こぼれた時間
夕暮れの街は、琥珀色の液体をこぼしたように光っていた。
小学校の門を出て、いつもの帰り道を歩く。風が吹いて、僕の肩を細く撫でた。
──いつもと、違う道を通ってみようか。
思いつきで、ひとつ角を曲がった。そこは知らない路地だった。薄青い瓦屋根の家が並び、どこからか鉛筆の削りかすの匂いがする。細い道を抜けると、ぽつんと小さな店があった。
玻璃堂
すりガラスの扉に、かすれた文字が浮かんでいる。店の奥は薄暗く、なにか光るものが見えた。硝子細工だろうか。ふと、扉に手をかける。
「いらっしゃい」
奥から声がした。透き通るような、それでいて、ひどく冷たい声だ。
足を踏み入れた途端、まるで空気が水に変わったように、ひやりと肌にまとわりつく。棚には、色とりどりの瓶やガラスの欠片が並んでいる。どれも指先で触れたら消えてしまいそうなほど繊細だ。
「君には、どれが見える?」
白い指が、棚を指した。
「僕は、」と、ことりと喉を鳴らしながら答える。いきなり話しかけられたことに驚くよりも先に、その質問に答えたい気持ちが勝っていた。普段は人見知りで、知らない人と話すなんて怖くてできないのに。
目の前のガラスの中に、昼間の校庭が映っている様子が見える。そこに設置されているブランコに座る僕がいた。そして、その僕の顔は、ぼんやりと霞んでいるように見える。
「……これは、何?」
店主は答えなかった。ただ、すこし微笑んだ。
カラン、と店の奥で風鈴が鳴った。玻璃色の音が、僕の耳の奥でゆっくりと溶けた。
「凪くん。君もまた、ここの住人の一人になるのだろうね。」
「え?なんで僕の名前を?」
凪は、店主を見上げた。どこか冷たく、それでいて優しさが隠されている目。
「僕が、住人?」
「この店に来た者は、皆そうなる。」
店主はゆっくりと棚を指差した。棚の上には、ガラス細工の小さな人形が並んでいる。そのどれもが、凪が一度も見たことのない顔をしていた。だが、その中の一つだけが、凪を見つめ返しているような気がした。
その人形の目は、どこか哀しそうで、またどこか夢見るように空を見上げていた。
「それは?」
「君の未来。」
凪の胸がざわめいた。まるでその言葉が、彼の心に直接触れたかのようだった。
「どうして…僕の未来が、ここに?」
店主は無言で、ただ凪に向かって一歩、また一歩と近づいてきた。その足音が、まるで空気そのものを削り取るように静かに響く。
「君が選ぶんだよ、凪くん。」
店主が言うと、凪の手のひらにひんやりとした感覚が広がった。気づくと、いつの間にか凪の指には、小さなガラス細工の鳥が握られていた。それは、まるで生きているかのように温かかった。
「それは、君の選んだ未来の象徴だ。」
凪はその小さな鳥を見つめ、息を呑んだ。心の中で何かが静かに囁いているようだ。だが、その囁きは恐ろしいほどに優しく、そしてどこか懐かしいものだった。
「さあ、凪くん。扉を開ける準備ができたか?」
「僕は…。」
店主はただ微笑んだだけで、他には何も言わない。その途端背筋にひやりとした感覚が走った。ゾクッとして、全身の鳥肌が立つほどに身震いがしたが、けれど、心のどこかで、店主の言葉に従うことが、なぜか自然に感じられた。
気が付くと、店の空気が変わっていた。ひんやりと冷たい風が、凪の髪をそっと撫でる。辺りは薄暗く、まるで深い霧の中に迷い込んだかのようだった。足元には、細かいガラスの破片が散らばり、その一つ一つがまるで夜空の星のようにきらめいていた。
「あれ、店の中に居たはずなのに。」
振り返ると、店主の姿はすでに消えていた。凪は一瞬、戸惑いの中で立ちすくむ。
「それでも、僕は行かなきゃいけないんだ。」
自分にそう言い聞かせて、凪は歩き出す。すると、ふと、足元に小さな音が響いた。それは、ガラスの破片が音を立てて動くような、不思議な感覚だった。
その音に耳を澄ませると、背後からひとりの声が聞こえた。
「君は、何を望んでいるんだ?」
凪はその声に驚いて振り返ったが、そこには誰もいない。
「望んでいる…?」
その問いが、凪の心に静かに響いた。何を望んでいるのだろう、彼は。学校に行くこと、友達と遊ぶこと、何気ない日常が戻ってくること。いや、それ以上に、何かを変えたかったのか。
「……変わりたい。」
凪は小さく呟いた。彼の心の奥で、ずっと感じていた空虚感。その思いが、今、形を持とうとしている。
その瞬間、目の前にひとつの大きな鏡が現れた。鏡の中に映るのは、かすかに浮かぶ自分の顔だった。だが、鏡の中の凪は、実際の凪とは違って、どこか儚げで透明な存在に見えた。まるで、本当の自分が見えてきたような気がした。
「君は、変わりたいのか?」
店主の声が、再び聞こえた。今度は耳元で、まるでそっと囁くように。
凪は鏡の前で立ち尽くし、鏡に映る自分をじっと見つめた。鏡の中の自分は、どこか遠くを見つめている。
「僕は…」
言葉が出なかった。その答えを、凪はまだ知らなかった。鏡の中の自分が何を望んでいるのか、どこへ向かうべきなのかが、わからなかった。だが、なぜかその鏡の中の自分には、どこか安堵感を覚えていた。
ゆっくりと手を伸ばし、凪はその鏡に触れた。
その瞬間、鏡の中の自分が一瞬、微笑んだ気がした。
凪の手が鏡に触れた瞬間、冷たい感触が全身に走り、その感覚が一瞬で拡がった。まるで鏡が彼の手を吸い込むかのように、反発する力もなく、ただ静かに凪を包み込んだ。
「え…?」
凪は声を上げる暇もなく、全身がぐんっと引き寄せられた。鏡の中の世界がぐにゃりと歪み、目の前の風景が崩れていくような感覚に、凪は思わず目を閉じた。
次の瞬間、凪の体は鏡の中に引きずり込まれていった。
――どこまでも、深く、暗く。
まるで何かの渦に巻き込まれたような、落ちる感覚。身体はすぐに重力に逆らうことができず、ただ無防備に引き寄せられ続けた。
そして、ふとその感覚が止んだ。目を開けると、凪はもう鏡の前に立っていたときの景色とは全く違う場所にいた。
周囲はただの暗闇。まるで、どこか異次元に迷い込んでしまったような、不安と興奮が入り混じった空間。
その時、ふわりと風が凪の耳元をかすめた。振り返ると、そこに立っているのは店主だった。
「どうした、凪くん。」
店主の声は、冷たいままだったが、、しかし、どこか安心感を与えるものでもあった。その目には、今、凪が感じていた不安が見透かされているような気がする。
「これは…一体、どこ?」
凪は少し震えた声で尋ねた。心の中で、何かが消えていくような不安感が広がっていった。
「ここは、君が選んだ世界だよ。」
店主の言葉が、凪の心に突き刺さった。選んだ世界?それはどういう意味なのか、凪にはまだわからなかった。だが、確かに、何かが選ばれたのだろう。
「君の未来、君の望んだ世界。君がそれを選ばなければ、ここには来なかった。」
店主の言葉が、再び凪を締め付けた。目の前がぼやけ、冷たい風がさらに強く吹き付ける。
「僕は…」
凪は立ち尽くし、息を呑んだ。選んだ…?それは一体どういうことなのか。
「選ぶのは君だ。」
店主の声が響く。その一言で、凪は全てを理解したような気がした。選ばなければならない。選んだ先に待つものが、全てだ。
だが、それが何かは、まだわからなかった。
店主が静かに微笑む。その表情が、まるで予言者のように、凪の心に深く刻まれていった。
「扉を開けなさい。未来を。」
その言葉に背を押されるように、凪はゆっくりと足を踏み出した。闇の中に、ほんの少しだけ光が差し込んでいる。光の先には、何かが待っているような気がした。
でも、今、凪はその光に向かって歩き始めるしかなかった。
凪が歩みを進めると、突然、前方から誰かの気配が感じられた。薄暗い空間の中で、その人物の輪郭が次第に浮かび上がっていく。
「――お前、まだここにいたのか。」
その声に凪は驚いて足を止めた。見上げると、目の前に立っていたのは、どこか浮世離れした少年だった。年齢は凪と同じくらいに見えるが、目元に不思議な陰影があり、どこか異世界の住人のようだった。
「君は……?」
凪が尋ねると、少年は少し眉をひそめてから、冷たく言った。
「俺は君と同じく、この世界に迷い込んだ者だ。」
その言葉に凪の胸が締めつけられる。迷い込んだ者――その少年がここにいるということは、自分だけではないということだ。
「君も、選ばれたんだろう?」
凪は一瞬、答えを探して言葉を飲み込んだ。僕がこの世界に来ることを選んだのだろうか。今、ここにいる自分は、どこで、なにを、選んだのだろうか。
そのとき、突然、空間が揺れたような感覚が凪を襲った。振り向くと、あの店主の姿が現れた。凪が気づく前に、店主は微笑みながら、ふたりの間に立っていた。
「おや、君たち出会えたんだね。」
店主の声が静かに響く。凪はその顔を見上げると、店主が何かを考えているような、何かを隠しているような表情をしていることに気づいた。
「この少年は君に“試練”を与える者だよ。」店主が言った。
凪はその言葉に驚く。試練――つまり、この少年が自分に与える課題があるということか。
「試練?」
「君は選べるんだ。試練を受けるか、受けないか。選ぶのは君自身だ。」
少年が静かに言う。
「君が試練を受けることで、何かが変わる。それを受け入れるかどうかは、君次第だ。」
凪はその言葉に深く考え込む。どうしても試練を受け入れるべきなのか。受け入れることで、何が待っているのか、どう変わるのか。その不安と期待の狭間で、凪は心が揺れた。
そのとき、再び店主の声が響いた。
「そして、試練の先には、君の未来がある。君が本当に望む未来が、君を待っている。」
その言葉は、凪にとって、まるで運命の選択を迫られるような重みを持っていた。何かを変えたい。その気持ちが強くなり、凪は心の中で深く頷いた。
「――僕は、試練を受ける。」
その決意を口にした瞬間、空間がひときわ強く揺れた。何かが始まる予感がした。
「君の選択は正しい。」店主の声が響く。
その瞬間、凪は目の前に広がる霧のような空間をじっと見つめる。その先に、何が待っているのかはまだわからない。だが、今はただ、前へ進むしかないと感じた。
「行こう。」少年が静かに言った。
そして差し出されたその手を握った瞬間、凪の体が再び動き出した。試練が始まる――その予感が、凪を包み込む。
凪は少年の手を強く握りしめた。何かを決意したような、そんな気持ちが胸の中で膨らんでいく。少しの不安と共に、心の奥底から湧き上がる感覚が、まるで新しい世界に踏み込む準備ができたかのように感じられた。
「君は本当に試練を受けるんだな。」少年の声が、冷たく、しかしどこか楽しそうに響く。
「うん、受けるよ。」凪は静かに答えた。
その言葉を合図に、少年はゆっくりと歩き始める。凪もそれに続いた。足元がふわりと浮かんでいるような感覚に包まれる。周りは一面の霧に覆われ、何も見えない。歩きながら、凪はその不安定な空間に少し戸惑うが、少年の足音が前方から響くたびに、少しずつその不安も消えていく。
霧が薄くなるにつれ、次第に目の前に現れたのは、古びた扉だった。その扉は異様なほどに重厚で年代を感じさせる。しかし、それ以上に、その扉から漂う不気味なオーラが、凪をさらに迷わせた。
「試練の入口だ。」少年が言った。
その言葉に、凪はふと立ち止まった。迷う気持ちが心の中で渦巻く。これは、もう後戻りできないような気がした。
「本当に、この扉を開けるべきなの?」凪は、心の声が鳴り響く。
その瞬間、背後から心の声が答えるように、凪の耳元に優しくささやかれた。
「君が選ぶべきだよ。試練が終わった後に、君が何を得るか、どんな未来が待っているかは、すべて君の手の中にある。」
その声は、凪の心を静めるように響いた。心の中の迷いを断ち切るために、凪は深く息を吸った。
「行こう。」凪は自分に言い聞かせるように呟いた。
少年が扉に手を伸ばし、重々しくその扉を開けた。扉が開くと、凪は眩しい光に包まれ、目を細める。その光は暖かく、どこか懐かしさを感じさせた。
その先に広がっていたのは、まるで夢のような光景だった。空は紫色に染まり、空気はどこか甘い匂いを漂わせている。見上げると、遠くに煌めく星々が、まるで手の届くような近さで輝いていた。幻想的な美しい風景が広がっていたが、その中に、一つだけ異様な存在があった。
空に浮かぶ、巨大な時計のようなもの。それはまるで時を支配しているかのように、ゆっくりと回転していた。
「ここが試練の場だ。」少年の声が響く。
凪はその場に立ち尽くし、何が始まるのかを待った。時計の針が一回転するたびに、周りの景色が変わるような気がした。そして、ふと気づくと、少年の姿が消えていた。
「あれ、あの子がいない。」凪は周囲を見回し、少年を探すが、彼の姿はどこにも見当たらない。
そのとき、再び、空気が変わる感覚が凪を襲った。突然、無数の影が現れ、その中から声が聞こえてきた。
「試練を受ける覚悟はできたか?」
その声が、どこからともなく響いてきた。凪は振り向き、目の前に現れる影に目を凝らす。そこには、他の誰かが立っているのだろうか。いや、それは違った。
影たちは、まるで凪の心の中から現れたかのように、同じ顔をした自分だった。
「これは……?」
「君の試練は、君自身を乗り越えることだ。」
その声が、空気を震わせるように響き、凪の心に深く刻まれる。
凪は、目の前に現れた無数の自分の影に囲まれて、冷たい汗が背中を流れるのを感じていた。彼の心臓は、激しく鼓動している。自分が何者かを問い続けるように、彼の内側から不安が次々と湧き上がってきた。
「君は何を怖がっている?」影の一つが口を開いた。その声は、まるで凪の心の奥底から引き出されたようだった。
「わからない…」凪は呟いた。自分の声が震えているのがわかる。何が怖いのか、どうして不安なのか、正直なところ、凪にはそれがわからなかった。ただ、どこかで、何かに押しつぶされそうな気がしていた。
「何もわからずに、不安なままでいることが、最も怖いことだ。」影の一つが、鋭い眼差しで凪を見つめる。「君は自分が何者か、どこに行くべきかを知らないから、恐れている。」
その言葉が、凪の心に深く響いた。確かに、凪はこの世界で自分が何をしたいのか、何をすべきなのか、今までずっと迷っていた。周りの期待に応えることばかりに必死で、いつの間にか、自分自身を見失っていた気がする。
「でも、君は君だよ。」また、別の影が言った。「怖くても、迷っても、君は君として進むしかない。」
その言葉が、凪の中で何かを解き放つような気がした。心の中に閉じ込められていた不安が、少しずつ薄れていくのを感じる。
「君は、何を恐れているんだ?」影たちが繰り返す。
「…僕は、自分が何者か分からなくなるのが怖かった。」凪は静かに答えた。「でも、今、少しだけ分かった気がする。僕は、僕なんだって。自分を見失うことがなければ、恐れるものなんて、何もないんだって。」
その言葉が出た瞬間、周囲の景色が一変した。影たちがゆっくりと消えていき、代わりに、凪の周りには柔らかな光が溢れ出した。心の中の不安が晴れ、今まで見えなかった未来の扉が、ふっと開かれたような気がした。
「よく言った。」突然、少年の声が響く。凪はその声に振り向くと、少年がゆっくりと歩み寄ってきていた。
「君は、試練を突破した。」少年が言うと、空間が揺れ動き、凪の目の前に新たな扉が現れる。その扉は、今までのどの扉よりも、明るく、希望に満ちたものだった。
「この扉の先に、君が選んだ未来が待っている。」少年の声は、温かく響いた。「ただし、君が何を選ぶかは、君次第だ。」
凪は、その扉をじっと見つめた。心の中に浮かぶのは、何も怖くない、自分を信じて進んでいくことができる未来だった。無限の可能性が広がっているように感じ、凪は深呼吸をした。
「行くよ。」凪は、小さく呟き、前へ踏み出した。
そして、振り返らずに、扉を抜けた。
その瞬間、ふっと世界が静かになった。周りの光が瞬きを繰り返し、空気がゆっくりと歪む。視界がぼやけ、まるで何か大切なものが溶けていくようだった。彼は、何かが変わっていくのを感じた。ゆっくりと、手のひらがふわりと浮き、何も掴んでいないことに気づく。
その瞬間、地面が急に消えて、凪は一瞬、空中を彷徨ったような気がした。目の前に広がっていた光の世界は、霧のように消え、代わりに現れたのは、見覚えのある道――帰り道だった。
「え…?」
凪は足元を確認した。いつもの校門が見え、辺りに聞き慣れた声が響いている。それは、夢の中で過ごしていたあの世界とは全く違う、現実の光景だった。頭の中が、混乱でいっぱいになった。
「おい、凪!遅いぞ!」
振り返ると、学校からの帰り道に見覚えのある顔が立っている。友達の一人、俊太が手を振りながら歩いてきた。
「え?俊太…?」
「何、ぼーっとしてんだ?さっさと帰ろうぜ!」
凪は、しばらくその場に立ち尽くしていた。夢だったのか、現実だったのか、もう分からなくなっていた。俊太の声が現実味を帯びて聞こえる一方で、あの世界で見た少年の微笑みが、頭の中で鮮明に残っていた。
「お前、今日、どうしたんだ?」俊太が少し心配そうに言う。
凪は少し目を閉じて、深く息を吸った。あの世界で学んだこと、感じたことが、今でも心の中に息づいているようだった。それが本当に夢だったのか、それとも現実だったのか、もう確かめる術はない。
「いや…なんでもない。」凪は顔を上げ、友達に微笑んだ。「ちょっと、考え事してた。」
俊太は不思議そうに凪を見つめたが、何も言わずに歩き始めた。凪はその後ろに続きながら、心の中で答えを探していた。
もしあの夢が本当に夢だったのだとしたら、何か大切なことを学んだ気がする。それは、現実でも忘れないようにしたいと思った。
でも、もしあれが本当だったのだとしたら――。
凪はふっと足を止め、空を見上げた。夕暮れ時の空が、どこか切なげに広がっている。もう一度、あの扉の向こうに何があったのかを思い出そうとしても、ぼんやりとした記憶だけが残る。
「…どちらでもいい。」凪は、自分に言い聞かせるように呟いた。「大事なのは、今を生きることだ。」
その言葉を胸に、凪は歩き出す。振り返らずに。後ろには、何もない道が広がっているだけだった。