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16. 煌喜 夢の苦悩

夢の母をシングルマザーにしました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「綾斗さん!」


高校一年の夏。俺が休み時間に遥斗と話しているときに話しかけてきた一人の少女がいた。


「何か用か?煌喜。」


煌喜 夢。俺の仲の印象は、金持ちでプライドの高い人。


「私に勉強を教えてくださいませんか!お願いいたします!」


そんな俺にとってこの言葉は、最初の印象を跡形もなく粉々にするのに十分な威力を持っていた。


「なんで俺?」


「あなた、この前のテストで学年一位だったでしょう?なんで勉強を教えてもらおうと........」


「どうせ遥斗の勉強も見るしいいよ。」


「もちろんむちゃなお願いというのは重々承知、えええぇぇぇ!?」


「そっちが頼んできてなんで驚いてるんだ。」


「煌喜さん。気にしないほうがいいよ。こいつ度がつくほどの甘々お人好しだから。」


「わかった。お前には勉強を教える必要はないんだな。」


「うわああああ。それだけはご勘弁を〜。俺達の中だろ?」


「しゃあーねえな。」


「神様........!」


煌喜は相変わらずポカーンと口を開けている。


「じゃあ、放課後コストン集合な。煌喜さんも。」


「あ、は、はい。ありがとうございます。」


こうして、俺と夢は知り合った。



「これがこうなって、こうすると........」


「なるほど!こうなってこうなるわけですわね?」


「ああ、正解だ。夢さんは飲み込みが早いな。」


俺達はコストンにて勉強会を開いていた。ちなみに結は用事だそうだ。


「綾斗〜。ここわかんなーい。」


「夢さんと比べてお前は飲み込みが遅いな。」


「ひどくね?」


基本的にいつもも学年一位である俺が?みんなにおしえてやっているわけだが?


「そういえば、夢さんって俺と同じテニス部だったよね。」


「そうですわね。今度一緒に練習いたしますか?」


「いいけど夢さん、メッチャ強いんでしょ。友だちが言ってたわ。」


「まだまだです。もっと頑張らなければ.........。」


口調とか、肩書で決めつけていたけど、思ったよりも夢さんは素直で、真面目で、努力家だった。普通に県大会とかで優勝できるほどの力を持っているのに、まだまだなんて........。正直好感を持てる。


「でも、私勉強はダメダメでして.........。その、お恥ずかしながら赤点を取ってしまうほどでして。そのため、綾斗さんに助けを求めたのです。」


「なるほどね。じゃあ、俺もしっかりサポートしないとな。」


「あ、ありがとうございます!」


そうして、勉強会は順調に進んでいった。



その後も、結や一樹が加わったり場所を俺の家に変えたりしながら、勉強会を続け、ついに前期期末テストの日になった。


「おはよう夢。どうだ。調子の方は。」


俺は朝登校してまず、夢に声をかけた。あ、そういえば、これまでの勉強会で友好を深めた俺は、夢のことを呼び捨てで呼ぶようになっていた。


「大丈夫ですわ。アレだけ勉強したんですもの。赤点は絶対に回避できますわ。」


「ああ、頑張れよ。」


そうしてテストが始まった。



答案返却の日の放課後。


「綾斗さん!綾斗さん!やりましたわ!全教科赤点回避ですわ!人生で初めてです!」


帰りのホームルームが終わるなり、夢はうれしそうに俺に結果を伝えてきた。


「おお、よかったじゃねえか!努力の成果が出たんだな。」


「はい!」


その時の笑顔は、心からのものでとても眩しくて、今でも鮮明に思い出すことができる。


しかし、その笑顔は長くは続かなかった。



ピンポーン


その日の夜、俺が望海とご飯を食べているとチャイムが鳴った。両親は旅行中である。


「はいはーい。どなたですかって夢!?」


「綾斗さん。ぐすっ。」


その時の夢はひどいものだった。格好はパジャマのまま。その麗しい顔は涙に濡れ、目は充血し目元には涙の跡が。髪もボサボサだった。


「と、とりあえず入ってくれ。」


「........ありがとうございます。」


俺はとりあえず夢をリビングに案内し、お茶を出した。望海が夢の髪を整えている。


「それでどうしたんだ?」


「実は..........」


夢はポツポツと話し始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあ。」


私は、自室でため息を付いていた。


私の家は、いわゆるお金持ちの家でとてもひろい。お母様は、理事長と様々な会社の社長を兼任しているからだ。それなのにシングルマザーで女手一人で私を育ててくれて。私はそんなお母様を尊敬している。


「最初のテストもだめでしたわ。」


私は頭が悪い。一生懸命勉強しているのだが、成績が伸びず赤点ばかりであった。


私はお母様を尊敬している。そして憧れている。お母様のような立派な人になりたいと今まで努力を怠ったことはなかった。実際テニスなどは少しずつ成果が出始め、一年にして高校総体シングルスで県1位になった。とてもうれしくて、その日は興奮で眠ることができなかった。少しでもお母様に近づけたのが嬉しかった。


「また赤点ね。もっと頑張りなさい。」


お母様はとても厳しかった。普通の人なら嫌になるだろうが、お母様に近づきたい私にとって、その言葉は頑張ろうと思える言葉だった。


そしてそんなとき、綾斗さんと出会った。


綾斗さんとともに勉強を始めてから、私の成績は一気に上がった。小テストでもまあまあな点数を取れるようになっていったし、なにより綾斗さんと、みなさんと勉強するのは一人で頑張る何十倍も楽しくて。私は勉強のことが好きになっていった。


それと同時に、私は綾斗さんに惹かれていった。優しい綾斗さん。ちょっぴりドジだけどちょっぴり意地悪な綾斗さん。なんでもできる綾斗さん。好きになるには、十分すぎる理由があった。


そして、前期期末テスト。


私はついに全教科赤点回避を達成した。


とても嬉しかった。自分が赤点を回避できたという事実もとても嬉しかったし、何より綾斗さんたちとやった勉強の、努力の成果が出たと。報われたと。そのことが一番嬉しかった。


私は、そのことを嬉々としてお母様に伝えた。しかし..........


「せいぜい赤点回避した程度じゃない。まだまだ足りないわ。もういい。あなた、テニスをやめなさい。」


一瞬意味がわからなかった。何を言われいるのかわからなかった。頭の中が白で埋め尽くされていく。息が苦しい。立っているのも辛い。


「お、お母様。待ってください。今順調に成績が上がってきております。このまま行けばきっと........」


「きっとっていつ?あなたは中学の時から変わってない。このままじゃ大学受験に間に合わないかもしれない。テニスなんて遊びにうつつを抜かしていい年齢じゃないのよ。」


「でも........」


「でもじゃない。この世界はね、勉強ができないと生きていけないの。これはあなたのためなのよ。」


私はお母様のことを尊敬している。だから、いままでお母様の言うことには納得してきたし、実際間違ったことは言っていない。でも.........


「お母様の分からず屋!」


「あ、夢!」


私は初めてお母様に刃向かい、家を飛び出した。

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