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二人の間で世界は回るか

作者: 森上 木一

 「今、世界は回ってる」

 彼女はふとそんなことを呟くと、僕の顔を見た。僕は馬鹿で野暮だ。彼女が何を言ったのか、その意味を図りかねる。

 「どうして?」

一瞬ボケッとしていた。彼女の刺すような視線に少し動揺し、質問の言葉が濁る。微かに自分の心音が聞こえる気がする。少し顔が赤らむ。

 因みに語弊が生じているかもしれないので、弁解すると、僕らは決していわゆる恋人関係でなく、俗に言う付き合ってはいない。そういう感情も無い、はずだ。

 彼女こと原美里はただのクラスメート。今僕らは二人で図書館にいる。しつこい様だがこれもデートではなく、もっと単純な「鉢合わせ」である。

 「どうしてって…じゃあ松宮は今世界は回って無いと思う?」質問を返された。

 僕は原美里のことはよく知らない。初めて話したに等しい。だから僕がいくら野暮でも、彼女の言うことが理解出来ないのは、僕のせいでは無いのかもしれない。

 彼女は変わっている。顔はそこそこ良いのに。こんな真面目な顔で睨まれていると、勘違いしたくなってしまう。

 「さぁ。今世界は回ってると思うよ」始めの彼女の意見を呑む。僕の中では何も意味がない。

 「ふーん」彼女はさも当たり前だと言わんばかりに頷く。そして再び話し出す。

 「世界はね、常に回ってると思うの。それも環状じゃなくて、DNAのみたいに、繋がりがどんどん新しく伸びていく様な。そして、その中では全てに意味が有って、因果が有る。地球が出来たのも、生命が誕生したのも。芽吹くのも、伐採されるのも。何だってそう」

 「ところで…」彼女が一息吐くのを確認し、切り返す。ところで、だからつまり何を言いたいの、と聞きたいが止めておく。「じゃあどんなに小さな事でも?」

 「そう、全てが世界を回しているの。松宮がその本を選んだことも、今私と話しをしていることも」彼女は僕の前にある本を一瞬、見やる。

 「へぇー。じゃあ…え?今、原と俺が話してる事?」

 「そう。何かしら次の事象に繋がるよ」彼女が言わんとしていることがまだわからない。

 「何かそう言われるとしっくり来ないな」別に何も起きないだろう。

 まさか遠回しに僕に気があることをほのめかしているのかと思う。他愛ないと振り切る。

 「じゃあ互いに目的も違う訳だし」彼女が立ち上がる。少し心惜しい。「じゃあね」と言うと、そそくさと行ってしまった。

 僕は馬鹿だ。彼女が図書館に来た目的を聞いていなかった。

 結局訳がわからぬまま、野暮な僕は彼女の存在を図りかねる。


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