第5話
今日は雨が降っている。
こういう日は、感動ものが選ばれがちだ。
理由は分からないが、だいたいそうなる。
映画館の入口で、傘をたたむ。
水が切れない。
軽く振る。
さらに人にかかる。
次は中でやる。
たぶん。
入場前に、売店を見る。
今日はポップコーンより、パンフレットが目立つ。
表紙が、寄りすぎている。
二人の顔が近い。
買うか迷って、買う。
こういう映画は、見終わった後に後悔する。
売店の列で、彼女を見つける。
先にチケットを切って、中に入ったらしい。
場内に入ると、もう座っていた。
中央より、少し端。
判断が似ている。
「今日は、泣かせに来てますね」
「雨ですから」
それ以上は言わない。
席に座ると、肘掛けが妙に低い。
肘を置くと、肩が下がる。
想定内。
確認しただけだ。
観客は多め。
カップルが多い。
すでにハンカチを持っている人がいる。
本編が始まる。
最初から、音楽が強い。
台詞の前に、泣く準備をさせにくる。
なるほど。
そういう構造か。
中盤、重要そうな回想シーン。
静かになる。
その瞬間。
俺のポケットから、音が鳴る。
着メロ。
初期設定のまま。
止めるまでに、少し時間がかかる。
音は短い。
だが、十分。
前の席の人が、振り返る。
彼女は、何も言わない。
前回よりは、マシだ。
前回は、知らない番号に出た。
クライマックス。
全員が、泣く前提で演技している。
照明も、音楽も、間も、全部そろっている。
俺は、パンフレットを思い出す。
さっきの表紙。
この場面用だったな。
なるほど。
合ってたということか。
エンドロール。
拍手が起きる。
彼女は、少し遅れて立つ。
「どうでした?」
「丁寧でしたね」
「私は、良かったです」
「そういう日も、あります」
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
別れ際、俺は言う。
「この映画、雨じゃなかったら、もう少し違ったかもしれませんね」
彼女は、一瞬考えて、うなずく。
外に出ると、雨は弱くなっていた。
パンフレットが、少し湿っている。
前回よりは、マシだった気がする。
前回は、何に感動させられたのか、分からなかった。
今日は、分からないままでも、
分かれた。




