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1話 始まり(1)

『よし。』


 両親と車で実家に戻る翔太くんを遠くから見送ると、翔太くんのリュックサックには、自分が渡した根付がしっかりとついているのを確認し、紅葉は小さくガッツポーズをする。

 どうして紅葉がそんなことをしているのか。その理由は、今年の春に起こったある事件がきっかけだった。


 ・


 四月——。

 私…星ノ宮紅葉は、同い年の親戚・星見屋結禍ほしみやゆいかを意識して自分で比べることに耐えられなくなっていた。結禍は本家筋の娘であり、幼い頃から常に周囲の期待を一身に受け、実際に優秀な結果を出してきた。一方の紅葉は、昔からそこまで大きな成果を出すこともなく、いわゆる“凡庸”とされてきた。親戚が集まるたびに、「結禍ちゃんはすごいわねえ……」と聞こえてしまうたび、紅葉の胸はズキリと痛み、いたたまれない気分になっていた。

 両親はなにも言わないが紅葉はそんな状況から逃げるように、一族が管理する神社を任されるという名目で実家を出ることになった。気まずい家族から離れ、一人暮らしをしてみたい。その思いはずっと抱き続けていたからだ。

 管理を任された神社は、駅から徒歩で一時間ほど山道を登った中腹にあり、かつては旧燾栄(とうえい)村と呼ばれていた地区の一角にある寂れた神社である


 高校生最後の春休みが終わり、新学期。

紅葉が社務所の一室で勉強をしていると、普段勉強を教えている同級生から電話がかかってきた。

着信画面を確認し、軽く息をついて通話ボタンを押す。


「もしもし?」

紅葉はノートに視線を落としたまま、携帯を耳にあてる。

「ねえ、紅葉ちゃん!そっち大丈夫?」

『……? どうかしたの?』

 「そっちへの道でがけ崩れがあったらしいんだよ! うちの学校の寮もその辺りにあるじゃん? 紅葉ちゃんの方は大丈夫かなって心配して」

 『んー……こっちは大丈夫だよ。確かにちょっと音は聞こえたけど、近くではないみたい』

 「そっか、ならよかったー。心配になっただけだから、また連絡するね」

 『うん。わざわざありがとう。』


 電話を切ると、紅葉はふう、と息をついた。充電器に繋ぎっぱなしの携帯を置いて、一拍置く。

 (がけ崩れ……また…?)

 自分が幼い頃には、滅多なことでは土砂崩れや崖崩れはめったに起こらなかった。山間部だから全くないわけではないが、ここまで頻繁ではなかったはず。

 メールの着信を知らせるバイブが微かに鳴り、紅葉は画面をのぞき込む。「道が土砂崩れで塞がれた」——さっきの友人からの補足的な報せだ。

 (なんだか最近おかしい。)

そう思いながら、紅葉はノートを閉じる。


 ・


 夢を見ていた――

夢の中ではいつも、紅葉ともう一人誰かがいる。

顔も姿もわからない、目を覚ませば()()はあっという間にぼやけてしまい。

頭の中に霧がかかったように思い出せず消えてしまう。

けれどもとても大切な事だった気がする。

ただ漠然と――その誰かは紅葉の大切な何かで、何かは分からないけどそれを守れなかったような後悔がある。


 (……またこの夢か)

紅葉が目を覚ますとベッドには寝汗がべったりとついている。

引っ越してきてから、ほぼ毎日のように同じ夢ばかり見るようになっていた。


翌朝。


紅葉は学校へ向かった。昨日の土砂崩れの影響でバスの遅延を心配したが、運良く朝のホームルームには間に合った。

教室に入ると、小柄なクラスメイトが勢いよく紅葉の席にやってきた。昨日電話をくれた桜子だった。


「おはよう、紅葉ちゃん。昨日はごめんね、変な時間に電話しちゃって」

『ううん、大丈夫だよ。桜子ちゃんが心配してくれたんでしょ?ありがとう』

「最近、自然災害が多いからね。ちょっと気になって……」

『確かに多いよね。昔はこんなに頻繁じゃなかった気がするけど……』

紅葉が曖昧に答えると、桜子は少し困ったように笑った。


「そっかー。あ、授業始まる時間だね。じゃあまたね!数学教えてもらえると助かる!」

『もちろん、いつでも声かけて』

紅葉も微笑みながら答え、桜子を見送った


 放課後、部活のない紅葉は早めに神社へ戻るため山道を歩き始める、

 (やっぱり……)

 脇道の前でぴたりと足を止めると

脇道の奥には鬱蒼とした木々が立ち並び、薄暗い森が口を開けている。


 禁足地の森。


 幼い頃から「入ってはいけない」と言い聞かされてきた場所だ。

「神様が怒る」「祟りがある」「神様が向こう側に連れていってしまう」

——老人たちはそう口を揃えて語り、近づかないようにしてきた。

紅葉もこれまで、この場所を意識せず避けるのが当たり前だった。だが、今日の彼女はなぜかその森から目を離すことができなかった。


 (どうして……こんなに気になるの?)


 胸の奥がざわつく。この森に足を踏み入れることがタブーであることは分かっている。けれども、この森に引き寄せられるような感覚を紅葉に与えていた。


 (夢に出てきた……あの場所……もしかして…)


 鼓動が速くなる。

毎日のように見る夢――誰かに誘われている、何かに呼ばれている、

何も覚えていないのに夢の場所が()()だという確信があった。

恐怖と好奇心がない交ぜになりながらも、紅葉は一歩を踏み出した。


 ---


紅葉はまるで道を知っているかのように真っ直ぐ進んでいく。

すると、木々が途切れた。


 (……開けた場所?)


 目の前には、森の中とは思えないほど明るい空間が広がっていた。まるでそこだけ切り取られたような、ぽっかりとした空白の空間。その中央には倒れた鳥居と一本の巨大な桜の木が立っている。


 桜は満開の花を咲かせていた。それも、季節外れのこの時期にだ。淡い薄紅色の花びらが、枝から舞い落ちては風に乗って散っていく。その光景は不思議な美しさを放つ一方で、どこか儚さと寂しさを漂わせていた。


 (この桜……すごく大きい……これって神社の御神木?)


 紅葉はゆっくりと桜に近づいていく。その幹にはしめ縄が巻かれていた。



 桜の影には神社は長い年月を経て朽ち果てた神社があった、屋根は崩れ、柱は所々で折れている。それでも、その場所には不思議な威厳が漂っていた。


「あら?懐かしい子が…」

唐突に後ろで声がした。


 紅葉は驚き振り返る。

そこには先程まではいなかった桜色の髪の女性が朽ちた鳥居に腰かけていた。


「いつのまに?って思った顔してるわね」

私がコクリと頷くと女の人はクスクスと笑い鳥居から飛び降り紅葉に近づいてくる。

 「恐がらないで——貴女は村の子私達の子——そして私は貴女のお友達。」

そう言うと女の人は私から離れる



 「あの……貴女の…お…お名前は?」

紅葉は震えながら訪ねた

 「ふふ、私?私は……そうね……」

すると、女の人は可笑しそうにクスクスと笑いながら名乗った。

 「接咲姫。私の名は接咲姫この神社の神様かしら?」と…。

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