最終話
今日は、静かな映画らしい。
入口の看板に、人物が二人立っているだけの写真。
背景は白。タイトルは短い。
だいたい、こういうのは途中で寝る。
そう思って、前売り券を買った。
現金が足りず、電子マネーを出す。
残高が、なぜか足りない。
昨日、何に使ったかは思い出せる。
思い出したところで、何も変わらない。
結局、ポイントを崩した。
一番小さい単位で。
端数が増えた。
ロビーは静かだった。
ポスターの前で女が立っている。
驚かない。
「これ、難しいやつですか」
彼女は聞いた。
難しい、という言い方が雑でいい。
「たぶん、優しい顔してます」
意味はない。
自分でも分かっている。
彼女は少し考えて、うなずいた。
売店で飲み物を買う。
小さいカップにすればよかった。
前回の反省だ。
でも今日は、なぜか大きいのにした。
氷が少ない。
その分、量が多い。
嫌な予感だけが、正確だった。
入場。
客は少ない。
席は自由。
彼女は少し前に座った。
距離はある。
ちょうどいい。
映画が始まる。
音楽はない。
人が話す。
沈黙が長い。
画面は、ほとんど動かない。
なるほど。
今回は、そう来るか。
誰も死なない。
事件も起きない。
ただ、選択だけが積み重なる。
正しかったかどうかは、分からないまま。
途中で、飲み物が効いてくる。
我慢できないほどではない。
できないほどではない、というのが一番厄介だ。
前にも、同じ判断をした。
結果は覚えている。
今回は、まだマシなはずだ。
結局、クライマックスで立った。
ドアの音が、少し大きい。
戻ったとき、画面は同じような顔をしていた。
見逃したかどうかは、判断がつかない。
エンドロール。
拍手はない。
外に出る。
雨は降っていない。
彼女が言う。
「よく分からなかったですね」
「分からないほうが、正解な気もします」
また、的外れだ。
でも彼女は否定しない。
「たぶん」
と言った。
それで十分だった。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
そういう映画だった気がする。




