8.仲間の死を受け入れたくない!
騎士トーマスからアイカは死んだと告げられた。
その場にいた誰もが息を呑む中、アーノルドだけが微動だにせず立っていた。
銀髪が揺れただけで、表情は氷のように静かだ。
それとは対照的に、ナノは崩れ落ちるように膝をつき、唇を震わせた。
ナノ「嘘……嘘だよ……!」
アーノルドたちは騎士トーマスがアイカの代わりときかされた後に、それぞれの部屋に戻った。
ナノは部屋に入り、鍵を閉めて出てこなかった。
薄暗い自室で、ナノは布団を抱きしめるようにして丸くなる。
アイカの顔が浮かび、目が熱くなる。
隣同士の家で、幼いころから何をするにも一緒だった。
夏の夕暮れ、くだらない話で笑った帰り道。
たとえばそんな小さな思い出が、胸を刺す。
ナノ「……バカ……なんで死ぬの……」
ぽたりと涙が落ちた。
好きだった。友達として、“特別”だった。
ナノ「やだよ……いなくなんないでよ……」
押し殺した声が、静かな部屋に溶けていった。
そのころ、アーノルドはひとり剣を磨いていた。
火を宿す勇者の剣の刃が、かすかに赤く光を返す。
コマリは少し距離を空けて座ったまま、彼の横顔を見つめていた。
コマリ「……アーノルド君って、すごいね」
その言葉に、アーノルドは眉ひとつ動かさない。
アーノルド「何がだ」
コマリ「だって……アイカ君が死んだのに、そんなに……落ち着いていられるから」
アーノルドは剣を置き、静かにコマリへ視線を向けた。
その青い瞳は、湖の底のように深く、冷たい。
アーノルド「勘違いするな。落ち込んでいる。」
コマリ「え……?」
アーノルド「でも、俺たちはここで立ち止まっていられない」
あまりにも淡々としていて、コマリは息を呑んだ。
怒ってもいない。悲しみを押し殺しているんだ。
ただ淡々と、真実だけを口にしている。
アーノルド「上村のこと、よろしくな!」
その言葉は、彼女の胸に重く沈んでいった。
翌朝、ピピン王国の城門前は華やかな喧騒に包まれていた。
王城から勇者隊と騎士団がパレードのように行進してくる。
聖歌が響き、花びらが舞い、国民は道の両脇に押し寄せて歓声を上げる。
「見ろ! 勇者様だ!」
「魔王を倒してくれるんだって!」
期待に満ちた声が広がる中、小さな男の子が母親の手を引きながら列の最前列に顔を出した。
「お母さん、あれが勇者様!!」
少年の瞳は宝石のように輝いていた。
だが、その列の中にいるべき少年──
どんな攻撃にも耐える“頑丈な体”を持つはずのアイカの姿はなかった。
アーノルドたちは無表情のまま行進し、群衆の歓声を切り裂くように歩を進める。
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