6.魔法使いの女の子は魔王を倒したい!
マンマミーア村の朝は、いつもやさしい。
霧が畑の上をふわりとおおい、鳥たちが「おはよう」とさえずる。
そんな静かでおだやかな村の図書館に、コマリは通っていた。
コマリは眼鏡をかけた文学少女で、言葉をつむぐのも、絵を描くのも好きだった。
人と話すのはちょっと苦手で、気づけば本の世界に逃げこんでしまうタイプだ。
「コマリちゃん、今日の魔法の練習は外でやってみようかの」
そう声をかけたのは、白い髪の老婆、ヒバリ。
この村で“大魔法使い”として知られ、コマリに魔法の基礎を教えている師匠だ。
コマリ「は、はい……がんばります」
コマリはこの世界の管理者にもらった〈魔法の杖〉をそっと取り出した。
ヒバリ「今日は“想像したものを形にする”練習じゃ。まずは、小さな光を――」
コマリ「……こんな感じ、ですか?」
コマリが目を閉じ、頭の中に小さな星の光を思い浮かべた瞬間、杖の先が“ぱっ”と輝いた。
白くてまるい星が、ふわっと空に浮かびあがった。
ヒバリは目をまん丸にした。
ヒバリ「……なんとまあ! わしの何十年分より、ずっと上手いではないか!」
コマリ「え!?」
ヒバリ「いやいや、これは才能というほかないぞ。いやはや、参った参った!」
ヒバリは嬉しそうに笑った。
その笑い声はどこか子どものようで、コマリまで笑顔になった。
数日間、コマリはヒバリと魔法の稽古を続けた。
風に乗って花びらを飛ばしたり、想像の鳥を呼びだして空を舞わせたり。
できた時は二人で手を叩いて喜び、失敗した時はお茶を飲みながら笑いあった。
だけど、ふとした時。
ヒバリが遠くを見るような目をすることに、コマリは気づいていた。
コマリ「ヒバリさん……その、具合は……」
ヒバリ「おや。ばれてしまったか」
ヒバリは弱く笑い、地面に腰をおろした。
ヒバリ「わしの寿命は、もう長くなくてのう。コマリちゃんに魔法を教えられる日々は、何よりの宝じゃよ」
コマリ「そんな……!」
ヒバリ「泣くでない。まだ話しておらんことがある」
ヒバリは空を見上げた。
その視線の先には、どこか寂しげな影があった。
ヒバリ「……わしの孫、バイオレットのことじゃ」
コマリ「バイオレットさん?」
ヒバリ「うむ。あやつは優しい子じゃが、ひどい過去を背負っておる。
魔王の手下に……あやつの父と母を殺されてしまったんだ。」
コマリは胸が痛くなるのを感じた。
ヒバリ「コマリ、お願いがある。私が死んだらバイオレットのことよろしくお願いね」
ヒバリの声は、風に消えそうなほど静かだった。
その夜、ヒバリは眠るように息を引きとった。
コマリは泣いた。
声にならない涙が、ぽたぽたとヒバリの手の上に落ちた。
コマリ「ヒバリさん……もっと教えてほしいこと、あったのに……」
しばらくして、背後から足音がした。
バイオレット「……ばあちゃん、やっぱり……」
そこに立っていたのは、少年・バイオレットだった。
強そうな瞳をしているのに、震えている。
バイオレット「コマリ……ばあちゃん、最後まで君のこと、褒めてたよ」
コマリは涙をぬぐい、ゆっくり首を振った。
コマリ「私……もっと、もっと頑張ります。ヒバリさんが教えてくれた魔法、絶対に無駄にしません」
コマリは一歩近づき、震えるバイオレットの手にそっと触れた。
コマリ「……大丈夫。私が……私たちが……魔王を倒すから」
その言葉に、バイオレットの目からぽろりと涙が落ちた。
それは静かに輝いて、ヒバリの眠る胸のあたりへ落ちていった
最後まで、読んでくださりありがとうございました。
心から感謝しています。




