9話 彼らの潜在能力
翌日、榊たちは訓練所に集まっていた。
「お、偉いえらい。しっかりと集まってるね。それじゃ、今日も始めていきましょうか」
流が感心したように頷きながら歩いて来た。
そんな流に対して、何も答えることなく、六人は黙って流を見た。流は榊の顔が昨日よりも少し固いような気がした。
とはいえ、それをわざわざ突っ込むことは出来ず、とにかく話を始めることにした。
「早速行きますか。僕らの防衛隊の術は、陰陽術を元にしている。それに現代風にアレンジしたり、魔術を混ぜたりして有名な五行の属性とプラスして闇と光、影とか空間、無などの属性ができた。これによって、昔よりも圧倒的に強くなった」
流がいきなり授業のようなものを始めた為に、六人はギョッと目を剥いて流を見た。
「ってことは、俺たちも魔術が使えるんすか」
榊が手を挙げて質問した。
「いや、魔術を使うにはマナとは違う魔力が必要になる。この中で魔力を持っているのは、澪くんだけかな。基本的に防衛隊の術は、魔術をマナで使えるように改造したものだ。澪くんには、こっちの術と魔術を覚えてもらうことになる。まあ、みんなも適性のある術は片っ端から覚えてもらうからね。頑張れ頑張れ」
流が澪をちらっと見ながらそう言うと、澪の肩が跳ねた。流は敢えてスルーしながら他の五人にも語り掛けた。
「そんな……、某特級呪霊みたいに言われても」
榊は驚いたような、呆れたような反応を返した。
「国家転覆か……出来なくもないけど、防衛隊は政府直轄の組織だからな……」
榊の言葉で遠くを見ながら流は呟く。
「俺はどこから突っ込めば良いんだ……」
焔はそれを聞いて、頭を抱えた。
新情報として、対幻魔防衛隊が政府直属の組織であること。そして、流が国家転覆が可能ということが加わった。
あまりの情報量に、焔だけでなく、他の五人も顔を顰めていた。
流はそれを軽くスルーして話を続けた。
「まぁ、まずはマナを纏ったり、感じたり出来るようになってもらおうかな。それが出来ないと何も出来ないからね」
学校の先生さながらに右手の人差し指を立てながら言った。
「マナを血液だと思って、心臓から流れると考えるんだ。個人的にこれが1番分かりやすいと思う」
「ん? じゃあ、マナって心臓から出てんすか?」
流の言葉に、焔は首を傾げて質問した。
「いや、医学的というか、科学的には元から体中にある物なんだ。だけど、この表現が1番イメージしやすいらしい。僕もそう考えてるしね。そのマナを感じて体の外に、今回は手に出してみてね。誰が1番早いかな〜? 楽しみ!」
流は焔の質問に首を振って答えると、今度はワクワクした表情で六人に指示を出した。
榊たちは各々で目を閉じて、イメージをするために集中しだした。だが、やはり上手くいかないようで1分経ってもまだ誰も出来ていなかった。
そのすぐ後、出来るようになったのは意外にも澪だった。
「あ、出来た……」
澪は自分の手を見てぼそっとそう呟いた。
その手は、白と黒が半々のオーラを纏っていた。
「澪くんが1番最初だったか〜。面白いね」
流は変わらぬ表情で六人を見ていた。
その後、続々とみんなも出来るようになった。凛桜、焔、久龍、白亜、榊の順だった。それぞれ、流が言った通りの色のオーラを手に宿していた。
「お、全員出来るようになったね。意外と早かったね。普通はもうちょっと遅いんだけどな」
流は次々と成功した六人を見て、そう感嘆した。
続けて流は別の指示を出す。
「感じれるようになったら、次だ。そのマナを何かの形にしてみよう。僕たちはマナで武器を創って戦ってるからね。瞬間的に出来るように何回も練習してね」
流はそれだけ言うと、ウインクをしてどこかに歩いていった。
六人はそんな流を驚いて見つめる。しかし、その背中は角を曲がって消えてしまった。
「あれ? 流さん、どっか行ったんだけど……」
榊は自分の手元を覆う群青色のマナを見ながらそう言った。
「これ、もしかしてめっちゃムズいやつ?」
焔が自分の手を見て、嫌そうに顔を歪める。
「まぁ、やれるようになるしか無いだろ」
そう冷めた反応をしたのは白亜だった。
その後、会話も無く6人は黙々と練習していた。
一時間ほど経っただろうか。久龍が珍しく声を上げた。どうやら、成功したようだった。
「あ、出来た……」
「え、マジで?」
榊は久龍の方を向いた。
確かに出来ていた。ナイフのような物で、久龍のマナの色と同じく漆黒であった。
「スゲ〜、どうやってやったんだ?」
焔は久龍に歩み寄りながらそう言った。
久龍は困惑しながらもしっかりと質問には答えた。
「えっと、何かすごく頑張ってイメージすること、かな?」
「よし、分かった。頑張るぞー」
久龍が言った通り、焔は拳を突き上げ、それぞれも頷きながら練習を再開した。
その後、30分もしないうちに全員が出せるようになった。
そして、その1時間後、流が戻ってきたときには、全員が瞬時に出せるようになっていた。
「え? これって夢じゃないよね……? 普通、こんな早く出来ないけど……。あれ? 今までで1番優秀なのかな?」
流は目に手を当てながら困惑したようだった。
「え? これってそんなムズい物なの? 意外と1回掴んだら、どんどん行けたけど?」
榊は何かを創ったり消したりして遊びながらそう言った。顔はきょとんとしている。他の五人も大体同じような顔だ。
「あのね〜、君たち……。これはね、1週間かかってもおかしくないようなやつ何だよ? それを2時間って……、どういうこと? 優秀とか、そんなレベルじゃない! 天才です! もうこれは、じゃんじゃん進めた方が良さそうだ。よし、もう1週間ぐらいで君たちを戦えるようにする!」
流は腰に手を当てながらそう宣言した。
六人はそれを聞いて、何言ってんだこいつとでも言いたげな表情をしたのだった。
流は訓練所の入り口の上に掛けられた時計を見ると、六人に微笑みかけた。
「取り敢えず休憩にしよっか。疲れたでしょ」
流の言葉に従い、六人はその場に座った。
そうして落ち着いていると、流の背後に急に影が現れた。昨日会った怜であった。
「流さん?」
「れ、怜くん、何かな?」
怜に名前を呼ばれ、ぎこちなく流は後ろを振り返る。顔が引き攣っているのが榊達から見ても分かった。怜の表情はあくまでも笑顔であり、それがまた流の恐怖を煽っていた。
怜は流に近付き、その首元を握った。
「あ、すみません。この人拉致ってもいいですか? 今日はもうこの人戻って来れないと思うので、訓練は無しでお願いします」
「分かりました〜」
「お疲れ様です」
怜からの言葉に、榊と焔が返答した。
流の顔はますます青くなり、怯えているのが分かった。
そんな流を気にも留めず、六人はさっさと自分の部屋に戻って行った。
流は怜に襟元を引き摺られながら連れて行かれていた。
榊は自分の部屋に戻ってから、暫くぼうっとしていた。
今日やったことが復讐へと繋がっているのが、不思議たった。大したことはやっていないのに、これが戦闘の基礎中の基礎であるらしい。
自分が一番早く出来た訳ではなかった。コツを掴むのは寧ろ遅い方だった。
他の同じメンバーに多少教わりながらやった。
自分一人で復讐の為のことをやり切れるかと言えば、恐らく無理なのだろう。
榊はこの日、心に決めた。
(復讐の為に、あいつらを利用しよう。仲間……ではないし、俺が強くなる為にあいつらを使った方がいい)
榊は太陽が高いために陽の光が入ってこない部屋の中でそう思った。
榊の決心から二週間後、九州の各地で天使による襲撃が起こった。
これが鬼神小隊の最初の戦いであった。