒガミヤ領主カスラムが口を開くと、まっすぐにシルバを見つめた。


(会議始まって早々に、とんでもないことになりそうだ)


領主であり、自身が今使えている主であるカスラムの言葉に、シルバは渋々立ち上がると話し出したのだった。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字など御座いましたら、お知らせ頂けると幸いです。

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