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9. 漏れる冷気と遥斗の想い

「やあ、こんにちは。」


俺の本能が言っている。逃げろ!早く逃げろ!と。しかし、そんな本能とは裏腹に、この店内に逃げ場などなく、俺はただ迫ってくる冷気をじっと待つことしかできなかった。


俺は震えながらもなんとか声を出す。


「み、美玲会長。」


「そうだぞ?みんな大好き。我が学園のアイドル。美玲様だ。」


偏差値バカたかの我が校で、2年の頃から生徒会長を務める、天才生徒会長、神木 美玲(かみき みれい)。成績優秀、容姿端麗、スポーツもできるまさに歩く才色兼備。そんな生徒会長とはなにかと縁があって............。


「どうしたんだ?震えて。ん?」


「いや、あの、その..........。」


「大丈夫。私は怒っていないぞ?今日来るようにと言っていた生徒会の仕事をすっぽかし、みんなで楽しく勉強会をしていたことも、以前勉強会をしたと聞いたときに、次するときは絶対呼ぶという約束を破られたことも.........。私は、全然、怒って、ないぞ?」


いや怒ってますやん。バリバリ怒ってますやん。いま、「そうですよね。よかった~怒ってなくて。」とか言おうもんなら、東京湾に沈められてしまうだろう。東京遠いけど。


「す、すいませんでした〜。すっかり忘れていました。許してください〜。」


「ん〜?だから怒ってないって〜。」


だから怒ってるって〜。


「まあそこまで言うなら、今度買い物の荷物持ちになってもらおうかな。」


「わ、わかりました。」


「それはそうと、私も混ぜてくれよ〜。」


美玲先輩は、その冷気を一瞬で分散させ、勉強に混ざる。まるで何事もなかったように。


てか、なんでみんなも何もなかったかのように勉強始めてんの?


まあそれはさておき、許された........のかな?


美玲先輩の怖さは実感しているからな。美玲先輩の買い物はめっちゃ多いが、まだマシと思えるレベルである。


というか、なんで美玲先輩がここでやってることを知っていたんだろう。俺以外の誰かが伝えたんだろうな。誰だ?


まず消去法でいこう。まず遥斗はない。先輩のMine持ってないからな。結も違うな。ずっと一緒にいたから。灯と夢はあんま親しくないし、日向も関わりはそんなにない。つまり.........


「望海、お前だろ。」


「え?な、何が?」


「美玲先輩に今日のこと教えたの。」


「ナンノコトカナ〜。」


白々しすぎる。


「はあ、もういいよ。許してもらったし。」


「よっしゃ〜。」


望海と先輩は意外に仲が良い。なんか好きな漫画で意気投合したとかで望海はよく先輩に会いに行っているのだ。


さらに15分後。一樹が合流して、夜7時に勉強会はお開きになった。なんかどっと疲れた。


帰り道。


「いやー恩に着る。これで赤点回避できそうだわ。」


「私も〜。」


「私もですわ。」


今一緒に帰っているのは、俺、一樹、遥斗、結、夢、日向、望海の7人である。会長は帰路が違うし、灯はバイト。一緒に帰ってると言っても、日向は俺の背中でぐっすり。こいつは体を動かすよりも頭を動かすほうがつかれるらしい。


「それならよかった。開いた甲斐があったというものだな。」


なお、日向が寝てしまったので、俺がおぶって帰るというと、みんなが寝たフリを始めた。会長までもだ。そんなカオスがひと悶着あって、俺達は帰路についている。


「そうだ。みんな補修回避できたらどっか遊びに行こうぜ。お疲れ様会的な感じで。」


「いいですわね。」


「いこういこう。」


「じゃあみんな赤点取るなよ?」


「くっ。綾斗さんには言い返せませんわね。」


ふ、そうだろうそうだろう。むしろそれくらいしか取り柄がないからな。


(こいつ、実は俺より顔いいって気づいてんのかなぁ。)


遥斗はそう思って夜空を見上げる。


普通の男なら、この綾斗のモテっぷりに嫉妬したりするんだろうが、遥斗に関してはそんなことはない。だって..........


(当たり前、なんだからな。)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺の両親は仲が悪かった。


『ーーー〜〜ーー〜ーーーーーーー!』


『〜〜ーーーーーーーーー〜ー〜ー!』


何について喧嘩していたかなどはもう覚えていないが、あまりにもどうでもいいことだったというのは覚えている。どちらも悪くない不毛な争い。綾斗の親とは大違いだった。


だから、両親が離婚するのは当然といえば当然だった。


当時の俺は、まだ小学生。お母さんのほうが絶対的だったため、俺の意思もあり、母に引き取られることになった。


だけど、当時の俺はわかっていなかったんだ。


喧嘩は父が全部悪いと思っていた。母が可愛そうだと思っていた。でも、違った。本当は、父は悪くなかったんだ。いや、どちらかというと母が悪かったんだ。母と二人で暮らしていると、そのことが嫌でもわかった。父がいなくなっても、母は怒るのをやめなかった。ものに怒り、人に怒り、そして俺に怒り。俺は父への罪悪感で一杯で、日に日に笑えなくなっていた。でも、俺は綾斗に出会った。


「どうしたの?」


「家に帰りたくない。」


放課後、中庭で座っていると綾斗が声をかけてきたんだ。綾斗は、俺の話を聞いてくれた。そして俺に言った。


「大丈夫だよ。うちなんてもっとひどいんだ。」


そういって、話し始めた。あの頃の綾斗は、まだ明るかった。自分の家のことを話してくれた。


「それに、聞いた感じだとお母さんだけに非があるようにも思えないよ?それでもだめなら........。」


そういって綾斗は一泊おいて......


「僕のことを思い出してよ。あの子はもっとひどい目にあってるって。それで気持ちが軽くなったら、今度は同じ悩みを持つ人を助けるんだ。罪は消えないけど、上書きすることはできるんだよ?」


それを聞いて、当時の俺は、光が見えた気がしたんだ。


そして、後に俺はその言葉を胸に、綾斗を救うことになる。

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