プロローグ
トロンド帝国。
この世界でいちばん大きく、いちばん人の多い国。
長い年月の中で、絵も音楽も学問も発展し、人々は「ここが世界の中心だ」と信じていた。
けれど、その夜――
すべては静かに終わりを迎えた。
黒い雲が月を隠し、地の底からどす黒い風が吹き出した。
その風とともに、魔族の大軍が帝国へ進んできたのだ。
先頭には〈魔王〉。
魔王「人間を皆殺しにしろ」
その姿を見た兵たちは、恐ろしさのあまり足をすくませた。
「怯むな! この地を守れ!」
帝国最強の騎士団が剣を抜き、前へと進む。
だが――夜空に響いた咆哮のあと、帝国が壊れた。
炎が町を包み、氷が空から降り、巨大な竜の影が空を飛び回る。
人の力では、どうにもならなかった。
それでも兵たちは最後まで戦い、国のために命を捧げていった。
そのころ、王都の奥深くでは――
王女アンが父である王に呼び出されていた。
王「アン……お前は、生きるのだ」
アン「お父様、それは……!」
王「帝国の血を絶やしてはならぬ。三人の騎士をつける。西へ逃げなさい」
その声は、とても静かで、優しかった。
けれど同時に、それは“別れ”の声でもあった。
アンは涙をこらえ、父の命令に従うしかなかった。
──夜明け前。
空がまだ暗い中、アンと三人の騎士は燃える都をあとにした。
だが魔族の追手はすぐに迫り、逃げるたびに一人、また一人と倒れていく。
「王女殿下……どうか、生きてください」
最後の騎士がそう言い残し、炎の中へ消えた。
アンはただ走った。
泣きながら、叫びながら、それでも前へ。
数日後、彼女は知る。
――トロンド帝国は滅びた。
父のいた王城は魔王の城となり、「魔王城」と呼ばれていることを。
すべてを失ったアン。
けれど、生きている。
それだけが、父と騎士たちが残してくれた“願い”だった。
そんなとき、アンの耳に一つの噂が届く。
――西の大国であるピピン王国で、異世界から“勇者”が召喚された。
アン「勇者……異世界の人……」
その言葉は、胸の奥に小さな光を灯した。
計画なんてなかった。
けれど、足は自然と西を向いていた。
アン「会わなければ。そして父、国民の仇をとらないといけない」
アン「お父様、あなたは私に生きてほしいかもしれませんが...」
アン「私は、このまま何もしないで生きるなんて耐えられません。」
滅びの国から逃げ延びた姫は、異世界から来た勇者と共に、魔王と戦うことを決心した。
最後まで、読んでくださりありがとうございました。
心から感謝しています。




