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美容師の憂鬱  作者: 森の ゆう


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8/9

第8話「キッズカットはバトルロイヤル」

午後2時。昼の眠気が店内に漂う頃、予約表の名前に瑞希は一瞬だけ身構えた。

「タケルくん(4歳)」。

この二文字に、ベテラン美容師ほどのけぞる。

子どものカット、それは可愛さと混沌が同居する戦場——別名「バトルロイヤル」。

「こんにちは〜!」

元気よく入ってきたのは母親の笑顔と、全力疾走のタケルくん。

「うちの子、じっとできますよ〜!」

その言葉を聞いた瞬間、瑞希は悟る。死亡フラグだ。

タケルくんはカット椅子に座るや否や、回転機能を発見。

「回るー!」と360度旋回。

瑞希がハサミを構える前に、物理的な敵対行動が始まる。

レンが隣で小声で実況する。

「敵、回転中っす。無限ループ入りました」

「止めたら泣くタイプね」

「ですね」

「タケルくん、アンパンマン見よっか!」

タブレットを差し出すと、一瞬静止。

だが五秒後、別の興味が発動する。

「これなにー?」「なんで切るのー?」「チョキチョキってなんの音ー?」

質問の嵐。瑞希は冷静に答えながら、髪を一束ずつ切る。

その間にも、タケルくんの首は左右上下に常に稼働。

「動かないでねー」

「うん!」(即動く)

母親は隣で申し訳なさそうに笑う。

「ほんとは家でもじっとしてるんですけどね〜」

瑞希は内心で“ほんとは”の定義を考える。

20分後。ついに仕上げ段階。

「もう少しだけ我慢ね」

タケルくんは頬をふくらませながら言う。

「ガマンきらいー!」

そして、見事なタイミングでくしゃみ。

前髪にハサミが触れ、予定より2ミリ短くなった。

母親の瞳が一瞬だけ泳ぐ。瑞希はすかさず笑顔で言う。

「動きのあるデザインです!」

終了後、タケルくんは鏡を見て満足げに言った。

「かっこいい! パトカーみたい!」

瑞希は笑う。「うん、スピード感あるね」

母親もほっとしたように頷く。

その瞬間、瑞希の背中を汗が伝う。

ブリーチ三回より疲れる一時間。

閉店後、レンが呟いた。

「子どもカットって、なんか人生の縮図っすね」

「どういうこと?」

「思うようにいかないけど、可愛いから許せるっていう」

瑞希は少し笑って頷いた。

「そうね。しかも、また来るのよ。泣きながらでも」

翌日、予約アプリに通知が来た。

“タケルくん・三週間後・おまかせ”

瑞希はスマホを見て、小さくつぶやいた。

「リマッチ、受けて立とう」

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