1.元の世界に帰りたい!
「私はなにものなんだ――」
暗黒の闇の中で、ひとつの意識が目を覚ます。
冷たい風が吹き荒れる荒れ果てた大地。
崩れた神殿の奥、黒い繭の中から現れたのは、漆黒の瞳を宿す男だった。
「……わたしは……どうして、ここに……?」
名前も、記憶も――何もかも失った。
だが胸の奥で、確かな“怒り”が燃え上がる。
その怒りは、誰に向けられたものか分からない。
ただ、強く、重く、世界そのものを呪うように心を染め上げていく。
「人間……。どうして、憎い……?」
男は空を見上げた。
そこには、嘲るかのように光り輝く月が浮かんでいる。
その瞬間、世界中に黒い波動が広がり──男が覚醒した。
こうして、この世界に魔王が蘇った。
*
無の空間に、4人の少年少女がいた。
「はじめまして!」
“世界の管理者”と呼ばれる存在は、異なる世界から四人の少年少女を呼び寄せようとしていた。
「魔王が誕生して私が管理する世界が危ないので、あなたたちを異世界に送りたいのです!」
まるで会社の朝礼のような軽い口調で言う管理者に、四人は凍りついた。
「……なんで俺がそんなことしないといけないんだ」
静かに問い詰めるのは相田アーノルド。
銀色の髪に青い瞳。日本人離れした顔立ちは、彼がハーフであることを物語っていた。
彼は常に冷静で、少し距離を取るタイプの少年だった。
「いや、だってあなた達、勇者の素質あるんだもん」
管理者はさらっと言う。アーノルドの眉がピクリと動いた。
アーノルド「素質って……知らねえよ。俺はただの高校生だぞ」
隣でため息をつくのは飯田愛風。
目立たない黒髪に、どこにでもいそうな眠たげな表情。
アイカ「俺、帰って寝たいんですけど……。異世界とか、そういうのは他の人に頼んでください」
「アイカ……アイカの言う通りだよ!!」
そう声を上げたのは、明るい茶髪を揺らす上村菜乃。
いわゆる“学校の一軍”にいるギャルで、面倒見がよく、アイカの幼馴染だ。
菜乃「はぁ? あたし、異世界とかマジ無理なんですけど!
てかスライムとか出るんでしょ? 絶対ムリムリムリ!」
そんな彼女の後ろで小さく肩をすくめているのは、眼鏡をかけた江頭コマリ(えがしら こまり)。
おとなしく、図書館が似合う文学少女タイプだ。
コマリ「……無理です。わたし、運動できませんし……それに、魔王って怖いですよね……?」
「大丈夫! みんなに特別な力を授けます!」
管理者は指を鳴らした。
次の瞬間、四人の身体に光が宿る。
「相田アーノルド──あなたには“勇者の剣”を。
火をまとう剣で、魔族に絶大なダメージを与える武器です!」
手に現れたのは、紅い光を放つ剣。
アーノルドはそれを見つめ、眉をひそめた。
アーノルド「……本物、なのか?」
「もちろん。次、飯田愛風くん!」
アイカ「俺っすか?」
「君には“頑丈な体”。どんな攻撃を受けても、簡単には倒れない肉体を授けよう!」
アイカ「いや、それって地味じゃね?」
「地味だけど、死なないのは重要です!」
管理者は笑顔で押し切る。
「次、上村菜乃さん!」
「“聖女の力”です! 回復も浄化もできる万能スキル!」
菜乃「聖女!? なんかイメージ違うんだけど!?
てか、ヒール役とかマジ性に合わない!」
「最後に──江頭コマリさん」
コマリ「えっと……わたし?」
「“魔法の杖”を授けましょう。創造の魔法が使えます。
想像したものを現実にする、特別な力です」
コマリ「創造……。あの、絵に描いたものを実現させたり?」
「できますよ。絵心さえあれば」
コマリの瞳がわずかに輝いた。
コマリ「……ちょっと、楽しそうかも」
管理者は満足げに頷く。
「では、みなさん──異世界への扉を開きます!」
菜乃「ちょ、まっ──!」
菜乃の叫びもむなしく、光が弾けた。
四人の身体は白い渦に飲み込まれ、次の瞬間、世界から消えた。
*
アーノルド「……うぅ、頭いてぇ……」
アーノルドたちは人の気配のする方に目を向けた。
そこには、王の間の玉座に腰かける、いかにも王様然とした男がいた。
王「我がピピン王国へようこそ、勇者様方。」
最後まで、読んでくださりありがとうございました。
心から感謝しています。




