7.強欲な騎士は勇者になりたい!
勇者たちが召喚された地であるピピン王国。
そのピピン王国の王、アレクサンダー王はゆっくりと立ち上がった。
アレクサンダー王「諸君。修行、ご苦労であった」
短い言葉だが、その声音には重みがあった。
王は勇者たちを見回し、表情を引き締める。
アレクサンダー王「……魔王討伐の件だ」
空気がぴんと張り詰める。
アレクサンダー王「この国から西。元トロドン帝国の城が、今は魔王の巣となっている。エルフ、獣人の両国にも支援を要請済みだ。三国の連合軍を編成し、魔王討伐に向かう」
王は手元の地図を広げ、指でその道筋をなぞった。
アレクサンダー王「元トロドン帝国へ向かう道中に、エルフの国、獣人の国がある。そこで合流する。騎士たちは勇者を護衛しながら魔王の玉座の間へと案内する。剣士アーノルド、聖女ナノ、魔法士コマリ。君たちが魔王を倒すのだ」
その瞬間、アーノルドの眉がひそめられた。
アーノルド「……アイカは?」
アレクサンダー王は答えない。
アーノルド「どうして、アイカがいないんです?」
アーノルドの不安が、場の緊張をさらに高めた。
長い沈黙の後、アレクサンダー王は重く告げる。
アレクサンダー王「――行方不明だ」
その一言が、大広間を吹き抜けた。
アーノルド「な……」
ナノは目を見開く。
ナノ「ど、どういう……ことですか……?」
そこへ、騎士トーマスが一歩前に出た。
冷たい決意をまとった男だった。
トーマス「王様。説明いたします」
彼は淡々と語り出す。
トーマス「アイカ殿は、訓練として行ったリザードマン討伐で消息を絶ちました。
……遺体も見つからず、生存は絶望的かと」
ナノ「嘘……嘘だよ……!」
ナノの足が崩れ、床に手をつく。
蝋燭の光に濡れた瞳が震えていた。
すぐにコマリが駆け寄り、その手を握る。
コマリ「ナノ……大丈夫。私たちで仇を討とう」
アーノルドは言葉を失い、拳を握りしめる音だけが響いた。
その光景を、アーノルドの師であり隣国の王女サクナが見ていた。
美しい顔が苦悩にゆがむ。
(勇者が一人欠けた……本当に魔王と戦えるの?
この国は、これでいいと思っているの?)
そして、トーマスは静かに目を閉じていた。
(これでいい。アイカは勇者の器じゃなかった。
ゴブリン一匹殺せない弱者が魔王討伐? 笑わせるな。足手まといだ……)
ゆっくりとトーマスは口を開いた。
トーマス「王様、お願いがあります。アイカ殿の代わりに、私を勇者パーティーに加えてください」
アレクサンダー王「……トーマス。お前に特別な力はない。死ぬかもしれんぞ」
トーマス「覚悟はあります。この世界のために戦えるなら本望です」
堂々とした声だった。
王は深く息をつき、決断する。
アレクサンダー王「……よかろう」
トーマスは深々と頭を下げ――その影で、冷たい笑みを浮かべていた。
(これで俺も勇者だ。魔王を倒せば英雄として讃えられる。
……アイカを崖から落とした価値があったってものだ)
*
そのころ、アイカは目を覚ました。
地面に敷かれたキャンプ用のマットの上だった。
アイカ「ここは……どこだ?」
目の前では、赤い髪の色白の美女がこちらを見つめていた。
「目が覚めましたか?」
アイカ「あなたは?」
アン「私はアンと申します」
アンは微笑み、アイカに告げる。
アン「あなた、すごいですね。あんなに高い崖から落ちて無傷なんて、奇跡です。
……あなた、本当に人間ですか?」
アイカは頬をかいた。
アイカ「ああ、この世界に召喚されたときに、丈夫な体をもらったんだ」
アンの瞳が大きく見開かれる。
アイカ「どうしたの? アン」
アンは、魔王に滅ぼされたトロドン帝国の唯一の生き残り王女だった。
父である王も騎士たちも国民も殺され、アンには復讐の力すらない。
途方に暮れていたとき――ピピン王国が異世界から勇者を召喚したと聞いた。
「皆の仇を討ってほしい」
その一心で、アンはピピン王国へ向かっていたのだ。
アンは震える声で呟いた。
アン「……私は、あなたに会いたかった」
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