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最先端の靴

作者: 天木蘭

放課後、下駄箱に手紙が入っていた。

出席番号で管理されている為、俺に宛てて出されたもので違いない。

隠れるようにして封を開け、中身を読み上げる。


「今日の放課後、視聴覚室に来てください」


今日というのは今日で良いのか、視聴覚室の鍵は放課後に開いているのか、そもそも悪戯なのではないのか。


思う事は色々あったが、このデジタル化が進んだ現代で、こうした手紙を貰うことの意味に気づかないはずがない。


これはラブレターだ。


そう結論付けて、俺は視聴覚室に向かったのだ。


「で、開けたらお前だよ!」

「そう。僕だ」

「知り合いみたいに言うが初対面だからな」


一方的に知ってはいる。

アイツはトンチキ科学で実験と称しては四方八方に迷惑を掛け、なぜコイツが停学に、いや、むしろ退学にならないのかとまで言われる男「甲斐発(かいはつ) 打郎(うちろう)」であった。


「ってかなんだよ甲斐発って。人様の苗字に文句を言うのも申し訳ないけど、甲斐だけで良かっただろ」

「ご先祖さまは甲斐を出発したんじゃないかな。きっと甲斐出身だったんだよ」

「出身地にしたかったなら、なおさら甲斐で良かったじゃねえか。どうして出発したんだよ。もっと行動と苗字に一貫性を持て」

「僕のご先祖さまはどうでもいいんだよ」

「言われりゃそうだわ。なんで俺を呼んだ」


一方的に知っているだけで、会話をした事はない。そもそも話しかけようとは思いもしない。


ラブレターだと思ったら悪戯とか、そういうガッカリでもなく予想外の方面から飛んできた爆弾に怒りが湧いて付き合っているだけだ。


「今日は僕の開発した最先端の靴を見て欲しいんだ」

「今日は、って言うから再確認だが初対面だからな。そんな気安く発明を見せられるような間柄じゃないぞ。行間にいつもを挟むな」

「最先端の靴がこちら」

「おいおい無視かよ。こちとらテレビショッピング観てるのと違うんだぞ。訪問販売で客を無視するな」


とは言うが、目は甲斐発が机の上に出した靴に向く。特に何かおかしいところは見られない。普通の靴の様だが、履いてこそ真価を発揮するとか言うのであれば、俺は怖くて履けない。


「さて、これのどこが最先端の靴だと思う」「あー?どうせ最先端技術が詰まってるとかだろ。透明になるのか?それとも靴でプログラミングでも出来るのか?」

「ポチッとな」


靴の爪先からニードルが生えた。


「お前それ俺の方向いてたら死んでたぞ!?」


長さ10cmはありそうな蜂の尾を想起させるニードルは、視聴覚室の電灯に照らされ殺意満点の鈍い反射光を返す。


「嫌だな死なないよ。内臓に届かない限り」

「届いたら死ぬじゃねえか!俺の皮膚と内臓の間に厚さ10cmの脂肪がなかったら余裕で刺さるわ!」

「一体誰がこの針が10cmだって言ったの?」


そう言って甲斐発が靴紐を引っ張った。

途端に針が勢いよく射出された。


「うおい!お前!お前っ、殺す気じゃねえか!仮に長さ10cmでも飛距離が余裕でそれを上回ったわ!」

「だから誰が10cmだって言ったの?って言ったのさ」

「普通は危険性を指摘してるんだから、そこは本物の針じゃないとか、簡単に折れるから短いとかそういう流れだろうよ。誰がいつ飛距離の話をしたのか逆に質問させろや」


俺の指摘に意を介さず、甲斐発はまた靴に触り始めた。傍目には見えないが、きっとさっきのボタンのようなものがあったり、靴紐を引っ張った時のような仕掛けがあるのだろう。

なんだか靴の形をした黒ひげ危機一発に思えてきた。


「ってか、これのどこが最先端の靴だよ。靴から凶器が飛んだところで危ねえな、で終わりだよ」

「まだまだこんなものじゃないよ」


俺にとっては恐ろしくも不敵な笑みを浮かべて、甲斐発が靴のどこかに触れた。直後、あからさまに見てわかる変化が発生する。

なんと、爪先から次は獣のような鉄の鉤爪が生えた。


「よーしよし、わかったぞ。ピンときた。これはつまり、最先端の暗器だな?」

「いや?靴だよ?」

「馬鹿を言うな!」


カタツムリに道を譲るくらい日ごろ温厚な俺でも、流石に拳で机を叩いた。


「誰が爪先からデカイ針が生えたり鉄の鉤爪が生える靴を見て、『あ、これは最先端の靴だなあ』って思うんだよ!?

百歩譲っても暗殺を生業にしているような人間が『あ、これは良い靴だなあ。たくさん殺せそうだ』って感じだろ!」

「君は発想が物騒だね」

「お前の発明が物騒なんだよ!っつか手が痛え」


過去に殴った最も硬い物質は、お笑い番組で爆笑した際に叩いた自身の太ももである俺の拳は、木製の机に対してあまりにも貧弱だった。


「そんな時にもこの靴が使えるんだ。痛い方の手にこの靴をはめてみて」

「お前、靴って足で履くものだって知ってるか?まあ、痛いから試してみるけどよ」


右の靴を渡され、そのまま右手にはめてみる。

拳を固めて靴の奥まで進めてみると、人差し指の第二関節が何か固いものに触れた。

と同時に白い長方形が爪先から吐き出された。


「拾ってみて」


言われるがまま、靴を手にはめたまま白い長方形を拾いあげる。これは━━


「湿布だ」

「そう。湿布だ」

「靴に手をはめた意味がねえ!別に足でも良かったろ!きっと足でもボタンには触れたわ!」

「でもその靴を履くと歩きにくいよ?」

「じゃあ靴としてダメじゃねえか!しかも湿布の射出時に鉤爪に触れたからちょっと切り裂かれてるしよ!いや、湿布の射出時ってなんだよ!?」

「知らないよ。君が勝手に言ったんだ」

「お前が勝手に作ったんだ!」


とはいえ、手が痛み続けるのは事実だった為、靴を手から外して湿布を貼った。

ちょっと切り刻まれていたのが無駄に功を奏して、うまく指にも纏わせるようにして貼り付ける事が出来た。


「それにしても、こんな靴どうやって作ったんだよ。日本でこんな事が許されるのか?」

「踵に書いてるよ」


一体なにが、と言葉には出さずに踵をチラと見る。ああ、メイドインジャパンみたいなやつが刻まれているな。一体どこ産だ?


『made in north pole』

「北極産じゃねえか!」

「うん」

「リアクションが軽い!クリオネか?感情まで北極産になったのか?」

「クリオネは南極にもいるよ」

「だったらなんだよ!ホッキョクグマを使えば良かったのか?うわあ、ホッキョクグマみたいに恐れ知らずですねーってか!?ホッキョクグマの特徴ってなんだよ!白い事しか知らねえよ!」

「まるで僕の清廉潔白さみたいだよね」

「失礼を承知で言うが真っ黒だよ!お前のどこに白さがあった?凶器生み出してんだぞ?法律をご存知ない?」

「靴を作っただけで心外だ」

「その靴が問題だって言ってんの!こっちはよ!まあ、湿布はまだいいよまだ。意味わかんないけど。でも、針と鉤爪はアウトだろ。人を傷つける以外の使い道がわからねえ」


と、見てきた機能を思い返して気づいた。


「つーかこれ、最先端の靴って流行とか最先端『の』技術が詰まったとかじゃねえな。最先端『に』技術が詰まった靴だな」

「その通り」

「何がその通りだよ。最先端に技術を詰めてどうすんだよ。しかも別に要らねえ機能ばっかだし」


甲斐発が靴を揃える。俺に見せたいのなら爪先をこちらに、いや向けて欲しくはないが、俺に対して横向きに置き直した。

そして右と左、両方の靴の甲を人差し指で押した。

ブオォォォォ!!

爪先から白煙が噴き出す。微かに香る火薬の匂いは、花火をした時のそれによく似ている。

そして、靴は勢いよく発射した。

パリーンという窓の割れる音を残して、白い雲を突き抜けて行った。

きっと夜には星となって、俺たちを優しく照らす


「わけねーよ!」

「なんだいいきなり」

「こっちの台詞だわ!確かにな、空飛ぶ靴に憧れる少年心はあるさ。一瞬ドキドキしたのは本当だ。そのドキドキも爪先から白煙噴き出すの見て蹴り飛ばされたけどな?

なんで爪先なんだよ。踵だろ。せめて足裏だろ。上に飛べよ。横に飛んでどうするよ。しかも敵に突っ込むどころか逃げた勢いで死ぬわあんなん」

「この平和な世に敵なんかいないよ」

「黙れ人類の敵が。もしあの機能を人生で一度は使わないといけないとか言われたら今使うわ」


そう、使うなら今だった。お前はたった一度の機会を逃したんだ。セールスポイントを見抜けなかったお前の負け、いや、負けってなんだ。俺は勝ったのか?勝ち負けなんてないだろ?


「使いたいと言ってくれたけど残念ながら、あの機能を使った後は見つけられないんだ。GPS機能も何度か試したんだけど、大気圏で燃え尽きちゃって」

「何の為の機能なんだよ!靴として使えないどころか、一歩誤れば靴自体が失くなるような機能を実装した理由を言え!」

「火力が欲しくて」

「靴に火力がいるか?テレビショッピングを見てみろよ。『今日のオススメはこちらの靴!軽さ、頑丈さ、通気性、そして火力が備わっています!』なんて言うか!?火力ってなんだ?ってなっちゃうだろ!」

「今までにないアピールポイントで最先端でしょ?」

「急に最先端要素を求めるな!お前が目指した最先端は靴の最先端に機能が集約している事であって、社会的な最先端を目指した訳じゃなかったろ!」

「ちょっとしたお茶目だよ」

「お茶目で済む様なもんじゃねえよ。お茶が目に入って盲目にでもなったらこんな靴を作れんのか?」


と、そこまで言い切って、ようやく一息ついた。今日はやたらと言葉が走る。何かがおかしい。


「どうかした?」


睨んでいる事に気づいたらしい。


「お前、俺になんかしたのか?いや、なんかって言ってもわからないか。今日はいつも以上に口が回る気がするんだけどよ」


確かにいつもテンション高めをモットーに生きてはいるが、ここまで初対面の人間に突っ込むほどでは無かったはずだ。


「ああ、実はあの靴の爪先から、気分を高揚させる物質が放出されていてね」

「やっぱりお前のせいか!」


通りでツッコミするのが気持ちいいとか、大声出すのが気持ちいいとか思ってたんだ。流石の俺も2人しかいない部屋でそうそう大声を出すはずがない。

だって少し離れた教室では吹奏楽部が練習をしているし、校内で走り込みをしている部活もいるってのに。


「ってか、物質って何だよ。こえーよ。あの靴が飛んでいってくれてめっちゃ良かったわ」

「靴が離れたお陰で冷静さを取り戻したのかもしれないね」

「そうか。靴を飛ばしてくれてありがとうな。いや、お前がそもそもの原因だったわ」

「どういたしまして」

「どういたしますな。で、なんで俺が呼ばれたんだ」

「リアクションが良いから。やっぱり、自分の作ったものには反応が欲しいからね」

「それだけかよ。テレビショッピングでもやってろってんだ。靴も失くなったし、俺は帰るぜ」

「うん。またね」

「また会う事は2度とない」


その日の夜、人工衛星が宇宙ゴミとぶつかって損傷したというニュースを見た。

そのゴミというのが宇宙では物珍しい、靴だったらしい。


「燃え尽きてねえじゃねえか」


苦情を入れてやろうと思って十秒以内に、やっぱり今見たものは忘れることにした。

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