第7話
今日は看板がやけに派手だった。
炎。銃。走る男。
なぜか全部、同じ顔に見える。
(なるほど。資金の行き先が一つだ)
雨は降っていない。
代わりに風が強い。
傘を持ってきた意味はなかった。
入口で立ち止まる。
ポスターの下に「全⚪︎大ヒット」の文字。
東欧の街並みが透けて見える気がする。
(全⚪︎は、だいたい信用ならない)
チケットを買う。
席は中央。
前回、端で首が痛くなった反省を活かした。
結果、前の席の頭がちょうど邪魔だった。
前回のほうが、まだマシだった気がする。
売店で迷う。
今回は失敗しない。
ホットドッグを選ぶ。
受け取った瞬間、パンが冷たい。
中のソーセージだけが熱い。
なるほど。
分業体制という訳か。
ドリンクは小。
前回、飲みきれなかった。
今回はちょうどいいはずだった。
氷が多すぎて、実質水だった。
場内は暗い。
予告編が長い。
銃声がもう鳴っている。
(始まる前に、終わっている可能性もある)
映画が始まる。
男が走る。
撃つ。
爆発する。
東欧。
東欧。
また東欧。
カットが細かい。
細かすぎて、何が起きているか分からない。
でも、何かが壊れていることだけは分かる。
(これは追われているのではない。追っているフリだ)
途中で女が入ってくる。
一つ空けた席に座る。
目が合う。
軽く会釈。
「この人、さっきも撃たれてませんでした?」
小声。
「たぶん、別の日です」
俺は答える。
「同じ服ですけど」
「東欧では、よくあることです」
納得した顔をする。
してしまう。
画面では、また爆発。
明らかに合成。
火の輪郭が優しい。
(怒りのスケールが、予算に合わせて調整されている)
銃声が一定。
感情も一定。
女がポップコーンを落とす。
拾わない。
「五秒ルール、ありますよね」
「この床は、秒が進まない気がします」
しばらく無言。
また銃。
終盤。
敵の本拠地らしい。
どこか見覚えがある。
最初の場所と、同じ。
クライマックス。
爆発が一番大きい。
音だけは派手。
拍手は起きない。
誰も立たない。
エンドロール。
名前が流れる。
知らない名前ばかり。
(全員、同じ道を通った)
外に出る。
空気が現実に戻る。
「意外と、悪くなかったですね」
女が言う。
「ええ。銃の持ち方は、終始一貫してました」
少し考えて、
「それ、大事ですか?」
と聞かれる。
「重要なところほど、崩れやすいので」
別れ際。
言うつもりのなかったことを言う。
「次は、爆発しない映画がいいですね」
女は笑わない。
でも、否定もしない。
看板を振り返る。
さっきより、少し色が薄く見えた。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
夜風が、爆発の匂いを消していた。




