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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・後
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リフレッシュは大切だよね

はっぴはろいん!

 なんだかんだレジェンド会議も落ち着き、俺はまた三界の調査に出たのだった。


 原作知識に基づく目ぼしいことは最優先で調査してしまったけれど、それでネタが切れるようなこともない。だって、この世界は実在しているのだもの。箇条書きのようにして知る知識の外にだって、情報はごまんと転がっている。


 というかむしろ、優先的に調べる手筈になっている下界ですら、真っ二つに分かれちゃったわけだから、当然見て回る範囲は普通にエクストラ広いのだ。いくら俺個人の性能がラスボスクオリティだろうが、本格的に調査しようものなら、当然ひとりではとても見て回れるものじゃあなかった。




 そんなこんなで調査隊の人員を確保をすることにしたわけだが、俺の全国の配下に力のボーナスを出して動いて貰うのは前提としているので、幽世の調査に関しては人手が足りている。ついでに有力な眷属の皆には、戦国大名のように幽世各地に配置して、その統治を手伝ってもらうことにしたのだった。


 問題は現世側の方だった。お知り合いの国津神の皆様に統括地域の調査をしてもらうなどして手伝ってもらおうとしたのだが、訪ねてビックリ、彼らは揃いも揃って依代の中に引きこもって冬眠状態に入ってしまっていたのである。


 暫くして活動を再開した彼らにどうしたのだと聞いて回れば、どうやらこの現象は、今まで蓄えてあった人々の祈りの霊力とのセッションが切れてリセットされたことで、存在の維持を含めてピンチになったところ、神器側に自動的に引き込まれて緊急退避が行われていたらしいのだった。なかなかヤバイことになっていたようである。


 で、だ。そんな目覚めたてホヤホヤで、地元の管理に手一杯の彼らに、さらに周辺調査まで頼むのはちょっと俺の肝の太さが足りなかった。

 霊力の補給が出来次第、近況や状況についてインタビューするのは天上からの任務だからと言って協力してもらったが、待っていたのは、結局その情報を集める役が俺しかいなかったという結末である。


 いや、ムリだから! 全国調査ボッチでやるとか絶対ムリだから! 生憎、俺は分身の術なんて便利な技は使えないんだ。寝ずに二十四時間機動隊やればイケるかもしれないけど、そんな仕事漬けの神生送る気はさらさらねぇ!


 などと早速発狂した勢いで現世でもお仕事をしていたイヅモの大王様に相談して(泣きついて)みれば、目の下に闇夜のように深い隈を作って輝かんばかりの笑みを貼り付けた彼から、出来上がった弓矢と小刀の神器を受け取ると共に、強力な神使の皆様数名を貸してもらえることになったのだった。ついでに読み書きの出来る彼らには、レポートの手動コピーも手伝ってもらえて万々歳である。うはは。

 月一でいろんな情報を提供しているので許してほしい。




 こうして現世側の調査事情をどうにかこうにか軌道に乗せることが出来た時には、元から人員に余裕のあった幽世の方では、かなり状況が進展していたのだった。


 まず、幽世を治めるのに、有力な眷属の皆を少しずつ全国に配置していこうと考えたわけだが、災禍よりも前の時代と比べて、おおよそ幽世の土地の様相は変わっていないことが判明した。これにより、結局のところ今までの彼らのナワバリと地図上でリンクする区画を、新領土と称して引き続き守ってもらうこととなったのである。


 俺の眷属ではない全国の大妖怪の皆様も、引き続き前にナワバリとしていたところと同じような場所を己のテリトリーに定めたようだった。

 そこで、穏便にお互い気持ちよく生活していけるようにと、お土産を持って挨拶がてら「天上から命を賜ったイヅモの大王様に仰せつかって幽世の管理をまかされたヤトノカミですぅ~」などと幽世全国に立場を表明して回りつつ、ここぞとばかりにテリトリーを広げようとキナ臭い動きをする奴等にはあまり大事にしないよう「お話合い」にいったり、実際に戦を始めようとうちの眷属達のテリトリー内で紛争を起こした連中の元には、大蛇姿で「仲裁」に入れば実に聞き分け良く引いて貰えるので、なんとか平和的にやって来れている現状である。


 小競り合い程度であれば勝手にやってろという気持ちではあるが、それで妖怪大大戦にでも発展して、幽世をめちゃくちゃにしてもらっては困るのだ。俺が大王様に何言われるか知らねぇからな。




 そうやって妖怪の皆にいろいろと手伝ってもらいながら幽世を調べ回る内に、こちら側の世に不思議な特性があることも分かった。というのも、この現世と幽世は鏡の表と裏のようにリンクしているポイントがいくつもあるのだが、現世側で作られた信仰施設……例えば、神社だの祠だのといった、人間が念を捧げる会場があるような座標の裏側の、幽世側の同じ座標付近に、謎に霊力の湧くパワースポットがいつの間にか現れていたのである。

 この謎スポットは、現世側で冬眠状態であった神々が復活してきた頃と、報告に上がる時期が大体重なっていたので、そこら辺のことが関係しているのだろう。


 それで、現世の俺の村の社と対称になっている幽世側の地点にも、何か出来たかもしれないと行ってみれば、予想通り見つかったその謎パワースポットエリア内部での感覚は、天上界の神域の概念的社の境内と感覚的にそっくりであることが分かったのである。

 このあったかくてほっこほこの、俺だけに向けられている圧倒的心地よさを見間違えるわけがない。


 そこで試しにと、最近神域に再建したばかりのマイ社を頭に思い浮かべながら、ありのままに氷の城を建造する雪の女王を参考に舞い踊ってみたところ、案の定霊力で出来た”社(概念)”が虚空から生えてきたのである。これは革命だと秒で調査メモに書き殴ったよね。


 この「社3分メイキング in 幽世」が妖力を持っている俺だからできたのか、現世側に社を持つ国津神ならば全員出来ることなのかといったことを調べるために、うちの守り神様を夜に幽世側に招待してありのままに自分の社を念じてもらったところ、彼女の社も見事幽世側に召喚出来て、さらに現世と幽世の間で社間テレポートが使えるようになったことで、俺の巻物レポートは一巻まるまるこのテーマでファイアすることとなる。


 この報告にはイヅモの大王様も大変ニッコリで、爽やかテンションのままに新居を幽世に建設し、妻と共に幽霊モードで派手に幽世観光し始めたのを、彼の神使の皆様が大捜索する騒ぎとなったのは記憶に新しい。リフレッシュは大切だよね。




 さて、こうして幽世側に神々が来ること自体は、思ったよりも容易であったことが判明したわけだが、何故か俺が幽世統治の実権を握らされている現状は変わらなかった。


 あれれ~? おかしいぞ~? 生活こそし辛いとは思うけど、拠点があるならば、我こそはと名乗り出て来る神々が絶対に出てくると思ったのに、何故かそんな噂を全く聞かない。やってもいいよという声が一つでも上がれば速やかに譲る所存だったというのに、これは一体どうしたことなんだろうか。

 皆、まだ新生活に慣れていないから動き出さないのかな。神々に限らず、大妖怪の皆様の方からの声も待ってるんだけどな。あれれ~??




 現実を見つめていると何故か湧き上がって来る不思議な心労を癒すため、ジャジャマルのところに遊びに行けば、いつでも群れの子蛇たちはわやわやと出迎えてくれる。ちなみに彼の領地たる薄暗いこの山は、現世と幽世の境界が曖昧で、昼夜問わず二世界を行き来できる珍しいスポットである。


 群れの中でもまだ幼い子たちは妖怪としての格が低いため、サイズは小さく普通の蛇程の大きさしかない上に、知能も低くどこかふわふわとしており、なんというか……アホかわいいのだ。頭空っぽにして愛でるのが癒しなのである。この爬虫類の見た目に反して、彼らは犬のようになつっこいのだ。主に似たんだろうな。


 ――なんてつかの間の安らぎを、その主のクソデカボイスにぶち壊されたわけだけどもな。

 何て爆弾を落としやがるこのジャジャマル。俺に忠誠を誓ってくれているのは嬉しいけど、なんというかその……ちょっと重い……かな。




 何があったかと言えば、まだ下界が一つだったころに起きた、ジャジャマルの群れと人間との間にあった土地争いの件の、その後の話なのである。


 あの時、争いの後の折衷案として、人間側に角蛇を奉る神社を立ててもらって霊力を供給してもらう代わりに、群れの元のテリトリーであった広い葦原を譲渡して、山に住む妖怪と葦原に住む人間とでいい感じに棲み分けをきっちりするって結論で終結したはずだった。俺の神力記憶フォルダが言ってるんだから間違いねぇ。


 あれから数年が経ったのだから、そろそろ約束の神社も建っている頃合いだった。

 幽世にも社を生やせるとわかった今、角蛇のリーダーたるジャジャマルのその社が、彼の領域に聳え立つ様を見て見たいと思うのは上司として自然なことだろう。この幽世には霊力を主力とする人間はいない。今この時、彼の昔の領地たる葦原が、再びジャジャマルの元に戻ってきている状態なのだから。


 そんなわけで子蛇達を愛でつつ、件の社の状況を聞いたってわけだ。




 『はい! 立派な社を建てさせるよう念を押しましたとも。 我が主にも気に入ってもらえると良いのですが……』


 『へぇ、まぁ、せっかくなら慰謝料代わりに豪華なの建ててもらうってのも悪くは無いと思うけど、やりすぎるのはよくないぞ。またそれが火種になって争うのはお前も嫌だろ?』


 『それはもちろん承知しておりますとも。けれど、やはり然るべき社を建てさせたかったのです。我が主(・・・)に相応しいものでなければ!』


 『……んー? まてまて、何かおかしいぞ。ジャジャマル、お前(・・)の社だろう? 俺のウケなんて狙わなくたっていいんだぞ』


 『何をおっしゃいますか我が主! もちろんあなた様のための社ですぞ!』


 『何て??』




 あれれぇ~、おっかしいぞぉ~!?!? 会話の大ファウル大会かなこれは。

 俺はジャジャマル達を奉る社を作れと言ったはずだったのに、俺の支店の方を発注しちゃったってことでFA?? 俺、こんなトンチキ競技のレディゴーなんて許可してないんですけど。


 確認のために、ジャジャマルの案内で、葦原の霊力パワースポットに行って思わず頭を抱えた。


 この霊力、宛先俺になってるじゃないですかヤダー!

 泣きたい気持ちで社をその場の霊力を操作してみれば、それはそれは立派な神社が召喚されましたとも。この世の全てに裏切られた気持ちである。


 唯一の救いは、葦原の人間たちはどうも「角蛇の群れ」に向けて念を飛ばしてくれていたらしい。ちゃんと群れにも霊力が還元されてはいたのだった。

 まぁ、何故だかそのリーダー認定されているらしい俺の取り分がそこそこ多くなってしまっている事実は変わらないんだけども。いや、ある意味群れの頭領(リーダー)であることは間違いないんだけどさぁ……さぁ……。重いな。




 もうアレだ。ジャジャマルならばそんなこともあるだろう。ここは諦めるべき境地である。

 それにしてもあいつ、貢ぐの大好きすぎだろう。カノジョとか出来たら財布にされること間違いなしのタイプだな。

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[一言] 蛇に対して財布にされるは切れ味良すぎるw
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