54話 個人戦決勝 拾 焔対凛桜
「これ、榊がやったのか。放送の間隔的に2対1っぽいけど、気のせいだよな?」
「さあ? もしかしたらもしかするかも?」
焔が問いかけるような呟きを洩らすと、凛桜がそれに返した。
「関係ねえよな」
「そうだね、今は」
焔は割り切ったように構え直し、凛桜もそれに倣った。
先に動いたのは凛桜だった。最短距離で焔の元まで走り込み、勢いを付けて焔の体にレイピアを突き刺す。
それは普通に防がれて、逆に手痛い反撃を受けそうになった。
「危ないな〜」
「そらそうだろ」
凛桜が茶化して笑うと、焔は笑いながら返した。
今度は逆に、焔から仕掛けた。
右に行くと見せ掛けて、左に回転し逆袈裟斬りをした。それを凛桜は軽く後ろに下がって避けた。
「緋野式炎術、参式、炎壁」
焔はその凛桜が下がったところに炎の壁を創った。
「あぶないね……」
凛桜は【縮地】を使って焔の逆側へと回り込んだ。
「素直にやられとけよ」
「そうはいかないんだよね!」
焔がニヤけながら言うと、凛桜は澄まし顔で攻撃を開始した。
最初はいつも通りのレイピアによる高速突きだった。焔と凛桜は一応、毎日一緒に訓練している仲間である。武器を持っての打ち合いは日常茶飯事だ。
焔はそれを全て受け切った。
「亀龍式木術、陸式、双葉挟」
凛桜は焔の背中を狙って2つの葉を飛ばした。
「緋野式炎術、捌式、落炎」
焔はそれを上から落とした炎で防いだ。
「亀龍式木術、肆式、大樹叢生」
凛桜は白亜にやったのと同じように、焔を上へと打ち上げる。
だが、焔は至って冷静で、
(こりゃ、術の適性によっちゃやられんな……さては白亜をこれでやったな? 勝つんだったら……でも俺のせいで凛桜が弱いと思われたくねぇな……)
と考える余裕すらあった。
「緋野式炎術、肆式、火孔炎」
焔はまずは地上に下りることを最優先事項とし、下向きに炎を噴出した。
「亀龍式木術、弐式、蔦紐」
凛桜は蔦で焔を捕まえて、地面に叩きつける。
「ぐっ……?!」
「ずっと考えてたんだよね、こういう使い方」
驚きと衝撃で呻き声を上げた焔に、凛桜は笑いながらそう話しかけた。
「そう来るか……じゃ、お返しさせてもらおうじゃないの」
焔はゆっくりと立ち上がりながら、笑った。
「緋野式色炎術、弐式、蒼炎、炎術、弐式、炎纏い」
焔は蒼い炎を刀に纏わせて、凛桜の元へと駆け出した。それに対して、凛桜は右手にレイピア、左手に弐式、蔦紐を展開しつつ、焔を待ち構えた。
焔は【縮地】を使用し、凛桜の視界から消えた。
「緋野式色炎術、壱式、赤炎、炎術、壱式、炎弾」
焔は木陰から炎の弾を撃ち出した。凛桜はその音に気付き、焔の方向を向く。そのお陰で、炎弾の狙いが僅かに逸れて、胴体ではなく、腕に当たって終わった。
「やったね……?」
「心理戦だって大事だろ? 騙されたのはそっちだ」
「それはそうなんだけど!」
2人は暫しの歓談の後、再び動き出した。
炎を纏った深紅の刀と翠色のレイピアの打ち合いだった。時々、蔦紐を焔に打ち付けるが、それはあっさりと刀で受け止められて、燃やされた。そして、また創り直すという繰り返しだった。
暫く状況は動かなかった。しかし、急に均衡は揺らぎだした。
「緋野式色炎術、弐式、蒼炎、炎術、漆式、幽炎閉門」
焔は自分ごと大きな炎の立体に包んだ。但し、地面だけはそのまま普通の地面である。
「え〜、正気じゃないよ〜。こんなの」
「面白いだろ? デスマッチだ」
「嫌いじゃない、ということはお伝えします」
「ははっ! だろ?」
炎に囲まれてつつ、2人は笑い合った。数秒後、その場は戦場と化す。
凄まじい【縮地】の応酬に下の地面は耐えられす、凸凹になっしまっている。そこら中で高い金属音がなり、次第に迫ってくる炎の壁をものともせず、戦い続けた。
「亀龍式木術、壱式、木槍」
「緋野式色炎術、弐式、蒼炎、炎術、壱式、炎弾」
凛桜が飛びした木の槍を、焔が蒼い炎弾で吹き飛ばす。
もう既に炎の壁は5メートル四方に迫っている。
しかし、2人はまだ動き続ける。止まらない。決着は付かない。
炎の壁が1メートル四方になった時、両者の呪符が同時に飛び出した。
『鬼神小隊、亀龍凛桜、緋野焔。呪符の完全消滅を確認。よって、脱落とする』
アナウンスがかかった。更にその声は続けて、
『最後の1人となった為、個人戦は鬼神小隊、葵榊の優勝とします』
と告げた。
「いやぁ……やっちまったぜ!」
「まさかの相討ちとはね……」
「ほんとにな!」
2人は笑い合いながら、健闘を称えた。
個人戦の優勝者、榊は、森林の中で1人佇んでいた。
「くそっ! まだ、まだ戦いが足りない! 鍛錬が足りない! 強くならなきゃ、意味が無い!」
森林の中に1人の怒声と木が燃える音だけが響いた。