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たぶん間違っていない  作者: kinpo


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9/11

第9話



今日はポスターの色が緑だった。

だいたい危険な色だ。


(正しさを売りに来ている)


女はじっと読んでいる。

CO₂。

沈黙。

未来の子ども。


「大事なテーマですね」

「逃げ場がないですね」


入場前、靴底が少し濡れる。

外は雨上がり。

中は乾いている。


滑らない。

でも、気になる。


チケットを買う。

今日は中央寄り。


前回、端で冷房が直撃した。

今回は快適。


その代わり、

前の席との間隔が狭い。


前回のほうが、まだマシだった。


売店。

何も買わないつもりだった。


「フェアトレードコーヒー」

の文字を見る。


買う。

温い。


(倫理は熱量を奪う)


場内。

静かすぎる。


客層が揃っている。

うなずきが早い。


女が隣に座る。

「これ、評価高いですよ」


「評価は、たいてい安全です」


暗転。

映画が始まる。


森。

工場。

泣く子ども。


説明は丁寧。

主張は明確。


悪者は悪い。

善人は疲れている。


(判断材料が少ない。これは誘導だ)


サスペンスの音楽。

緊張する前に、答えが出る。


誰が悪いか。

何をすべきか。


全部、先に言う。


女が真剣に観ている。

俺は姿勢を正す。


(姿勢だけは、合わせる)


中盤。

登場人物が語り始める。


独白。

演説。

告発。


銃は出ない。

逃走もない。


ただ、正論が詰められる。


肩が凝る。

コーヒーがまだ温い。


終盤。

悲劇が起きる。


予定通り。

回避不能。


エンドロール。

拍手はない。


場内が静か。

誰も立たない。


女が息を吐く。

「考えさせられました」


「考える余地はありました?」

俺は小さく言う。


「……正しいとは思います」

「そうですね」


外に出る。

夜風が軽い。


「何も言えなくなりますね」

女。


「言えなくするのが、目的でしょう」


少し歩く。

別れ際。


的外れなことを言う。

「椅子、もう少し柔らかくした方がいいですね」


女は一瞬考えて、

「それは思いました」と言う。


《これは、誰も生き残る必要のない話である。》

――正しさに負けた気はしない。

濡れた靴底だけが、現実だった。

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