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4. 私の気持ち vol.望海 前編

望海視点の話です。


私の父親はろくなやつじゃなかった。


私があいつのことについて覚えているのは、母をこき使って酒を飲む姿。母や私に暴力を振るう姿。そして....あろうことか家の寝室で、他の女と寝ている姿だ。


とにかく父親に会いたくなくて、遅くまで学校に残っていたのを今でも覚えている。


そんな父親とは違って、母は天使のように優しい人だった。


母だって暴力を受けていて。


肉体的にも精神的にも私より辛いはずなのに。


いつも.......私の前では笑顔を崩さなかった。


学校の行事は必ず来てくれた。


いつも父からかばってくれていた。


あのとき、母は私にとっての全てだった。


母がいたから頑張れたし、母がいたからどんなに辛いことが会っても笑っていられた。


なのに.....なのにあいつは.............


あれだけ好き勝手やって、浮気ももうやめてって、やめてくれたら許すからって。


母は寛大な心で受け入れていたのに.......


私が小学5年生になったとき、あろうことか家のお金を全部盗んで、他の女と消えた。


現実味はなかった。


いつもよりも世界が味気ないように思えた。


そして、私と母は抱き合って泣いた。


悲しみの涙ではない。開放の涙だ。嬉し涙だ。


でも...........


私は知っている。


母が、私の一番大事な母が.....私が寝たあとに泣いていたことを.....


それも仕方のないことだ。あんなやつでも母は愛していたのだから。


母の心の傷は、決して消えることはなかった。


私はそんな母をみて泣いた。



それからは幸せな日々だった。


決して裕福ではなかったけれど、母がいるだけで、いっしょに笑えるだけで、私の世界は今までのどんなときよりも鮮やかに見えて。


あいつのせいで、学校の男も教師も、男が大嫌いになったけど、母がいるだけで私は笑うことができて。


なにもない穏やかな日々。


それが私にとって何よりの幸せだった。


そんな幸せがずっと続いていくと、そう思っていた。


でも..........



2年後、母が再婚した。


相手は、職場の取引相手らしい。


私は不安だった。


また暴力を受けるのではないかと。


でもそれは杞憂だったと、後にわかった。



一つ屋根の生活が始まった。


新しくできたお父さんは、とても優しい人で、あいつとは違って家事も手伝ってくれて。


お母さんは毎日が楽しそうだった。


そんなお母さんを見て、私は嬉しかったけど........。


でも....私は心の底から喜ぶことができなかった。


私は...................まだ割り切れないよ、お母さん。



「なあ望海。新しくできたお店でシュークリーム買ったんだけどいっしょに食べないか?」


「いらない。話しかけないで。消えて。」


そう吐き捨てて自分の部屋へと戻る。


同居が始まってからはや2ヶ月。


お兄ちゃんになった綾斗は、この2ヶ月毎日飽きることなく私に話しかけてくる。


私だってわかっている。彼はあいつとは同じじゃないって。いい人なんだって。


でも、心の中ではわかっていても、心の中の弱い私が彼を拒む。はあ。こんなに弱い私が自分で情けなくなる。


そんな思いを胸に抱きながら、私はジャージに着替える。


そして、玄関の扉をそ~っと開けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜10時、私は一人で近くの公園に足を運んだ。ここに引っ越してきてから、気分が落ち込むたびにここにきている。ここはいい。夜は静かで人気もない。心を落ち着けるのにうってつけの場所だった。


夜の少し肌寒い風が私の頬を撫でる。木々のざわめきが心地よい。


ちなみに、家族にはここに来ていることを話していない。


干渉してほしくないから。一人になりたいから。


「はあ。なんで素直になれないんだろう。」


本当は私だってお兄ちゃんと仲良くなりたい。


でも、どうしても思い出してしまうのだ。


男は怖い生き物だ。関わるとろくな目に合わない。


私の中の悪魔がささやく。


そんなことを考えながら、ひとりうつむいてブランコを漕ぐ。


少しずつ風がやんできていた。


私のブランコを漕ぐ音だけが、公園に響き渡る。


そのとき、私の視界に何本もの黒い影が伸びた。


反射的に顔を上げると.......


「お嬢ちゃん、いっしょに来てもらおうか。」


全身を黒の服に包んだ人たちが、私を囲むように立っていた。


「え、、、、、な、なに?」


私は困惑していた。何なのだろうこれは。よくよく考えれば分かる話だ。深夜。一人の女の子。毎日。


誘拐をするのにこれほど適切な人物は他にいない。


「ほら、連れていけ。」


リーダー格の男がそう言うと、周りの人たちが私を担ぐ。


「ちょ、なに、、、やめ、、、、」


私は必死に抵抗したが、抵抗むなしく、私の四肢は縛られてしまった。


そのとき、私が思い出していたのはあいつの顔。


なんであいつの顔なんて思い出してしまったんだろう。


いや、原因はわかっている。私はこいつらにあの男を重ねてしまっているのだ。


思わず涙がこぼれた。


怖い。怖い怖い怖い。


結局男なんて........トラウマが蘇る。


そう諦めかけていたときだった。


「何してんだお前ら。」


突如後ろから聞こえた声。男たちは驚きを隠せずに振り返る。


そこにいたのは、


いつもうざくて、どれだけ突き放してもすぐに忘れて、笑顔で私に声をかけてくる。


そんな()()()()


紛れもなく綾斗だった。


お読みいただきありがとうございます!


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