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5. 私の気持ち vol.望海 後編

※望海の綾斗の呼び方を修正しました。


「お前ら何してんだ。」


なんで彼がここに?というか家族の誰にも言っていないのになんでここを知ってるの?それ以前にこんなにタイミングよく来れたのはなぜ?そもそもこの人たちに勝てるの?


私の頭の中に、たくさんの疑問が溢れて、思考がぐちゃぐちゃになる。でもすぐに私の頭は一つの考えで整っていた。


綾斗が.....兄が助けに来てくれた。


その事実を脳が理解したとき、私は胸が高鳴って、暖かくなっていくのを感じた。


男は怖いもの。その私の認識を、ゆっくりと白色の絵の具で上書きしていくような。暗い場所に閉じ込められている私に手を差し伸べてくれているような。そんなあったかい気持ち。


気づけば、私は恐怖を忘れて綾斗を見つめていた。


「俺の大事な妹に何してんだって聞いてんだよ。」


綾斗は、全身から漏れている怒気を隠そうともせずに言い放つ。


綾斗の突然の登場に、黒ずくめの男たちはみな、呆けていたが、リーダー格の男は誰よりも早く我に返り、


「ふん、何だ子供か。子供一人に俺等の邪魔などでできまい。お前ら!こいつを捕まえて気絶させてやれ!」


リーダーの男の言葉に我に返った男たちは、綾斗に飛びかかる。


「綾斗!」


思わず心配になって叫んでしまう。きっと以前の私なら黙って見ていたんだろう。けど綾斗に心を動かされて、私は少し変わったのかもしれない。


けれど、いくら叫んでも綾斗を救えるわけじゃない。


綾斗の顔に拳があたっ..........


「ぐううええええ!」


公園中に悲鳴が響いた。攻撃された綾斗........のではなく、攻撃したはずの男からの悲鳴だった。その男は、力なくその場に崩れ落ちる。


「お、おい!どうした!?」


「俺が腹パンしてやっただけだよ。軟弱な奴らだな。さて、お前たち全員に俺の妹を傷つけた報いを受けてもらおうか。」


それからの展開はあっと言う間だった。たくさんの男から浴びせられる拳の嵐。それらをすべて、受ける、流す、払うの3つの動きでさばき、射程に入った敵を腹パンで蹴散らす。実力差の問題で、それは喧嘩というより、一方的蹂躙という言葉のほうが正しいように思えるほどだった。


それからどれくらい過ぎたのだろうか。おそらく1〜2分の出来事であったのだろうが、私には20分にも30分にも思えた。そこら中に男どもが転がっている。さすがにこの量を一人で相手したのだ。致命傷こそないものの、綾斗の体は傷だらけだった。


「大丈夫だったか望海。」


そういって、兄は私に向かって微笑む。なんで。どうして。


「........んでよ。」


「ん?」


「なんで助けたの。危ないじゃない。相手は刃物だって持ってたのよ?もしかしたら死んじゃってたかもしれない。」


「そりゃあ大事な妹だからな。命くらいかけるさ。」


「私今まであんたにたくさんひどいこと言った。冷たくした。大事な妹?冷たくて可愛くないいらない妹の間違いでしょ?」


わからないわからないわからない。いままで冷たい態度取ってて。好かれるはずなくて。なのに命をかけても助けてくれて。もう.......意味わかんない。


綾斗は、じっと黙っていた。私の方をまっすぐに見て、目を離さずに。


「やっぱり。否定しないってことは.......」


「望海。」


突然綾斗が私の名前を呼ぶ。思わず綾斗の方を見る。


それから、綾斗はゆっくりと話し始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は不幸だ。


俺はいらない子だ。


小6のとき、俺は本気でそう思っていた。


俺はそのころ、ほぼ毎日のように母親から罵声を浴びせられていた。


『なんでこんなこともできないの!』


ごめんなさい


『何なのよその目。舐めてるの?』


ごめんなさい


『邪魔。どけよ。』


ごめんなさい


『あんたなんか産まなければよかった。』


...............ごめんなさい。


母親はどうしようもないクズで。


それでも、母親がすべてだった小学生の頃の俺にとって、その言葉は偽りであっても真実で。


その言葉に、態度に俺は毎晩泣いていた。


だけど、俺の父親は優しい人であった。


いつも、助けてあげられなくてごめんと謝られた。


泣いていると慰めてくれた。


母になるべく会わないよう休みになると、必ず遊びに連れて行ってくれた。


きっと父さんがいなければ、俺の心はもっとかさんでいただろう。



中学一年生。


俺が変われるような出来事がおきた。


海道 一樹。甲斐 遥斗。花咲 結。


この3人との出会いだ。お陰で、俺は世界に希望を持てた。


この三人が俺に働きかけてくれたおかげで、俺の世界は、少しずつ色を取り戻していった。


いままで楽しくなかったことも、3人といっしょにいれば楽しいと思えた。


中学2年になったタイミングで、俺の両親は離婚した。不思議となんにも思わなかった。ただ胸がすっとすくようなそんな感覚だった。


そしてお前と出会ったんだ。


会った頃のお前、いや、今もお前は、世界に絶望した顔をしている。かつての俺がしていた顔。今、俺がしているかもしれなかった顔。


望海。


お前は俺とおんなじなんだ。


ただ。


俺には助けてくれる人がいて。


望海にはいなかった。


ただそれだけ。


だから。


俺が助ける人になりたいって。


お前の希望になりたいって。


そう思っただけなんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は黙って、綾斗の話を聞いていた。


以外だった。


あんなに明るい綾斗が、私と似たような境遇にいたなんて。


なんなら、私よりもひどい場所にいたかもしれないなんて。


そして同時に申し訳なくなった。


こんなにも私のことを考えてくれているのに、私は彼を突き放してしまっていた。


男は全員ひどいやつだって決めつけだけで。


私は............大馬鹿者だ。


だめだ。涙が抑えられない。


「ふええぇぇぇぇん。ごめんなさい。わたし。わたし〜。」


「辛かったよな。わかるよ。でももう大丈夫。今はなにがあっても俺が絶対助けるから。」


「ふええぇぇぇん。」


私は彼の胸の中で泣いた。


悲しくはなかった。ただただ、温かいものに包まれているような。安心から出た涙だった。





しばらく泣いて泣き止んだところを見るなり、綾斗は立ち上がり手を伸ばした。


「もう時間も遅い。帰ろう。俺達の家へ。」


「うん!」


よかった。どうやら元気になったようだ。これからも望海を支えていこうと綾斗は心に誓った。


「ねぇ。」


「うん?」


「ありがとうね、()()()()()()!」


「.......おう。」


望海は満面の笑みでそういったのだった。



お読みいただきありがとうございます!


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