エピソード3 唐揚=頂点
相変わらずよく分らないサブタイトルをつけてしまった、ルマです。
アンケートにとても多くの方が答えてくださって本当にうれしいです。
また、そのアンケートの回答にまじって書かれていた、この作品への感想…。
本当に胸が熱くなりました。
アンケートはまだまだ閉め切りませんのでぜひお答えください。また、感想も待ってます。
俺とフェルが再び城の外に出たのは、日が傾きかけてからだった。今までも何十度も外出中に2人に政治を任せていたので、ガヴァンとジールとの話し合いは慣れっこなものだったが、それでもやはり自由に外出するわけではなく、国王としてパーティーに参加するわけなので、いろいろと面倒な話し合いもしなければならなかった。そんななかで幸いだったのはやはり2人が信用できる人物だということだろう。
大臣や宰相などの重要な役職のほとんどは、少なくても300年以上前からこの国に住んでいる家系の人間で、そのなかでもガヴァンとジールの家をはじめとした500年以上前からこの国にいる家系は、俺が命を救ったやつらが多いので、その恩を感じてか、代々、きちんと国のために働いてくれている。
あんなに多くの人間を殺したのに、かたや、命を救って感謝されているとは、世の中はよく分らない。
アヴァーン城の城門を出ると、首都であるメルシアのちょうど中央広場の傍らに出る。中央広場では出店や魔術を使った芸など、様々な物事が行われていて、休日は常に人だらけである。
この中央広場の出店を、ただの出店と思ってはならない。この国の出店は他の国のそんじゃそこらのレストランよりは普通においしい。これには相変わらず俺の研究が影響しているのだが、要するに、元の世界の食べ物をこちらの世界で再現して、そのレシピの一部を国民に流しているのだ。ちなみにほかのレシピは本当に信頼できる店や、国が経営している、つまり俺がオーナーであるレストランに流している。
これらによって、今やアヴァーンといえば世界一グルメな国であり、食べ物関係だけで目を疑うような金が国に入ってくるのだ。
「マスター、何か食べてみるかい?」
そう、俺たちは城の外に出るとき、たいてい出店で何かを買うのだ。国民ならではの、俺では気付けなかったアレンジがあったりして意外と面白いものだ。
「そうだな、唐揚でも買うか」
唐揚とはみんな大好きなあれである。この国で俺が研究した最初の食べ物にして、いまではこの国の有名な食べ物のトップに君臨する。ちなみに、俺が最初に研究したのは、単に俺が食べたくなったから というろくでもない理由だ。
「もう慣れたけど、視線が痛いね」
「本当にもう慣れたよ」
仮にも国王が普通に広場を歩いて、鶏のから揚げを買おうとしているのである。そりゃ注目もするだろう。
「う~ん、久しぶりにあの唐揚でも食べてみるか」
「いいね、あれは私も好きだよ」
意見が一致した俺たちは、広い中央広場内をたくさんの視線を浴びながら、俺たちが特に気に入っている唐揚の出店へと移動した。
移動すること5分、俺たちはようやく目当ての出店を視界に収めることができた。遠くから見ただけでもわかる人混み。それだけ繁盛しているということだ。
「あ、ソラ様とフェル様だ」
「本当に、王様のお気に入りの出店なんだ」
「2人を見ることができるなんて、今日は何て良い日なんだろう」
俺たちがその出城へ近づくにつれ、そんな声がちらほら耳に入ってきた。
「相変わらずの人気だね、マスターは」
自分でもそう思う。この光景を見たら。
俺たちがもっと出店に近づくにつれて、そこに並んでいた列がぱっくりと左右に割れて、俺たちを見て頭を下げ始めた。それも強制的にやらされているのではなく、どちらかというと神を崇めるような感じで。
せっかく、列を開けてくれたので、さすがに無碍にすることもできず、俺たちはその割れた列の中心をとおって、その出店の正面に立った。
「これは、ソラ様、フェル様。おひさしぶりです。また買いに来てくださったんすね」
その出店の店主は30になるかならないかぐらいの若い男だった。魔術師にしては珍しくスポーツマンてきな男で、性格も明るくて話しやすい。
「ああ、明日からすこし国を空けるから、その前にここのから揚げを食べたくなってね。マスターと意見が一致してここに着たんだよ」
「ありがたいかぎりっす。お2人に来ていただけることほど光栄なことはありませんから」
ちなみに、俺たちが初めてここに着たとき以来、それまでも多かった客の数が7~10倍に増えたらしい。さっき聞こえた声の中にもあったが、俺とフェルのお気に入りの店として国中に広まったらしかった。
「で、注文いいか?」
「はい、何でも言ってください。お代はいいんで」
1つ困ったことなのがこれだった。どこの店に行っても俺がお金を払おうとすると断られるのだ。
「じゃあ、ありがたくお言葉に甘えさせてもらうよ。あ、いつもの2つね」
「承知しました。少しお待ちください」
俺たちが言う『いつもの』は5年程前に偶然発見したものだった。ちょうどそのころ、ふと中央広場に出たときに、なにやら面白い食べ方のから揚げがあるという話を小耳にはさんだのだ。
その当時のから揚げ、というかこの国に広まっている唐揚とは、元の世界と同じで、鶏肉にショウガや醤油、みりんなどで味をつけてあげるという、いわば、鶏肉自体に味をつけるものだった。
しかし、その噂の店に行って、注文して、出てきた唐揚は少し違ったのだ。何が違ったのかというと小さい容器と一緒に唐揚が出てきたのだ。そしてその容器の中身は出汁だったのだ。
既にうどんなどのつゆをつかうものも、レシピを外部に出してないが、すでに国直営のレストランなどで売られていたが、まさか鰹節をベースにしただしを唐揚とコラボさせるとは思わなかった。
実際に食べてみると、唐揚自体はほとんど味がついておらず、逆に鳥そのものの味を楽しめ、出汁につけてみると、唐揚自体の味が薄いために、うまく味がしみわたっていて、とても美味しかった。
「もう5年なんだな……」
俺はふとつぶやいた。店主は唐揚の準備をしていて、聞こえていなかったみたいだが、フェルにはしっかりと聞こえていたみたいだ。
「早いかい?それとも遅いかい?」
昔はあんなに1年が遅く感じられたのに、今は1年があっという間に過ぎていくように感じられる。みんなが一歩一歩しっかりと今を踏みしめて歩いているのに、俺はまるで、適当に走り回っているように感じられる。
昔の人々は不死になりたがったらしいけど、実際はそんなにいいものではない。世界は俺を置いて過ぎ去ってしまうのだから。
「(あいつら今は何しているのかな)」
両親、良く喧嘩した妹、毎朝起こしに来てくれた幼馴染、ことあるたびに俺を振り回した先輩、厳しかった学校の教師・・・その他いろいろの多くの人たちは今頃何をしているのだろうか?
とはいってももう800年たったのだ。フェルの話だと時間の流れ方は違うらしいけど、おそらくもう生きてはいないだろう。
ふとした拍子に、少し暗い気分になってしまった休日の夕方だった。
次話は明日の予定です