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2 目覚めと出発


「…?」


黒い木で作られた天井、植物の匂い、心地よい暖かさ。…見た覚えのある天井だ。

視界の端でゆらゆらと揺れている物体がある。


「…しっぽ?」


黒い毛のしっぽがベッドの側面で揺れている。


「お、起きたかにゃ?ご飯食べるから運んでくにゃ。…魔法は使っちゃダメにゃよ。」


そう注意しながら猫人族の女の子はベッドによじ登り僕の体をおんぶした。

自分と同じくらいの年齢の女の子におんぶされるのに少し抵抗感があったが、慣れているのかスムーズにおんぶされた。


「あ、ありがとう。」


「ニャギは、魔力で筋肉を強化できるから…名前なんていうにゃ?」


「セン」


「センくらい余裕でおんぶできるにゃ!」


猫人族特有のしっぽが、得意げな彼女の気持ちに連動しておんぶしているセンの背中をくすぐっていた。


「…どのくらい寝てた?」


「そろそろ日が落ちるにゃ。だから…ま、結構寝てたんじゃにゃいかにゃ?」


ーーーーー


魔女の魔道具店「ネコガミ」1階ダイニング


「起きたね、食事だ。」


魔女のような女性がダイニングのテーブルに食事の用意を済ませていた。


「体が弱っている人間にはあんまり固形物は良くないんだがね。いかんせん料理はさっぱりなんだ。腹が痛くなったら治すからとりあえず食べなさい。」


ニャギに椅子に座らせてもらい、テーブルを見る。目玉焼きを2枚のパンで挟んだサンドが置いてあった。


「おいしそう。ありがとうございます。いただきます。」


「お礼を言えるのは良いことだ。よく噛んで食べなさい。ナギは…さっき食べたから軽く果物だ。」


…猫人族の娘の名前はニャギではなくナギだったか。


「セン、師匠の料理は見た目だけだにゃ。調味料の量がおかしいから気を付けてにゃ。」


「…果物いらないのならそう言いな。」


「食べるにゃ!ありがとう師匠!」


2人の仲の良い会話が可笑しくて少し笑ってしまった。


「はぁ…ったく…センであってるかい?食べながらでいいから聞いてくれ。私はマリーエ。この店で魔道具を作って売っている。とりあえずあんたを保護するつもりだが王宮の方が騒がしい、今夜にでもこの王都を出ていくよ。」


「…明日じゃダメにゃのかにゃ?」


「宮勤めの知り合いと情報交換したら『上の連中が人体実験してる』って噂が王宮内にもあるんだと。そこに強大な魔力を持ったセンだ。噂がホントかもと思える要素が揃ってしまった。…センを捨てたのが謎だが…後になって連れ去りに来たら守れそうにない。先手を打たれる前に逃げるよ。」


「ふーん」


「…僕の…せいだね。」


僕が怪しい誘いにのって連れ去られたりしなければ、2人はこれからもいつも通り魔道具店を営業できていたはずだ。…申し訳なさでいっぱいだ。


「いやすまない、センが原因みたいな言い方はよくなかったな。元々この国はきな臭くて引っ越すつもりだったから渡りに船というやつさ。それにあんたは被害者で悪いのは連れ去った連中だ、気に病むことじゃあない。」


「そうだにゃ、センは悪くないにゃ。それに前からこの国空気が悪いと思っていたのにゃ。ちょうど引っ越ししたかったにゃ。」


「…ありがとう。」


見ず知らずの人間に優しくしてくれる2人の暖かさのおかげで、人生で何度もない暖かい食事をした。

…とても塩味が強かった。


「…センがしょっぱそうな顔してるにゃ。」


「目玉焼きといえば塩だろうさ。」


「量見てわかるケチャップにするべきだったにゃ!」


「ケチャップだとパンに染みて手が汚れるだろう?!」


「それはそうにゃけど…お、美味しくないよりマシだにゃ!」


カランコロン

目玉焼きの味付けで言い争っている時、ドアベルの音が聞こえた。誰かが店に来たみたいだ。


「マリーエ。準備完了だ。出発しよう。」

「お邪魔します。マリーエさん。」


耳長族(エルフ)の魔法使い風の男の子と商人風の男性が店へと入ってきた。


「来たかハルマ、マルトナ。」


「おや、食事中でしたか。それは申し訳ない。…もしかしてその子が…?」


商人風の男性が自分のことを見ながらそう言ってきた。


「ああ、この子が話していた子だ。」


「よろしくお願いします。センです。」


「よろしくお願いします。この王都を出るという事でサポートさせていただきます、行商のマルトナです。宜しくお願い致します。」


「俺は王宮の…いや、フリーで魔道具を開発している、ハルマだ。…それより昼間のあの魔力をほんとにこの子が?全く魔力を感じないが。」


耳長族(エルフ)のハルマさんに観察するような目で見られている。


「そこは謎だが確かにこの子…センが魔法を使った。…まあ道中にそこら辺の話をしようか。すまないセン、そのサンドは歩きながら食べておくれ。一度外へ出よう」


僕はサンドを手に持ち、4人と共に外へ出た。

日も落ちすっかり暗くなっている外には、一台の馬車が止まっていた。


「荷物は…それより店はこのまま放置していくの?」


馬車に旅の用意があるかもしれないが、僕とナギ、マリーエに荷物らしきものはない。僕の食べかけのサンドだけだ。


「店もちゃんと()()()()()さ。」


そう言いマリーエさんがベル型の魔道具をかざして何かをし、最後に1度魔道具を鳴らすと店が小さくなっていき、持ち運べるサイズになった。


「すごいだろう。結界魔法を応用した魔道具だ。…あー、細かく解説したいが後だ、馬車に乗ろう。」


透明な箱?に圧縮された店を拾いながら、驚いている僕に嬉しそうに魔道具の説明をしようとしたが、他のメンバーの顔を見て察したのだろう。馬車へ乗り込むよう促した。


「この時間だと門は閉まっているだろうが、頼んで開けてもらおう。俺の辞職届はまだ見つかってないだろうし通達もいってないだろう。…まあ通達があったとしても適当にごまかそう。」


「えぇ?…ハルマさん、許可は取っていると先ほど…。まあいいです。面倒事はやめてくださいよ。」


不穏なハルマさんとマルトナさんの会話が聞こえたが大丈夫だろうか。

5人を乗せた馬車は魔道具屋「ネコガミ」跡地を背に出発した。


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