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入学迄のお話2

少し重い金属製のドアを開けるとそこには迎えに来た幼馴染のジュード・コックテイルがいた。


「おはよう。忘れ物とかはないか?」

「おはよう!多分大丈夫…かな?手持ちのもの以外は先に寮へ送ってるし」


今日から通う国立学園は基本的に寮から登校することになる。

寮へは予め荷物を一週間前には運び入れている為今持っている鞄の中身は貴重品と入学のしおり、それとペンケースぐらいだ。


財布もタブレット端末も入っていることを前もって確認はしている。問題はないはず。


「駅から学園への魔導汽車が出るから10時には乗らないと間に合わないって言われたよ」

「はーい、まぁあと2時間以上余裕あるから平気だね。でも途中で工房に寄っていい?」


父が何ヵ月も前から図案、素材に頭を悩ませ作成していたものを受け取りに工房へ行かなくては。


「いいよ。通り道だし親父さんとも出る前には話しときたいしな」


じゃあ行くか、とジュードが工房に向かって歩みを進める。

歩きやすいようにと縮めてくれている歩幅に嬉しさを感じつつリリも父の工房へと向かった。




15分ほどジュードと他愛ない話をしながら歩き、工房へとついた。

黒地にラウンドブリリアントカットの模様が白抜きされ、所々に赤い宝石を埋め込まれた看板。

その看板の下には鎖で王家御用達を証明する札が下げられている。


父はそれなりに名が知れた宝石細工職人。

父が賜っている加護の力も加わるからなのか作った細工には宝石の持つ魔力を強化する。

宝石によっては使用者の力自体を引き上げる効果があるらしい。

その為王家、特に魔法使いには御用達らしい。


「お父さーん!来たよー!」


工房のドアを開けてリリが叫ぶ。

他の職人さんが宝石の研磨や金属加工をしているので工房は基本的に騒がしい。


工房の奥、窓から日光が差し込み明るく照らされているテーブルの近くに父はいた。

日にあたり更に輝く燃えるような赤の髪と瞳を持つ父がリリに気付くと軽く手を挙げる。


ジュードとともに工房の中へ入り、動線を塞がない位置へ椅子を出す。


「ここに座って少し待っててね」


ジュードは頷き、他の職人がしている作業に視線を移す。


リリはジュードから離れ工房の奥へと進んでいく。

父はリリの制服姿を見て眩しそうに目を細める。


「お父さんおはよう!お母さんから受け取りに行きなさいって」

「あぁ待ってたよ。丁度一時間前に完成した」


持っていきなさい、と父はリリを後ろに向かせて細い首へ渾身の出来である首飾りをかけた。


リリの首から胸元にかけて繊細な金の鎖が結ばれる。

胸元に主張するのは誕生石であるアメジストは複雑にカットされ、光を浴びる度にそれぞれの面が反射する。

アメジストの周りには小さくカットされたクリスタルやダイヤモンド、ラピスラズリが金細工に組み込まれている。


「わぁ…!」


その美しさと溢れる力にリリは声を上げる。


「うん、やっぱり似合っている」


父は娘が首飾りをつけた姿を見て満足そうに笑う。細めている目の下には隈が出来ていることからこれを作成するのに苦労したことが伺えた。


「ありがとう!お父さん!」

「いいんだよ。リリ、私とマリーアの宝物。気を付けて行ってくるんだよ」


父がリリの両肩を優しく掴み、元気づける。


母の時にも泣きかけたのに今も泣きそうになる。

大丈夫、数ヵ月会えなくなるだけだ。長期休暇には会える。

そう考えることでリリは泣くのを堪えた。


「うん、いってきます!!」


少し鼻声になったかもしれない。父と軽く抱擁を交わして待たせていたジュードの元へ向かう。


「もういいのか?」

「うん、大丈夫。いこう!」


リリが少し泣きそうになっていたことにジュードが気付き、ふにゃりと破顔した後頭を数回撫でる。


「ジュード君も気を付けて行ってくるんだよ」


父からの呼び掛けにジュードが反応する。


「はい!いってきます!シルバおじさんもお元気で!!」


父に向け騎士の敬礼を行うジュード。その姿を見て父も微笑み、頷く。


「いってきまーす!」


そういって元気に二人の若者が旅立っていった。






工房を出た後、父シルバは椅子に腰掛け体重を預ける。首を傾けて窓から空を仰ぎ見る。

あぁ、二人の門出には最高の天気だ。とシルバは言葉を零す。

そろそろ家に帰ろう、きっと愛おしい妻マリーアは泣いている。

シルバは徹夜明けの体を起こし、帰路へ向かった。

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