第3話
入口の電光掲示に、名前だけが並んでいる。
主演、主演、主演。
肩書きが渋滞している。
今日はこれだな、と思う。
面白くなる前提で作られたやつだ。
開演まで少し時間がある。
売店の前で立ち止まる。
限定フレーバーが推されている。
「大人の〇〇味」。
大人に確認を取った形跡はない。
普通の塩にする。
前回の反省だ。
冒険は、映画に任せる。
飲み物はコーラ。
氷少なめを頼んだつもりだったが、普通に多い。
カップを持つと、手が冷える。
持ち替える。
また冷える。
(最初から氷無しにすればよかった)
トイレに寄る。
鏡の前で手を洗っていると、隣の人がやけに丁寧だ。
ハンカチで、指一本ずつ拭いている。
たぶん、映画の前だからだ。
個室を出ると、紙が切れている。
出入口に戻ると、補充されている。
タイミングだけが悪い。
廊下で、彼女を見かける。
前回と同じ女。
今日はポップコーンを持っている。
「多くないですか」
「余る前提です」
なるほど。
その判断は、分かる。
館内は少し騒がしい。
笑う準備をしている人が多い。
前列の客が、もう笑っている。
まだ何も起きていない。
本編が始まる。
有名な顔が、全力でふざけている。
全員、真面目だ。
ネタは分かる。
間も分かる。
でも、音が軽い。
(ここで一回、跳ねるはずだ)
跳ねない。
代わりに、別の俳優が出てくる。
また主役級。
会場が少しだけ、どよめく。
女が、ポップコーンを一つ落とす。
拾わない。
その判断は正しい。
中盤で、一度だけ笑いが起きる。
遅れて、もう一度起きる。
俺は、どちらにも乗らない。
飲み物を飲む。
炭酸が抜けている。
わかっている。
分かっていて、あえてやった。
エンドロール。
名前が長い。
流れきるまで、誰も立たない。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
――全員、上手かった。
それだけは、確かだ。
外に出ると、看板の主演の一人が外されていた。
気づいた人はいない。
俺も、たぶん、明日には忘れる。




