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1 攫われ捨てられ拾われ

深夜、とある国、城下町の端、スラム街の中心のとある建物で禁忌魔法の人体実験をしている怪しげな2人の男がいた。


「こいつも失敗だ。…おい、こいつも捨ててこい。」


とある男が部下らしき男にそう告げた。

魔法陣を使ったその人体実験では、主にスラム街の子供が実験体になっていた。

何度繰り返しても残るのは失敗し瀕死の幼い子供だけだ。


「また失敗すか。スラムの連中も気づいてきてます、そろそろ実験体の調達も難しくなってきてますよ。」


「気づかれてるのはお前が捨て場を決めるのに頭を使わんからだろ、国のトップからの命令でこっちから中止は無理だ。」


「…殺しちゃダメすかね。」


「貴族様がな『(やま)しいことでは命は奪えない』んだとよ、何度も言っているだろ、さっさとしろ。」


部下らしき男が実験体となった瀕死の男の子を肩に担ぎ建物を出ていく。


「…いつもの捨て場はたしか警備隊の巡回ルートになったんだったか?…面倒だな。」


国から禁忌魔法の実験を命令され、スラムの子供を実験体に使うも、捨て場が悪かったらしい。スラムで魔法の実験体に子供が攫われているという噂が広まっている。


スラムの悪い噂は日常茶飯事だが、国は魔法の実験体というのが嫌らしい。警備隊のトップのさらに上が取り締まるように圧をかけた。

結果警備ルートが変更になり頻繁に使っている捨て場が使えなくなった。


そして禁忌魔法の恩恵は受けたい国のトップから

『警備ルートを変えたから気を付けてくれ』と情報漏洩が行われた。


「…魔女んとこに捨てれば噂を(なす)れるんじゃねえか?表通りだがここからもそう遠くないし…アリだな。」


魔女が経営してると噂の店。城下街の大通りに面しているが、魔女という名前の性質上どこか入り難い店だ。


魔女の店裏口近くで肩に瀕死の男の子を担いだ男は実験体を捨てた。


「…よし、お前さんよ。すまんなぁ、俺たちの金と命のために魔女んとこで休んでくれな。もしかしたらまた実験に使われちまうかもな、あばよ。」


あと数刻で夜明け。男はスラム街へと姿を消していった。


ーーーーー


早朝。魔女の魔道具屋「ネコガミ」


「師匠ー!裏口から人の匂いが!見てくるにゃ!」


猫族の特徴のある女の子の声がネコガミに響き渡る。


「…薬草の匂いと間違えているんじゃないかい?」


師匠と呼ばれた女の声が弟子の言葉に返す。

弟子の勘違いだと思いつつも猫族の弟子の鼻は良い。弟子が唐突にそんな事を言い出すこともないし、本当に誰かいるのだろう。夜に怪我してポーション待ちでもしているのだろうか。


「やっぱりいたにゃ!人族の男の子にゃ!多分…捨てられてるにゃ!」


「?!うるさいよ!あんまり他の店には聞かれないようにしてくれ。…ただでさえ魔女の店だから怪しいと言われてるんだ。」


捨てられてると聞き、師匠と呼ばれてる魔女は慌てて弟子に注意した。


「それにしても魔女の店に子供を捨てるとはろくでなしなのかね。」


この世界では『魔女に子供を捨てる』ことは単に子供を捨てる行為よりも危険と思われている。

魔法には解明されていないことが多く、たとえ便利であっても、その『人の理解を超えた力』が恐れられていることから、魔法使いは人の道から外れた存在だという認識が世間にはあった。


「とりあえず、店の中に運ぶにゃ。」


ーーーーー


どこか懐かしいような植物の匂い、優しく包まれるような温かさに違和感を覚えた僕は瞼を上げる。

黒い木で作られた天井をみて、いつも寝床にしていた建物ではないとわかった。

…少なくともいつもの寝床には天井は無い。

ベッドに寝かせられているようだ。はじめての寝心地の良さにまた寝そうになるが同時に空腹からかお腹が鳴ってしまう。


「あ、起きたかにゃ!?良かったにゃ~!」


「うわっ!?」


ベッド横から猫族の女の子の顔が出てきて驚いてしまった。どうやらお腹の音で気づかれたらしい。


「床で本読んでたにゃ、んじゃ!お師匠呼んでくるにゃ~」


猫族の女の子はそう言うと立ち上がり扉の向こうへと行ってしまった。

まだ自分のなかで理解が追いついていない。


屋台の手伝いでお金をもらって、寝床に帰る最中に男に話しかけられて、…だめだ思い出せない。新しい仕事の話だと思ったけど騙されたのか。


…そういえば僕の体、なんか変だ。

…熱い。それに体の中を何かがぐるぐる轟いているような…


「…あんた、なんだいそれは。」


「え?」


いつの間にか部屋の扉に、黒いローブを羽織った眼鏡の女性がいた。まるで魔女だ。


「魔力が動いてたからちょいと急いだんだが…何しているんだい。それにうちの弟子がおびえてるんだ、何かするのはやめてほしい。」


先ほど師匠を呼びに行った猫族の女の子が、魔女のような女性に隠れてこちらを見ている。


「!?…なにこれ。」


いつの間にか右手に鍵のようなものが握られていた。いきなり現れた鍵のような物にびっくりしてしまい思わず凝視してしまう。


「鍵かい…?それは。…魔力の塊だね。人族だと思っていたけどハーフエルフだったかい。」


耳長族(エルフ)は魔力を多く宿す種族だ。しかし僕にはエルフ特有の長い耳がない。だからエルフと人間の混血であるハーフエルフに間違われたのだろう。


「僕は人間だ。それと12歳…です。…孤児だから正確じゃないけど。」


「ふーん…まぁいいや。なんでウチの裏で倒れていたんだい。」


魔女のような女性が眼鏡を指で押さえて疑うように見つめてくる。


「寝床に帰る途中に話しかけられて、…それからの記憶が無くて。」


「ふーん、攫われたのか。…最近スラムの方で子供が攫われてるって噂だ。あんたも攫われたってことか。…嘘はついていないようだ。」


「嘘ついてないです。魔法も使えたことなんてないし」


「いや、すまない。推測は立てていたんだ。その推測の通りの反応だったからね。うちの店にたどり着いた記憶があったら追い出していたんだが…。とりあえず動かしてる魔力は放出した方がいい。」


魔女のような女性の態度が和らいだ気がした。


「だから魔法なんて使ったことなーー」


突然目の前に扉が現れた。

木製なのか金属なのか分からないが、両開きの扉で真ん中には錠前が付いている。

装飾などなく扉の役割以外何も無いように見える。

空間をただ切り取ったような扉の非現実感で、気分が悪くなりそうだった。

…というか本当に気分が悪くなってきた。


「…見たことない魔法だ。鍵と扉?開ける以外で使い道は無いように見えるが…。?!おっと、魔力酔いか。大丈夫だ、鍵か扉どっちか消えるようにイメージしなさい。」


言われた通り消えるよう念じながら鍵を握った。

すると鍵と扉は一瞬で消えた。しかし気分の悪さは消えない。

喉から何かが逆流してくるような…。

血の循環が異常に早く、ドクドクと血が巡る感覚に恐怖を感じた。


「本当に初めて魔法を使ったのだな。…まてよ、この魔力量で今回が初めて?…妙だね。…とりあえず落ち着くまで寝ときな。次起きた時飯でも食べながら話そう。」


魔女のような女性に促されるように僕は目を閉じた。


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