7話 皆のマナ
それから「ちょっと出てくるから待っててね!」と言って出て行った流を待つこと数分、流はニコニコの笑顔で部屋に戻ってきた。
その手には、透明な水晶のようなものが握り締められていた。
「これは、鑑定水晶と言って、これを透かして人を見るとその人のマナの色と、特殊マナが分かるっていう優れものだよ。マナの色はまぁほとんど関係ないけど、強いて言うなら髪の毛の色がそのマナの色になるらしいよ? 僕は見たこと無いけど……。まぁ、そんなことは置いといて、これは術の適性とかも分かるから、どんな術がその人に向いてるかというのも分かってしまうという多分過去一の発明品だ」
何故か流が誇らしげに胸を張ってそう言った。
大半はげんなり顔であった。
「何で流さんが偉そうに言ってんだよ!」
素晴らしいツッコミを入れたのは榊だった。
「まぁまぁ。そんなのはどうでもいいじゃん? 早く見ようよ! 誰からが良い?」
流は榊のツッコミをスルーして、心底楽しみな表情をして言った。
流のこの期待でいっぱいな表情と相反して、六人の表情はあまり芳しくなく、お互いで様子見をしていた。
「じゃあ、俺からで良いですか?」
少しだけ控えめに手を挙げた勇者は、焔だった。
「うん! 誰からでも良いよ。さあ、見ていこう。あ、言っておくけど、特殊マナは秘密だからそこの部分だけ念話で話すから。」
流が今更ながら付け足すようにそう言った。
そんな遅ればせながらといった様子に、六人は既に呆れていた。
「じゃ、よろしくお願いします」
「うん! えっ〜と、君は……、うん。どうやら全体的に術の適性はあるけど特に炎術に適性があるね〜。そして、君のマナの色も真っ赤だ。真紅色だ。キレイだよ〜。」
少し緊張した面持ちの焔に、流は笑いながら水晶を覗く。流の目には、焔を包むように真紅のオーラが見えた。そして、その真紅のオーラの上から押さえ込む様に黒い何かが圧力を掛けていた。
それらのことから、流は焔の特殊マナを推察した。
『君の特殊マナは、重力術だね〜。使い方によれば、最強格かな。良かったね!』
流はサムズアップしながら焔の真紅のマナに自分のマナを繋げるようイメージしながら、念話をした。
「俺が……? じゃあ……」
焔は少し首を捻りながらも、取り敢えずといった感じで何か決心をした様子だった。
流は水晶から目を離し、六人を見る。
「と、まぁこんな風にやっていくから、お願いね〜。次は誰が行く?」
流の質問に、白亜が手を挙げて答えた。
「私が行きます」
白亜は淡々とした様子で、どこか不安げでもあった。
そんな白亜に微笑みながら、流は水晶を覗き込む。
「よし、じゃあ行くよ〜。君は……、ほう。中々珍しいね。無属性に適性があるや。他は、治癒術も多少はできるかな。うん、マナの色は白だね。純白だよ。似合ってる〜」
流の目には、白亜を包み込む純白のオーラとすぐそこに寄り添う虎、純白のオーラに溶け込むように消える虎等、数匹の虎を見た。
そのことから、流は白亜の特殊マナを推測した。
『君の特殊マナは、何だ? これは……虎? あ〜、君は虎のような身体強化(?)ができるみたいだね。名付けるなら、千虎万化かな? うん、大分これは強いね。中々使い所が多いと思うし、応用も利く。頑張れ』
流は中々難しかったのか、唸りながらもなんとか言語化して白亜のオーラと自分のマナを繋げて念話で伝えた。
そんな言葉を聞いて、白亜はぼーっと上を見て考えていた。
「虎か……」
白亜はこれだけ呟くと、無言で考え始めた。
「さてさて〜、まだまだ行くよ! 次は誰だ!」
流は既に済んだ二人の方を見た後、握り拳を上に突き上げて叫んでいた。楽しそうだった。
「私をお願いします」
凜桜が静かに手を挙げて、それに応えた。
それを聞き、流は凜桜の方を向いて水晶を覗く。
「よし、うん…… 君は、はあ〜。木属性かな。治癒も使えるし、ある意味戦いでは要となるかもしれない。マナの色は翠だね。落ち着いた、深い翠だ」
流は凜桜の身に纏わりつく翠のオーラとそれの中で煌めく亀甲模様を見て取った。そこから流は推察する。
『君の特殊マナは、う〜ん。えっとね、君は亀の甲羅の様な硬さの結界を張ることができる能力だね。う〜ん……、名付けて、亀甲壁かな。大分後衛に偏るね。後方支援の術を覚えると良いかもしれない。頑張れ』
流は凜桜を見て、翠色のオーラに自分のマナを繋げつつ、そう念話で励ました。
「さてさて~、3人終わったよ〜。次は誰かな〜?」
流は楽しそうに水晶を持った方の腕をグルグルと回した。
「あ、あの〜。私、やってもいいですか?」
澪が恐る恐るといった雰囲気で手を挙げていた。
そんな澪に流は優しく声を掛けながら、水晶越しに澪を見た。
「うんうん、どんどん行こうか。君は……闇属性か〜。中々珍しいところが来たね。使い方が難しいからね、頑張って! あれ? 君は他にも術が……。うん、何か使えそうだけどこれはマナじゃないね。魔力だ。さしずめ、魔術ってところだろうね。面白い。色は、あれ? 2色混じって……、黒と白だね。う〜ん、具体的には、呂色と月白かな。まさしくって感じか」
流は澪の身体の全体を覆う二つの色のマナを見た。それはまるで澪の身体の勢力を競うように、せめぎ合っていた。彼女の背後では月が崩壊と復活を繰り返しており、そこから流は特殊マナを推測した。
『さて、君の特殊マナは……。お〜ん。面白いね。月の力を使えるって感じか……。使い道は、破壊と再生か。治癒よりも強いし、どんな術よりも強いね。使い所は考えてね。他にも使えそうだよ。月の力は大きいからね。名付けて、闇月夜かな。頑張れ』
流は澪に気を遣いながら、伝えた。
澪の顔色が少し悪くなったようだが、これはおそらく、強大な力によるものだろう。きっと怯えてしまったのだと流は考えた。
流は澪から視線を逸らし、残りの久龍と榊を見た。
「次は?」
「じゃあ、俺で」
流の尋ねに、榊が手を挙げて答えた。
流はそれを聞き、水晶越しに目を向けた。
「君は〜、色は真っ青だね。目の覚めるような、青だ。群青色だよ。1番青らしい。適性は全部かよ、コイツ。しかも、何か別の力もまじってるし……。なにこれ? は? うわ〜。君、エース級だね」
流の目には、真っ青な群青色のオーラが榊の身に纏わりついているのが見えた。そして、空間が座標化され、キラキラと硝子の破片の様なものが周りに浮かんでいた。
オーラや榊の身体の更に奥に、何か強大なものが蠢くのが見えた。
流はそれから目を逸らしつつ、特殊マナを考えた。
『さてさて~、そんな君の特殊マナは〜、空間術か〜。う〜ん……名前付けたかったな。まぁ強いよね。頑張って
』
流はそう伝えた。
榊はそれ聞いて、眉間に皺を寄せながら唸った。
「何かムズそうだな」
頭を掻く榊を横目に、流は久龍に目を向けた。
「じゃあ、最後は久龍くんだね! 見させてもらうよ〜。うん? きみは……、影属性だね。また珍しいのが……。今回は豊作かな。マナの色は、真っ黒だ。漆黒だよ」
流の目には、久龍を包む漆黒なオーラが見えた。その周りの風景や久龍の身体は幻の様に歪み、消えたり現れたりしていた。背後に何かしらの大きなものが見えた気もしたが、はっきりとは捉えられなかった。
『君の特殊マナは、うわ、隠密だね。幻を創ったり、閉じ込めたり、自分の身体変えたり。本当に色々出来そうだよ名付けて、繊翳幻月かな〜。頑張れ』
流はそう言うと、全員の方を向き直った。
久龍は何ともいえない、無表情のようで、少し不安そうでもあった。
「さてさて~、これでみんなのを伝え終わったところで、もう昼だね。食堂で昼食だ。色々と試すのはそれからだよ」
流は笑顔でそう言った。
まだまだ防衛隊での初日は終わらない。