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入学迄のお話

姿見に移るのは見慣れた自分と見慣れない制服、憧れていた学園の制服。


母親譲りで少しくせっ毛が混じるシクラメンピンクの髪、血色がいいほんのりピンク色に染まる白い肌、父親譲りの熱く燃えるようなルビーレッドの瞳。

顔立ちはいい方だとは思うが絶世の美女や傾国レベルでは絶対にない。その辺にいるかわいい程度の顔だ。ほんのちょっと買い物とかでおまけがもらえるくらい、それぐらいの顔。


リリ・カルーアは鏡に映る自分の姿を見て思わずにやけてしまった。

自分が纏っているこの制服は猛勉強した末に手に入れた国立学園の制服。

キャメルのブレザーと白いシャツ、ブラックを基調としたタータンチェックのスカート。

うん、やはりかわいい。この制服を着ているとやはり自然に頬が緩む。


鏡の自分を眺めて少しの違和感。

あ、とリリは声を発し首にぶら下がったままのリボンタイを結ぶ。

新品でまだ癖もついていないワインレッドが首元に彩られる。


国立学園は貴族学科、騎士学科、魔法学科、商学科の4学科が存在しており、リボンタイの色で学科を見分ける。

リリが今つけているワインレッドは魔法学科に所属していることを証明する色だ。


くるり、と姿見の前で体を回しおかしなところはないか確認した後、学校指定の鞄を持って自分の部屋を出る。


階段を降り、リビングへ向かうとテーブルには朝食が一通り並んでいる。

コーヒーを入れている母がリリの姿を確認すると優しく微笑む。


「おはよう。制服似合っているわよ」

「お母さんおはよ!ありがとう!やっと着れたからすごく嬉しいんだ!」


自分の定位置に座ると母はリリの右手前にコーヒーとシュガーポットを置く。

ありがとう、とリリはコーヒーへ3つ角砂糖を入れ、ティースプーンで音が鳴らないようにかき混ぜる。

渦を巻く黒い水面を見ながらリリは母に話しかける。


「お父さんは?」

「今工房にいるわよ。最後の調整や確認をしてるみたいよ」

「わかったー。また行く途中で工房へ寄るね」


リリはたっぷりイチゴジャムとバターを塗ったトーストを頬張った。


母がリリの真正面に座り目を細めて見つめる。

ちょっと照れてしまうが少しの間会うことが出来なくなる母の顔を見る。

優しい、いつもの母の微笑みだった。


気付けば最後の一口になっているトーストを頬張って咀嚼し、飲み込んだ後ほろ苦いコーヒーを口に 含む。


「お父さん張り切ってたわよ。自信作みたいだから大事にしてあげてね」


うん、とリリは頷きコーヒーのお代わりをマグカップに注ぐ。


母が食べ終わった皿を回収し、流し場へ運んでいく。

新しいコーヒーに角砂糖を3つ入れまたかき混ぜる。


「次に帰ってくるのは冬季休みになるのかな…。少し寂しいや」


母に聞かれないようにその言葉ごとコーヒーで喉奥へと流し込んだ。




10分もして新しく注いだコーヒーも飲み終わり、母のいる流し場へマグカップとティースプーンを持っていく。

母は流し場の桶に水を張っているところだった。


「もう出るの?」

「そろそろジュードが迎えに来ると思うから…」


リリは玄関のほうへ視線を移すがまだ誰も来ている様子はない。


「ジュード君と仲良くやるのよ。ちゃんと長期休みには帰っておいで」

「わかってる…」


流水で軽く汚れを濯いだ後に水を張った桶に食器を沈める。

多分母にはリリがジュードに対して昔から好意を持っていることがばれている。

恥ずかしさもあり、そっけない返事になってしまった。




チリンチリン、高く軽やかな鈴の音が家に響く。


「ジュード君、来たみたいね」


母が片手間に桶の中へ洗浄魔法をかける。

音もなくくるくると食器は桶の中を回りきれいになっていく。


「みたいだね…じゃあそろそろ行ってくるね」


「リリ、健康には気を付けるのよ。何があっても私たちはあなたの味方よ…嫌なことがあったら帰ってきていいんだからね」

「うん…お母さんも健康に気を付けてね。冬期休暇になったらお土産を持って帰ってくるね」


リリは母の背中に手を伸ばし、抱きつく。しばらくの別れを告げる。


「じゃあ行ってくるね!」


リリは机の近くに置いていた鞄を片手に持ち、玄関へ歩みを進める。

ローファーを履いてドアを開けてジュードの元へと駆けていった。






リリの姿がドアの向こうへ消えたのを確認した後母、マリーアは流し場に戻り桶の中を見る。

洗浄魔法が役目を終えていることを確認して桶の中の水を抜き、食器へ乾燥魔法をかけた。


一つ息をついて窓から空を眺める。


あぁ、とても綺麗な青空。2人の門出にはぴったりだ。


マリーアの瞳からは大きな水滴が零れ落ちた。

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