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第231話 バカだった……


 楽しんでいってください。


 まだ、洞窟は続いている。

 だが、この先目立った反応は何もない。


「お宝でもあるかもだし、さぁ行きますか!」


 カレンの元気ある声が、洞窟中を響き渡らせる。カレンは、鼻歌混じりで先に先にと進んでいく。

 

 歩いて数十分が経過


「何もないなぁ」


 ここに来たのを、後悔したかのような声を出すのはロードだった。

 

「洞窟ってそんなもんでしょ!出口があるか、行き止まりか調べるわよ」


 誰もそれについては、言葉を発しなかった。

 小国の冒険者でも、ここまで奥に進むものは1人もいない。

 ヒドラさえ倒せればいいし、戦闘で少なくなったぼーションのまま行きたくないのだ。

 死と隣り合わせだからこそ、こんな洞窟に長居はしたくないのが当たり前なのだ。

 それに比べて、この人たちはなんなんだろうか。

 あのヒドラキングを苦戦もせず倒してしまうし、こんな場所を隅々まで探索しようなんて、おかしいと頭の片隅で思った。


「すまねぇな、こんな所まで付き合わせちゃって」


「レンさん、いえこちらこそヒドラキングを倒してもらってますし…」


 レンさんは、かなり申し訳なさそうにしている。

 

「でも心配すんな。俺たちは強いから、絶対に大丈夫だ」


 その言葉は、とても信頼のある言葉として受け取った。

 それに言われなくてもわかっているつもりだ。俺から見たら、全員化け物としか思えないからだ。

 それだけの存在感がする。


「みんな、空洞に出るわ」


「まさかのヒドラいるね」


 その言葉を聞いた瞬間、膝から崩れ落ちた。

 もう戦わなくて済むって、思っていた自分がバカだった。


「じゃあ、ストライカやってもらおうかな」


 もう逃げられない。

 

「ですよねー。ふぅー、出来るだけ頑張ってみます」


 腹を括り、前に出る。

 この人たちより、存在感は薄いもんだ。

 大丈夫、大丈夫、大丈夫。出来る、出来る、出来る。

 心の中で、暗示を唱え自分を鼓舞する。


「シャァァァーー」

 

 どうやら気づかれたようだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、一閃!」


 皮膚が動く。

 

(あ、毒ばり…)


「世話が焼けるな。スラッシュ!」


 毒ばりは全て空中で分解する。

 それを驚いて声も出せなくなっている。


「周りを良く観察して戦え。俺が居なかったら、致命傷は避けられてもどのみち死んでたぞ」


 暗いトーンの声が空洞の中を響く。

 

「す、すみません」


 気を取り直して、やつの方を向く。

 今やつは、怯えている。

 でも無闇やたらに近づいては、こっちが不利だ。

 覚えたての神速で、一気に間合いに入る。


「はぁぁぁっ!一閃」


 今度は、手応えがある。

 すぐに後に下がらないと。


 その矢先のことだった。

 斬られたことで、怯えていたのが治ったのか、すぐさま尻尾で巻き付かれたのだ。


「―ぁぁぁっ!」


 ものすごい勢いで巻きつかれる。

 言葉を出すだけで、何も出来ない。

 懇願する気持ちで、ロードさんの方に視線を送った。


 助けて、助けて、助けて、助けて、助けて


 だがしかし、ロードもその仲間たちも誰も動こうとはしなかったのである。


 ―あぁ、思い上がった自分がバカだった……


 最後まで読んで頂きありがとうございます。

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