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17. 親子とは.........

筆が乗ったんで、めちゃくちゃ長いです。心して読んでください。


夢が話し終わったあと、沈黙が流れた。


大企業の社長で理事長をしている親が、こんな赤点ばっかりの子を許すのだろうかという疑問はずっと頭の中にあった。夢からはそんな気配が感じられなかったので、とくに気にしてもいなかったが。


「私は、お母様のことを心から尊敬しています。だから、今回のことも私のわがままなんです。成績があげられないのにテニスをしたいというわがままなんですわ。」


夢は笑っている。が、いつものような太陽のような明るさは感じられない。


「だけど、私は今日までテニスを頑張って来ました。頑張って努力して。その成果が出て、努力が報われてとても嬉しかったのですわ。だからやめたくない。テニスを続けたいんですわ。」


涙目になりながら夢は喋る。俺はなんども夢と練習したりしていたが、夢の実力は本物だ。そして、夢の努力もまた......本物だ。それは紛れもない事実にほかならない。


「夢。」


「?」


「大丈夫だ。俺がなんとかしてやる。お前の努力はたくさん見てきたし、お前の実力は本物だ。それに.........」


俺は、一度言葉を区切って話し始める。


「あれだけ勉強も、スポーツも努力を重ねてきた人間が報われないなんて悲しいじゃないか。努力は必ず実るわけじゃない。もちろんどれだけ努力したってできないことは必ず存在する。でも..........これはそれじゃない。」


これまで、歴史上の偉人たちはたくさんの言葉を残してきた。結果の伴わない努力は努力じゃない。成功するまで歩き続けることこそ努力である。そんな言葉たちだ。でも俺は........そうは思わない。その言葉たちは、あくまで成功した人たちが作ったものだ。たまたま成功した人たちの戯言に過ぎない。


「俺はな、努力する人間が好きだ。たくさん努力しているやつが報われるとスカッとするし、なんだか俺まで前向きになれる。もう一度いう。努力は必ず実るとは限らない。だから...........」


努力の実らない人に俺が言える唯一のこと。


「俺に夢を見せてくれ。努力は報われるっていう夢を。」


「!」


「いままでお前の頑張りを一番近くで見ていたのは俺だしな。努力は報われるって俺に見せてくれ。これからも。」


そういって俺は笑顔を見せる。


夢は真剣に俺の話を聞いていたが、俺が話し終わる頃には先程までしていた、弱気な表情は消えていた。


「となれば、今から夢の家に行くか。」


「!?なぜです?」


「このまま夢をほっとけないし...............そいつには、ちょっと言ってやりたいこともあるしな。」


もう大方予想はついている。


「で、でも...........」


「大丈夫、なにかあっても俺が絶対助けるから。」


「! わ、わかりましたわ。」


そうしていっしょに夢の家に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夢の家。


夢の家は、うん。ぶっちゃけ行ってメッチャデカかった。もしかして東京ドームくらいの大きさくらいあるかも。それはいいすぎか。いいすぎ.......だよね?


「でかいな。」


「私は生まれた頃から住んでいるのでもう慣れていますわ。むしろ、周りの家が小さいのではないのでしょうか?」


「すげえな。」


さすが大企業の社長兼理事長の娘。考えのスケールが違うぜ。


そうやって、しばらく夢の家の大きさに驚いたあと、俺達は敷地に足を踏み入れる。外から見てもめちゃくちゃ大きかったが、庭は想像の倍以上デカかった。噴水に池にレンガで整備された道。それはもうアニメの世界に入ってしまったかのようで、正直感動していた。だって仕方ないじゃん?門から玄関まで歩いて3〜4分かかるんだぜ?興奮せずにはいられないでしょ!


ガチャ


ついに玄関についた俺達は、家の扉を開ける。夢は.......やっぱり緊張しているようだ。どことなく頬が引きつっている。手と足は落ち着かずもじもじとしている。


「夢。」


「!?」


俺は夢の手を握る。夢は手を握られたのが恥ずかしかったのか顔が赤くなっている。が、関係ない。


「大丈夫。俺がいる。怖いなら、俺の後ろに隠れていてもいい。」


「は、はい。ありがとうございます。」


「気にすんなって。」


そうして、俺は夢をかばうようにして夢の案内でリビングに向かう。


ガチャ


リビングにつき、扉を開ける。


「た、ただいま。」


「あ、夢!もう、どこに行っていたの。人を使って探していたのよ。まったく、心配かけさせて..........」


「ご、ごめんなさい。」


夢の母、煌喜 真希は、どうやら俺のことなんか目に見えていないようで、夢に質問攻めしていた。さすがに夢も俺のバフがあっても怖いようで、返答がしどろもどろになっている。無視された。眼中にない。存在を否定されたようだ。ぴえん。でも、それはそうと..........


「おい。」


「へ?あ、あら、どちら様かしら。」


「俺は古賀 綾斗。夢のクラスメイトで友達だ。夢に泣きつかれたんでな。話をしにきた。」


「あら、それは残念。これは家族の問題よ。部外者が口を挟んでいい問題ではないわ。」


「ふ、ふはは。家族の問題か。あははははは。」


「何よ笑って。気味悪い。」


「家族の問題。だったらなおさら放っておくわけにはいかねえな。()()()として、ね。」


「経験者?」


真希は困惑している。それもそうだ。突然飛び出していった娘が男を連れて帰ってきて、その男が家族の問題に口出ししているのだから。


「まず質問だ。あんたは夢のことを大事に思っているか。」


「も、もちろんよ。テニスをやめさせるのも夢のことを思って...........」


「いや、それは違うね。あんたが夢のことを思っているのは本当かもしれないが、それが夢のためになっているかどうかということはイコールじゃない。」


「イコールよ!夢は毎回赤点なのよ?このままじゃ将来だって怪しいんだから。」


ああ、本当に


「別に勉強ができなくたって死ぬわけじゃないし、現に勉強ができなくても普通の暮らしを送っている人はいるぜ?」


「そんなのはほんの一握りよ!運が良かっただけ。確実に幸せになるために、勉強はなくてはならないの。テニスなんかより勉強のほうが大事に決まっているわ。」


本当に


「でも夢には他に特技があるだろ?」


「特技だけではどうにもならないことを私は知っている。だから夢は勉強に専念しなきゃいけないのよ。」





良い母親だよ。あんた。





でも、だからこそ。





このまんまじゃ悲しいだろ?
















「じゃあ、あんたは夢の努力を全部見てたのか?」




「え?」






「あんたは夢がどれだけ勉強してるのか知っているのか?授業はもちろん、放課後もテストが終わってからも俺といっしょに勉強勉強。それこそ、勉強していないのはテニスのときくらいだ。」


「あ、え」


「知ってるか?夢は俺に頼んできたんだぜ?赤点だから勉強を教えてほしいって。自分から弱みをさらして教えを請うってのはなかなかできることじゃない。素直にすごいと思う。あんたも自覚あるんじゃないか?」


「あ。」


夢がその日できなかった問題を急にできるようになった日が何度もあった。聞くとお母様から教えてもらった。と、とても嬉しそうに話すんだ。頼ってもらって嬉しくない人間はなかなかいない。それが自分の娘となったらなおさらだ。


「知ってるか?夢は一生懸命努力している。それはもうあの学校で誰にも負けないくらい。夢には勉強の才能はないかもしれない。やっと赤点回避した程度かもしれない。でも、少しずつ点数は上がっている。成果が出てんだよ。親ならその小さな一歩を、成長を、褒めてあげなくてどうするんだ。」


「あ、あ。」


彼女は、煌喜 真希は、夢の、我が子のことを思うあまり、その結果だけに縛られ、夢の消えることのない努力に気づかなかっただけなんだ。その成長を見落としていただけなんだ。本当にこの人は..............良い母親だよ。


そして、もう一つ。


「最後にだ。あんたは今幸せか?」


「幸せじゃないわよ。夢が......娘が将来どうなるかわからない。娘の幸せが私の幸せよ。」


ああ、本当に、言ってほしかったことを言ってくれる親だよ。


「じゃああんたが幸せになれ。」


「は?何を言って.........」


「あんたが娘の幸せを自分の幸せだというように、()()()()()()()()()()()()()()()。」


そう。


夢がここに来る道中、俺に言ってきた言葉。


『私。お母様には本当に感謝してますの。私のことを女手一人で育ててくれて。何不自由ない生活をさせてくれて。たくさん愛情を注いでくれて。私は本当にお母様のことが大好きですの。でも...........』


夢は、ひどく悲しい顔をして言う。


『私は、お母様にも幸せになってほしいんですの。会社の仕事に私の世話。お母様は、他にもやりたいことがたくさんあるのに、それをかなぐり捨てて今の生活をしていますの。おかげで今私はとても幸せです。だから..............』











『今度はお母様が幸せになる番だと、私は思いますの。』



「あんたが幸せになれば夢が幸せになる。夢が幸せになればあんたが幸せになる。いいじゃねえか。二人仲良く幸せになれば。」


真希はどこか心打たれたように話を聞いている。


「ともかくだ。あんたらは俺とは違って良い親子なんだから、しっかり話し合えよ。それは.............お互いを大切に思っている親子の特権なんだから。」


そういって、俺はリビングから出て、玄関に向かう。あの様子......もう大丈夫だろう。きっと二人はいい関係になれるはずだ。なぜなら二人は..............



いい、親子なのだから。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日。


あのあと、私とお母様は一言も喋ることなく眠りについた。


階段が異様に長く感じる。緊張のせいだろうか。しかし長く感じたはずなのに、すぐにリビングに着いてしまった。


お母様の姿が見える。


「おはようございます。」


「夢、ごめんなさい。」


心して挨拶をしたのだが、帰ってきたのは挨拶ではなく謝罪だった。


「私は夢の気持ちを考えてあげられなかった。馬鹿よね。私。」


「お母様。」


違う。そんなことはない。お母様が馬鹿だなんて..........お母様が認めても私が認めない。


「私が今幸せなのはお母様のおかげですわ。だからあまり自分を卑下しないでください。」


「! うん。ありがとう。夢。」


そうして、私達は抱き合い、和解したのだった。

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