自分がやってたゲームの世界に転生しました。
「うーわ、マジか…本当に転生してんじゃんよ。」
輝く銀髪に白い肌。切れ長の大きな瞳は青紫色ですらりとした体格に長い手足。
この姿、そのまんまゲーム内で自分で作ったキャラクターの見た目だ。
「神様が言ってた通りじゃん。すげーなぁ」
そう、俺ってば死んで転生しちゃってるんだよね。しかも自分がやってたゲームに。
いやまぁ趣味がゲームだから数あるゲームの中で「どれに転生する?」って聞かれたらさ、ちょっと迷うじゃん。んだけど、どの世界で生きるかってことを考えたら昔ながらの冒険RPGも捨てがたいけど魔王がいる世界とかやっぱ嫌だし、とはいえ最近主流のFPS系だと銃火器で人間同士が殺し合うつーのも遠慮したい。
じゃぁもう無難にオープンワールドゲームがいいよな、ってことでこうなったわけだよ。
あ、もちろん恐竜と戦ったり捕獲したりの現実的な物理サバイバルじゃないほうな。
魔獣は居るし剣でも戦うけど魔法が使えるし単独戦闘もイケる系の、しかも町とか人の生活があるような、やりようによっては異世界スローライフも出来るし冒険者にもなれるよっていうゲームを選んだ俺マジ天才。
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名前:恋志川隆哉
享年:26歳
寿命:78歳
職業:会社員
趣味:ゲーム
死亡理由:過労による溺死
生前の行い:
良くも悪くも無い。
ただし、死亡理由が他者からの影響でもあるため、本人の過失ではない。
情状酌量の余地あり。
禍根等:特になし。
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『うぅ~ん…すっごく、微妙だなぁ。』
「なにがっすか?」
『いやだってさぁ…生前の行いが良くも悪くもないって。悪行と善行が相殺されてるパターンだし。ちょっぴり可哀想かなって死因だけど、それだって過労で死ぬ前にどうにか環境改善したらよかったんじゃない?っておもうし。あぁでも自殺でもない溺死か…疲れてお風呂で寝ちゃってってことかぁー…う~ん。』
「そっすね、うっかり湯船で寝ちゃいました。」
『そっかーあはは…。う~ん、善行が上回ってないから天国行には出来ないし、でも寿命が残ってるからといって現世の転生待ちはもういっぱいなんだよなぁ。待ってる間に寿命尽きちゃう可能性もある…かも…そしたら並び直しになっちゃう。』
俺の名前から死因から生前のアレコレが書かれているらしい巻物を前にふわふわと浮かぶ小さな光の粒が空中をウロウロしている。
なんか不思議だな、っておもう。
俺はてっきり死んだら閻魔大王に会って裁判を受けて天国か地獄化の二択になるものだとおもっていたんだけど。そんなイメージよりももっと簡素な面談だ。
まぁ、でもこの光の粒が神様なんだなってわかるのは、白くて明るい空間なのに光ってるってわかるなのかも。…いったい何㏐あるんだろう。
《*㏐=lumenとは明るさの単位*》
『最近はコンプラ厳しくて、何十年も待ったのに並び直すのってどうなの?って苦情もあるし…いやさ、この並んでさらに並び直すのも徳を積むことになるんだよ?でもさぁ…最近はそうじゃないじゃん。悪人じゃない魂の意見も取り入れて改善していかなきゃってことなんだろうけど…現場に丸投げしないで欲しいよねぇ…』
光の粒なのにため息を吐いたのがわかった。
なんだろう、この神様………社畜かな?
しかもヘタに役職のある上からも下からも板挟みになってるタイプの、…社畜。いや天界畜かな?神畜とか?
(うわースゲエ気持ちわかるわーっ!俺も!俺もそうだったんだよ~!)
平社員なら「やってられっか!」って辞表出せるだろうけど、役職つくとなー…良い先輩とか後輩とか、馴染みのクライアントとか、そういう優しい人が居ると頑張っちゃって…超過労働して過労になちゃったわけなんですけど。んで死んじゃったワケなんですけど。
(それにしてもこの報告書?みたいなの、俺が喋ったわけじゃないのに簡潔にしっかり書かれてんなー。特にこの『禍根等は特になし。』ってのが)
というのも。俺の死因は風呂場での溺死だ。
疲れて風呂に入ったら、うっかり寝ちゃってそのまんま。
無断欠勤した俺にキレた上司が発見した頃には五日も湯船で煮込まれた状態だったわけだよ。
ユーレイってさ、誰かに見つけてもらって初めて自覚すんだね。
「あー、俺って死んだんか。」という程度で、驚きはしても無念とかはなかった。誰かを恨んで死んだわけじゃねーからかな。
けどちょっとだけ驚いた上司の顔にスカッとしたような気にはなった、…けど、腰抜かしてゲーゲー吐きながらでも警察に連絡入れたり事後処理してくれたり実家にも頭下げてくれたりって姿をみちゃったらさぁ、そりゃぁ嫌な上司だったけど申し訳ねぇって気持ちにもなるし。
天界での書類には『過労による溺死』となっていても現実ではただの『事故死』だし。なんか、そういうことはちゃんとしてんだなー。
なんてことをボンヤリ考えてられる暇があるのは、目の前の神様がいつまでもオロオロしながらはっきりしないせいだとおもう。
「神様ー、俺ってどうなるんですかね?順番待ちして徳を積んだ方が来世では億万長者になれるとか?」
『あぁ~それなんですけど、徳を積んで億万長者になっても誠実さを失うと結局は相殺で延々と輪廻からは抜け出せなくて…他者に施し清貧でなければ結局天国には上がれないんですよ。』
「えぇぇ?それって常に貧乏でいろってこと?」
『財は欲の象徴ですから…自己研鑽と成功の証でもありますけど。』
「なにそれ。結局どうすりゃいいの?」
『どう、といわれましても…こればっかりは神だって生き様を見て判断するしかないわけですから、一生懸命悔いなく生き抜いてください。と、しか……』
「いや、俺もう死んじゃったんだけど。」
「…………ですねぇ~」
光の粒だけど、苦笑いしてるのがわかった。
つまり、現段階では天国に行けるほどじゃないし、かといって地獄行でもないし、順番待ちさせるにもコンプラがあって…というにっちもさっちもいかん状態の『俺』ってわけかい。
「どうすんの?」
『やっぱりここは、途中転生がいいんですかねぇ。』
「ん、なにそれ?」
『流行り神が最近せっせと流布している観念ですよ。寿命半ばで死んでいった魂を一旦保護するっていうんですかね、その人の頭の中にある物語の中に転生させて本来の寿命までの期間を記録するんです。』
「へぇ…?あっ!最近よくある異世界転生とか勇者召喚とかってそういうことか?」
『あ、はい。流行り神はそりゃぁ昔は病を齎す悪鬼と恐れられてましたが現代ではインフルエンザとして治療薬も開発されまして…まぁ元々が病は気からとでもいいましょうか人々の恐怖を煽って清潔な環境を維持するように促す神でもありましたし。…あ、そんなことは置いておいて。とにかく、流行り神というのはさまざまな観念を流行らせて植え付けるというのも仕事なんですよ。』
「あ~それで転生だの転移だのの小説とか漫画が流行ったってことか。」
『はいそうなんですよ。そういう観念が植え付けられていれば…ねぇ。受け入れやすくなるでしょう?』
「まぁ…そうかも。いきなり生まれ変わった先が知らない世界だったら吃驚するし。」
『といっても生まれ変わったら記憶なんてないのでそれなりにどこでもやっていけるもんなんですけどね。』
「はぁ?それならこの面談の意味ってなに?」
『忘れてしまいますけど、選択できないのは嫌じゃないですか。』
「あ、確かに。」
『…というわけで、ゲームでも漫画でも物語でも、いまなら選び放題ですよっ!あ、ただし感情移入した人物かその近しい存在に生まれるかはランダムなんですけど。低確率ではありますけど所謂モブという無関係な存在に生まれ変わることもあります。』
「はぁ~?」
『いや!でも大丈夫ですよ!寿命が残ってる方は優遇されますのでっ!』
「でもランダムなんだろ?」
『うっ…じゃ、じゃぁ転生先を指定していただければ、確実にします。これでも神なのでっ!』
「おお太っ腹ぁ!じゃぁん~。ど・こ・に・し・よ・う・かな~?」
で。悩んでこのゲームの世界を俺は選んだ。
中世ヨーロッパ風の世界観、魔法も魔獣も存在するけれどそれなりに確立した社会がある、ストレスフリーなゲームの世界へ。
△〇×□
おわり。
**あとがきのようなもの**
思い付きで書きました。
あとイベントに参加したかったんで。
でもホラーって難しいよねー。なんも怖いのおもい浮かばないから、人が死ぬ話といえば異世界転生かな?という安直さこうなりました。
だって出だしでみんな死んでるし。
あとさ、転生者ってピンポイントで記憶あるじゃん。アレってなんでだろ~?という疑問を自分なりに想像してみたら、いや絶対自分で選んでんなとおもったわけだよ。
そもそも全く知らん世界に飛ばされたら、ゼロスタートなわけだし生きるのに必死で記憶なんて思い出すヒマないんじゃない。
というかさ、もし自分が前世の記憶があって、しかも火星人だったらどうよ。
なんかよくわからん記憶があるなという認識の前に、忘れるとおもうんだよね。今の自分に役に立たない記憶だから。
ってことで、なんで転生した先の世界のこと知ってるの~?ということもついでに書いてみました。
だいたい5分で読める文字数を目指しました。
もし続きを書くのなら、間違いなくBLになることでしょう。なんせ大本の創造主が私なので。笑。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
またいつか私の稚拙な文章を見かけたら読んで下さるとうれしいです。
では!
〆