第6話
入口のポスターで、もう負けている。
サメが空を飛んでいる。
背景は夜。
月が三つある。
今日は、これだ。
考える必要がない。
雨は止んでいる。
だが地面は濡れている。
滑らないように歩く。
それでも、滑る。
少しだけ。
入場前としては、軽い。
売店で立ち止まる。
今日は、ポップコーンは買わない。
前回までで、十分だ。
代わりに、ホットドッグ。
温かいものは裏切らない。
そう思った。
受け取った瞬間、紙が薄い。
持つと、少し沈む。
中身が動いている。
(これは、急いで食べるやつだ)
女が後ろに並んでいる。
今日は、同じ判断らしい。
「今日は、期待してません」
「それが正解だと思います」
席は、いつもの距離。
近すぎず、遠すぎず。
肘掛けは、今日は普通。
スクリーンが暗くなる。
いきなりサメが出る。
説明はない。
なるほど。
省略する気だ。
CGが軽い。
影が合っていない。
水の重さがない。
客席から、笑いが起きる。
狙っていない笑いだ。
女が、ホットドッグを見る。
「それ、大丈夫ですか」
「たぶん、映画よりは」
中盤。
サメが増える。
二匹。三匹。
途中から数えない。
俺は分かった気になる。
なるほど。
今回は、質より量だ。
飲み物を飲む。
炭酸が強い。
少し、むせる。
それでも飲む。
実行する。
クライマックス。
サメが、合体する。
音楽が、やたらと壮大。
客の一人が、拍手をする。
早い。
彼女が、小さく言う。
「……これは、どこに向かってます?」
「たぶん、上です」
「上?」
「空です」
次の瞬間、サメは宇宙に行く。
エンドロール。
名前が流れる。
CG担当が、多い。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
出口で、彼女が言う。
「意外と、嫌いじゃなかったです」
「そういう日も、あります」
分かってる。
的外れ。
外に出る。
ポスターを見る。
月は、二つしかない。
前回よりは、マシだった気がする。
前回は、現実の方が混乱していた。
今日は、映画だけが壊れていた。
それで、十分だ。




