第1話
映画館の前に立つと、看板の一枚だけ照明が切れていた。
剣を持った少年の顔が、額のあたりで暗く沈んでいる。
今日はこれでいい。
長く続くやつは、たぶん終わらない。
終わらない話は嫌いじゃないが、今日は終わらせたい気分だった。
券売機の前で、千円札を一度戻された。
向きを直して入れ直す。
また戻された。
小銭に替えるか迷って、そのままもう一度入れる。通った。
よくある話だ。
通路側の席を選ぶ。
中央は落ち着かない。
座ってみると、肘掛けが少し高い。
姿勢を直す。
直した分だけ、前の席が近くなる。
予告編が始まる。
知らない世界。知らない王国。
ナレーションが、やたらと重大なことを言っている。
ここが分岐点だな。
俺はそう思ったが、理由は説明できない。
間違いではない。
本編が始まる。
世界はもう滅びかけている。
王は病気で、勇者は不在。
説明役の老人だけが元気だ。
(この感じ、続かないな)
戦闘はあるが、勝ち負けがはっきりしない。
魔法は派手だが、代償の話は出てこない。
伏線らしき台詞が、三つほど置かれる。
なるほど。
今回は、ここまでか。
ちょうど盛り上がりそうな場面で、急に話が畳まれ始める。
敵は撤退し、仲間は散り、次章へ続く雰囲気だけが残る。
エンドロールが流れた。
誰も立ち上がらない。
俺も立たない。
立つ理由が、まだ出てきていない。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
エンドロールの途中で、場内が少し明るくなる。
スタッフロールは最後まで流れなかった。
外に出ると、夜風が強い。
さっき暗かった看板は、そのままだ。
未完、というより、放置だな。
でも、前回よりはマシだった気がする。
前回は、終わったふりをしていた。
今日は、終わらなかっただけ。
それだけだ。




