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3 元魔王軍

魔道具屋ネコガミを出発した馬車の中では、マリーエさんとハルマさんの魔道具談議が行われていた。

商人のマルトナさんは馬車の御者で、ナギは魔道具談議早々に寝てしまった。


「座標軸を指定して縮小拡大する魔道具は、自分の目線より高い位置にある物に対して目が届かないから事故が多い。そこを何とかしたい。」


マリーエさんがネコガミを縮小したベル型の魔道具を見せながら話す。


「…ふーん、まぁ…対象物を囲んだ結界を他人にも見せられるようにして補助を頼むのが簡単だろう。」


「そうか、魔道具と使用者だけで完結するモノを作ろうとしていたから思いつかなかったのか。」


「ただ、その魔道具の魔石で結界の可視化を入れたら悠長に結界の大きさ指定なんてできないぞ。ただでさえ命令実行中の時間を延ばす行為は魔石に悪い、可視化なんてしたら並の魔石じゃ耐えられん。魔道具に慣れてさっさと命令を実行するのが一番だ。」


「魔石を消費しながら改良していくしかないか。一般に向けて売るのは厳しくなるなぁ…。」


「…その魔道具たしか結界の四角の頂点を指定して発動だったな?なら最初に真四角を用意して調整ではどうだ?」


「おお!それはいいね。はじめての使用者でもわかりやすそうだ。ハルマあとで手伝ってくれ。」


「その前にどこか落ち着ける場所をーーー」


「おい!そこの馬車とまれ!門限はとっくに過ぎているぞ!引き返せ!」


門番らしき男の声が聞こえる。どうやら王都の門に着いたらしい。

ハルマが馬車の外へと出て行った。ついでに僕も馬車の窓から外を窺ってみる。


「俺はハルマだ。魔道具の素材調達に出かける。門を開けてくれ。」


「!?ハルマ様でしたか!…しかし、そのような通達は無かったのですが…。」


門番はどうやらただの商人の馬車だと思い追い払おうとしたらしい。しかし馬車から王宮魔道具師で有名なハルマさんが出てきたので驚いている様子だ。


「あー、あれだ、口外禁止のやつでな。通達がいっていたら少々まずいやつだ。」


「な、なるほど…もしかしてあの禁忌の…。失礼しました!すぐに開門いたします!」


急いで門番が門横の建物に入り、開門された。

開門最中にハルマさんは馬車の中…ではなく、御者台へ。


…もしかしてマリーエさんの矢継ぎ早な会話を嫌がった…とか?


門をくぐり抜け王都を出た。仕事のために王都近くの森に来たことはあれど、居を移すために王都を出るのは初めてだ。そもそも王都以外の街や村など知らない。


「王都を出てどこに引っ越す予定なの?」


「実はこの国を出る以外に決めてることは無いんだよねぇ…。しばらく放浪かな。暗いし森は避けて…あれ?」


マリーエさんが窓の外を見ながら疑問を浮かべていた。自分も気になり窓の外を見ると、馬車が森に向かう道に入っていた。

気になったマリーエさんが馬車の窓を開け、御者台にいるハルマとマルトナに話しかける。


「ハルマ、マルトナ!どうして森に…ってなにその鳥は!?ハルマの使い魔かなんかかい?」


御者台に座っているハルマさんの肩に鳥が止まっていた。

目が黒く体全体の毛も黒いため、カラスだろうか。


「ハジメマシテ、ジュウマジャナイ。カクセイシタミタイダカラ、オムカエニキタ。」


カラス?の魔獣は甲高い声で人語を操りながら話しかけてくる。受け答えができているのでとても知能が高いのだろう。


「…僕…のことだよね?…覚醒って?僕の魔法知ってるの?」


「シッテル、デモ、セツメイ、アト。ハルマ、コノママ、モリニハイル。」


「にゃ!?しゃべるカラスにゃ!」


寝ていたナギもこの騒ぎで起きたらしい。馬車の窓から身を乗り出してカラス?を凝視している。


「ウワ、ネコイルノカ、イヤスギル…ハヤクモリニ」


少し人間味を感じるカラス?とカラス?に興味津々なナギが少し可笑しくて笑ってしまった。

馬車は道らしき道を外れ、森へと進んでいった。



ーーーーー



カラス?の指示だろうか、王都の近くの森を警戒することなく、どんどんと進んでいる。

そもそもなぜ王都の近くに森があるのだろうか。スタンピードや、他国からの侵入ルートとして使われたりとか怖くないのだろうか。


そんなことを考えていると、馬車が止まった。


「ミンナ、オリル。」


目的地に着いたらしい。馬車から降りてみるが、なにもない。

少し開けているが鬱蒼とした森で今にも魔獣に襲われそうだ。


「本当にここでいいのか?」


今まで黙っていたハルマも焦ったらしい。かなり周りを警戒している。


「アア、アンサツシャ、オッテコレナイ。イイバショ。」


暗殺者!?…僕か?僕の魔法ってそんなにやばいやつなのか?


『もし、もういいかい?』


突然、念話のようなもので声をかけられた。


「にゃ!リッチにゃ!」


ナギが声を挙げた方を見ると、魔導士のローブのようなものを着た骸骨の魔物がいた。

突然の魔物に皆警戒態勢に入る。


「マテ、キガイ、クワエナイ。オチツク。…オバチャンモ、ケハイ、ダス!」


カラス?がハルマの肩を離れ飛んでいき、リッチの骸骨の頭に乗った。

そしてリッチを責めるように頭蓋骨をコツコツとつつく。


『こら、頭に乗るな、叩くな。…まあいいさ。私はイェルカーテ。見ての通りリッチだ。魔王軍…元魔王軍第8部隊副隊長だ。このカラスはうちの隊長の友達ーー』


「アイボウダ。」


『相棒らしい。ああ、そう警戒しないでくれ、魔王軍とはいっても、第8部隊は非戦闘員の集まりなんだ。私は魔王城で料理長をしていた。ちなみに隊長は執事長だ。パペットだからな、そのうち依り代を作って呼び出すつもりだ。』


「そのカラスが、このセンの魔法について教えると言ったのでついてきた。こちらに危害を加えずに魔法の謎を教えてくれるんだよな?」


ハルマさんが僕たちの前に立ち、イェルカーテと名乗ったリッチに問いただす。


『ああ、もちろんさ。我々にとったらその子…セン君といったかな。セン君は生命線だからな。』


「生命線?意味が分からない。」


『まあまあ、もう暗い時間だ。セン君、もう魔法は使ったんだろう?もう一度扉を出してくれ。扉は念じれば出てくる…はずだ。その魔法私は使ったことないから前の持ち主が言ってたことだが。』


前の持ち主?僕の魔法は前に使っている人がいたのか。

…というか、元とはいえ、魔王軍の人の言う事を聞いてもいいのだろうか。


僕がどうしたものかと悩んでいるとハルマさんが話しかけてきた。


「…セン、大丈夫だ。あのカラスと一時的な契約を交わしている。それだけ君の魔法が彼らにとって重要だという事だ。それに…俺もセンの魔法気になっていたんだ。言う通りに魔法を使てみてくれ。」


ハルマさんにそう諭され僕は魔法を使ってみることにした。

魔法を使うのは人生で2度目だ。…扉…扉…。


扉が出るように念じていると目の前にあの仰々しい扉が現れた。

…目の前に扉が出るように念じてしまったので、僕たちとイェルカーテさんの間を遮るように出現させてしまった。


ハルマさん、マリーエさんは魔力を感じられるからか、圧倒されているような声を上げている。

…ナギや、マルトナさんまでも扉の仰々しさに驚いた声を上げていた。


『ほうほうほう、相変わらず凄い魔力量だね。…あれ、錠前が付いている。こんなことなかったなぁ。あくまで本人の意思でしか開かないように細工でもしたのかな。』


イェルカーテさんが考察しながら扉の裏側から扉の正面に回ってくる。


「…鍵もあります。」


僕はいつの間にか手で握りしめていた鍵を見せながら扉に近づく。

扉に近づくと必然的にイェルカーテさんにも近づくことになる。リッチという魔物ではあるが不思議と悪い感じはしなかった。


『ああ、ありがとうねぇ。早速開けてもらってもいいかな?…猫のお嬢ちゃんも勇気のある良い子だ。』


どうやら、扉とリッチであるイェルカーテさんに近づく僕の真後ろをナギが付いてきたらしい。

ナギの様子を見ると、イェルカーテさんをとても警戒している。


圧倒されて動けなくなっていた他の3人も扉に近づいてきた。

僕は扉についている錠前を持っている鍵で開ける。


『んじゃあ、入ろうか。』


イェルカーテさんが両開きの扉を押開けた。

警戒心より好奇心が少し勝った僕たちは扉をくぐり、知らない地へと足を踏み入れていった。


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