3. やっぱ必須な後輩と義妹
※望海の綾斗の呼び方を修正しました。
「先輩!付き合ってください!」
3月の卒業式の日。
俺にとって衝撃的で、今でも昨日のことのように思い出せる。
俺の後輩、井上 日向から、人生初の告白をされた日。
でも俺は.........
「気持ちは嬉しいけどごめん。俺は付き合えないよ。」
「っ!理由を聞いてもいいですか?」
「日向はかわいい。いつもポジティブで、近くにいると元気になる。でも.......。」
そこで俺は、一度言葉を切って話し始めた。
「俺とお前じゃ釣り合ってない。俺にお前はもったいなさ過ぎる。きっとこの先の人生でもっといい人に出会うよ。それに.......。お前の気持ちは、きっと一時の気の迷いなんだ。だからお前とは付き合えない。ごめんな。」
そう言って俺は、その場を去る。すると後ろから声が聞こえてきた。
「先輩は自分を卑下しすぎです!わたし、あきらめませんから!」
そんなことはない。そう想いながら、俺はその言葉に振り向くことなく、その場をあとにした。
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「あ、綾斗先輩!」
談笑しながら帰っていると、背中から俺を呼ぶ声が。
これはまたずいぶんと懐かしい声が聞こえてきたな。
「よう、久しぶりだな。日向。」
井上 日向。俺の中学の後輩。同じテニス部で、何かと仲良くしていた後輩だ。そして、俺に告白してきた唯一の人でもある。
「先輩!私はまだ諦めてませんからね!絶対にオーケーさせてみせます!」
おお、いきなりの第二声がこれって..........ちょっとおかしくね?正直、中学を卒業してから何かと気まずくて、メッセはしていたが、直接会うのは一年ぶりくらいだ。一年たったのに、驚くほどに変わっておらず.........
「相変わらず子供だな。」
「先輩?それはバカにしてるんですか?えぇ?」
しまった。口に出てしまっていたか。日向はニッコニコで俺に近づいてくる。怖ぁ。こいつ、中学の頃からがちで切れるとメッチャ怖かったんだよな。
「もう日向。ホントのことだからって怒らない。」
俺が怯えて後退りしていると、日向の頭にチョップが落とされる。
「いたぁ。なにするの、ってホントのことってひどくない!?」
今しがた日向の頭に世界をも割る手刀をおろしたのは、俺の義妹である古賀 望海。3年前に、俺の父さんが再婚してできた一年下の義妹だ。最初こそ、俺には.......いや、男には、まじで凍るかと思うくらい冷たい視線を向けていたが、いまでは俺にべったり、というのは期待でした。はい。まあそこそこ仲はいい。
「ごめんね。お兄ちゃん。日向が。」
「あれぇ〜?これ私悪くないよね?なんで私が迷惑かけたみたいになってるん?」
「大丈夫だよ。日向のこの感じは、いつものことだったしね。」
「まず私が悪いってのを否定してくださいよ!?」
なんか日向がピーピーいってる。うるさい。
「まあせっかくだしいっしょに帰るか。」
「そうだねお兄ちゃん。」
「私は無視ですか!?ひどくないですか!?」
「なんかいつもの光景だな。結。」
「なんか一年ぶりなのに、懐かしさがないね。遥斗。」
年下二人も合流し、俺達はなんだかんだ仲良く帰路についた。
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学校初日は午前中授業だったので、俺は一時には家に帰っていた。
「ねえ、お兄?」
望海が俺に話しかける。だけど俺は一瞬違和感を覚え、音速で望海から距離を取る。今の一言で俺は察した。望海は今、間違いなく怒っていると。お気づきの方もいるかもしれないが、望海はべつに、家だと口調が変わるわけではない。そう。望海が俺のことをおにいと呼んだ。今までの経験上、これは怒っている一番のサインだ。触らぬ神には祟りなし。
「ななななんでしょうか望海さん?」
「おにい、私のプリン食べたよね?大きくて名前が書いてあったやつ。」
「な、なんのことか
Bhhaaann!
「すいません俺がたべましたすいません。」
望海が机を叩く。思わず2回謝ってしまった。触らぬ神には祟りなし?もう触ってますけど?
「この前も言ったよね。ちゃんとおやつは名前書いてあるか確認してって。おにいはいって言ったよね。もう忘れちゃったのかな。記憶力のお勉強しないといけないかな。大丈夫。叩いたな治るって。」
お〜っと、これは相当ご立腹の様子。前回はメロンでまだ良かったが、今回は望海の一番の好物であるプリンだ。あのー、ここから入れる保険ってありますかね?
「はあ、もう仕方ないなぁおにいは。じゃあ今度の日曜私とふ、た、り、き、りで買い物に行って。それで許してあげる。」
なんだかんだ甘いね〜。望海ちゃん大好き!!
「それはいいけど......二人きりを強調するのはなんで?」
俺はふと、望海がふたりきりをゆっくり一文字一文字言っていたことが気になったので聞いてみた。
「それは.......なんでもない〜。」
(前回遊びに誘ったら、あろうことか結さんと遥斗を誘ってて、デートじゃなかったから.......とはいえない。)
「じゃあ約束だからね!絶対だよ!」
望海はそれだけ言い残すと、慌てるように自分の部屋に入っていった。
「よくわからないな。」
ぽつんとリビングに残される俺。
時刻は3時を回ったところだ。
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「もう、おにいちゃんのバカ。」
私は、おにいちゃんに日曜の約束を取り付けたあと、部屋のベットに寝転んでいた。
大好きなプリンを食べられた怒りより、おにいちゃんと日曜にいっしょにデートできるという嬉しさが勝ってしまっている。
「はあ。」
私ってちょろいなって思う。
おにいちゃんの周りには、いつも女の人がたくさんいる。あることによって、おにいちゃんは自己肯定感が恐ろしく低い。だから、本当はモテているのに、きっと遥斗目当てで女の子がよってきているとでも思っているのだろう。
「おにいちゃんは私のこと、どう思っているのかな。」
そういって、私は今日も愛する人のことを思い浮かべながら、ひとりごちる。
時計はちょうど4時を指していた。
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つぎから、何人かのヒロインの過去を書きます。