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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・後
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レジェンズ黄泉の国

『だーっはっはっはっはっは!! 貴様! 今回という今回は面白過ぎるぞ! わはははははは!!』


『笑わないでくださいよ! 私は真剣なんです!!』


 腹を押さえて後ろにひっくり返った、活力百倍”漢ッッ!!”姿のスサノオの傍ら、しなっしなに触手の萎れてしまったこちらは、頭を抱えて前に倒れていた。

 黄泉の国では、従来通りの神力の消費量にとどまっているらしいスサノオは、いつも通りのオッサン姿で今日もとっても元気だったが、つい先日もらった身に余り過ぎる光栄に、グロッキー渦中のゲローリーである俺は蛇の丸干し状態である。テンションの落差は天と地だった。


『なんでこんなことに……第一、私なんてスサノオ様よりもずっとずっと弱いじゃないですか! 色々の報酬で官位がもらえるにしろ、明らかに見合ってないですよ……うぐ、色々と多すぎる……』


 小さく丸まって絶望に嘆けば、にやにやしながら起き上がって来たスサノオが言う。


『むろん、殿上の位と本来の力の位は異なる。まあ尋常、高い位階の者ほど、大きなる神威をもつものだが……貴様程度の力があれば見劣りすることもあるまい。……くく、しかし……従二位に据えるとは姉上も思いきったことをする……』


『私には! 荷が! 重すぎます!!』


『わはは、名誉の肩書とでも思え。貴様もいろいろと良い働きをしてきたようであるし、気兼ねせず、心湧かせて受け取るのだな。……それに、これよりは天上の(まつりごと)にも口出し出来るのだぞ、カガチの大臣(おとど)殿?』


『バァヮーッ!!! そんな恐れ多いこと、出来るわけないじゃないですか!!』


 何やら仰々しい名前で呼ばれては、全身の鱗が逆立って、転げ回りたい気分になる。

 なんだって、こんな「原作」にミリも無い事態になっちゃったんだ! 筋書きに無いことされちゃ、そりゃテンパりもするに決まってる。


 それにそのカガチのナンチャラってやつ! 神域にカガチノクニなんて名前をつけられたことが発覚してからちょいちょい耳にするようになったけど、なんかもうひとつの名前呼ばれてるみたいで妙な気分になるんですけど!


 「カガチノミコト」の名前は、今や一部の親しい人間時代に一緒にいたヒトしか知らない激レアなやつなんだ。SNSの鍵アカウントみたいなやつなんだ。これまで対人外サイドや神様営業してる時には「ヤトノカミ」を名乗って芸名みたいな感じで通ってきたってんのに、いきなり大衆に裏垢バレしたみたいですっごい嫌なんですけれども!


『しかし、姉上もようやく動かれたか。長らく申し立ちていたが、ようやく……』


『はい?』


『否、こちらの話である。貴様は素直に喜んでおけばいいのだ。嬉しかろう』


 にっこりと笑うスサノオの姿になんだか不穏な気配を感じるが、これくらいの違和はこのヒトと話していればしょっちゅう発生するものである。知らん知らん、こういうのは無視するのに限るんだ。


『嬉しいだなんて……あわわ……俺なんて、俺なんて一般小市民にはやっぱり肩書がデカすぎる……む、無理だ! 無理過ぎる……!』


『はぁ、いいかげん貴様のその卑賎な意識は如何様にかならんのか。元は下界の一王族であったのだろう? 不思議な奴め』


『私の心は一般人の小市井なんです!』


『"逸般神の笑止忌"の間違いであろう。自らが力とその在り方を、今一度鑑みよこの異質の祟り神が』


『か、(からだ)はそうでも(こころ)は違うんです!』


 「ハイスペックラスボスぼでぇ~転生特典を添えて~」のことを持ち出されちゃ、反論なんて出来ねぇ。顔を覆って沈没すれば、背中の後ろに隠れていたアニウエが腰の辺りを遠慮がちに擦って来る。くそぉ、そんなことされてもなんも嬉しくねぇんだからな。


 このアニウエは一番の神使ということで、この間の俺の叙位の儀にも立ち会っていたのだった。昔以上に、一切の生気を失って気配を消していたコイツだったが、共に最高神様の元へ道連れにした(向かった)一件を経て、若干俺の中での好感度に変動が起きていないことも無い感じである。つり橋効果という奴だろうか。まあ、俺とこの饅頭妖怪の間にラブもくそもねぇんだが。




 そうやってぐだぐだとこの場所――スサノオの御殿で管を巻いているのは、本日この屋敷で何か高貴な方々と「お話合い」をすることになっているからだった。ショックのあまり、干からびながら神域内の社に引きこもっていた折、スサノオから術の伝令が飛んできたのである。


 ちなみにここにワープしてきた瞬間、何を報告するでもなくスサノオに(強制的に)外に連れ出されて(いきなり切りかかられるなどして)戦いを申し込まれたので、今は一戦交えた(ボコボコにされた)後にようやくここ最近のあれやこれやを報告できた次第である。


 この黄泉の国に俺自身の社は無いが、スサノオが俺に貸してくれている自宅の一室が、どうも簡易版”社”の役割を果たしているらしい。この一室のみに社間テレポートのパスが通せるようになっていた。


 とはいえ、許可をもらえど、高貴なるお方のお宅にアポ無しで不法侵入を繰り返すのは無理寄りの無理であった。それだから、普段黄泉に来るときは下界から正規ルートたる”道”を通ってやって来ていたのだが……その"道"の潰されてしまった今はもうどうしようもない。ここ一か月ほどはこのルートを使わさせていただいている次第である。


 そうなんだけど、だけど……ウン。ここを使う度に使用料として、ちょっとした小競り合い()が要求されるのは、やっぱりキツいものがあった。

 今日もヒトガタで剣を交える内に、いつの間にかビームの撃ち合いになったりもして色々あったなぁ……腹に風穴を開けられたりもしたし……うぅ、これ以上思い出すのはやめよう。




 スサノオの話を聞くに、ここ黄泉の国も災禍に巻き込まれて、天上界と同程度のぐっちゃぐっちゃのとんでもねぇ事態になってしまったらしいが、そんな中でもこの御殿が無事なのは、流石はこの神というかなんというか、気合でネノクニ全域を守り通したのらしい。


 最高神のお姉様の方でも守備範囲が御殿の敷地だけだったのに、こちらは国ごと守り通していたのかと驚いていれば、『あちらは太陽の力を維持しなければならなかったがために、余力を残しておいでだったのだろう』と、聞いてもいないのに解説をしてくれた。

 それで聞いてみればこのオッサン、昔は海の管理という仕事を任せられていたらしいが、現在進行形で放棄して脱走している状態にあって、今はネノクニの長(概念)をやる以外にやることも無いから割と力を持て余している状態なんだとか。

 ……それってつまり、ほとんど無しょk……ゲフンゲフン、何でもないです。


 そして、そんなつよつよ神たるスサノオのお宅にやって来られる方々などは、当然ビッグネームであそばされるわけで……。




 半刻も経ったころ、俺は正座で小さく小さく縮こまっていた。


 室内は超高密度の神気で溢れ返り、何やらキラキラ輝くエフェクトで埋め尽くされているような気もする。一方の俺の触手は、ぼかしフィルターにかけられたがごとく光を霞ませて、へなへなと萎え渡っていた。

 並の祟り神だったら、この空間に放りこむだけで蒸発してしまうんじゃないかなって俺思う。


 しょぼしょぼ目を瞬かせる前では、スサノオとドイケメンと美女と美マダムの神々が、気心の知れたように談笑していた。

 (ヤトノカミ)も含めて、この場の全員が絶世の美男美女であるが、特にイケメン神の顔面偏差値がえげつない。すさまじ過ぎて反射的に目が細まり、直視できないレベルである。美形だらけの天上界で、百年も目を肥やしてきたこの俺が、である。うぐぅっ、かおが、いい……!


 そしてこの場のメンバーの自己紹介を受けて、内心安らかに死したのが俺である。そうさ、ここが死後の世界(ヨミノクニ)だとも。頬肉を噛み千切る勢いで歯を立てて、なんとか意識飛ばすのをこらえた俺を誰か褒めて欲しい。ちゃんと自分の紹介の番が待ってきた時にも立派に名乗れたもん。おれすごい。


 こんなにも心死ぬる状況になったのは一体どうしてなのだろうか。そうだ、こんな時には自称神の野郎でも呪っておこうそうしよう。呪呪呪。

 さて、呪詛を編み込みながらこの会議に集ったイカれたメンバーを紹介するぜ!


 右隣、そのクレイジーな所業は語るに尽きない、古事記トリックスター・スサノオ!

 その正面、地上に住まう国津神主宰神にして、黄泉の国の総括王たるオオクニヌシ!

 その隣、オオクニヌシの正妻にして亭主を尻に敷くスサノオの娘、スセリビメ!

 左隣、日本列島メイキングをはじめとして、数多の実績を成し遂げた現冥界の名誉女王、イザナミ!

 そして、この古事記の欲張りセット、錚々たるレジェンドの集う場に何故かいる俺!




 待って♡

 やっぱり俺がこんなところにいるの、なぁぜなぁぜ?

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