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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・後
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何もないから何もない

おまたせ……致しました……(瀕死)

 それは倒れ伏す白兎を前にして、あわてふためきながらも、縁探知で付近のギャラリーのなかからウェイの兄様のイツメンさん達を探し出し、彼を手渡した後のこと。


 俺の背後を指して、恐怖のマナーモード石化現象を起こしたイツメンさんたちの指の先を追えば、ストーカーよろしく着いてきていたスサノオの猛々しい眼光とびったり視線があって震え上がったり、近くでどういうわけかアニウエを抱いていたホタチさんが歓喜のマナーモード石化現象を起こしたり、俺の紹介から推し(スサノオ)に認知されたオタク(ホタチさん)は、既に物理的に昇天していたため死から免れたことを経て、現在俺とスサノオはふたりきりで、荒野となってしまった天上界の雲の地を歩いていた。


 このスサノオは、最高神様とツクヨミプレゼンツ、「ギスギス☆地獄の会話の砲丸投げ大会」のただなかに、突如として御殿前の雲の地を突き破って華麗に参上してくださったKY……ゲフンゲフン、(KYU)世主様であった。そのパーフェクト空気デストロイヤーたる様には、思わず五体投地して拝み倒したくなってしまったほどである。


 そのスサノオは、場のゴチゴチの空気を丸無視(ぶっとば)して、「己の司る黄泉の国が、如何にとんでもない破壊に巻き込まれたか」、しかれども「如何に自らの直領たるネノクニの守護は完璧にやって見せたか」という自賛燦々たる報告をつべつべとやってのけて、初めて場の惨状に気がついたようだった。周りの極楽あるまじき惨状を上のふたりに問えば、月の兄の方が眉間を揉みしだきながら、天上を襲った災禍の様を言って聞かせたのである。

 三貴子とかいう、天上界激ヤバ強強三姉弟(さんきょうだい)が揃っておきながら、この何とも締まりのない空気感よ。さすがスサノオ。伝説通りにすっごいのだ、このヒトは。




 そうしてその後、月と嵐によって、天上界と黄泉の国の有り様に関する情報共有が行われたのだった。

 その渦中、この「三貴子会議」とも言えよう、とんでもないイベントに場違いにも居合わせていた俺が、空気に存在を溶け込ませるに徹していたことは言うまでもない。


 こうして、存在しないものと化しながらどうにか耳にいれた話によると、どうも突然大量の祟り神が、三界で暴れ狂い始めたのらしい。三界、といっても下界に関しては、スサノオが天上に昇る時に道中チラ見した程度らしいので、まだ予想の段階でしかないのだが。


 で、その天上天下にブイブイ言わせている連中が、瘴気という名の毒素をまき散らして、天上界の一部と黄泉の国の大半を、公害もかくやという状況に汚染してしまっていたようだ。

 黄泉には元々多くの祟り神が住んでいたから、それが見境なく暴れまわれば、そりゃあとんでもないことになっているのだろう。無法地帯も、多少の秩序(ローカルルール)があるもの。それを破壊すれば当然均衡は崩れ、その結果がこのスサノオの出勤という異常事態を招いたのだ。


 まぁ、本地祟り神であったモノさえ、正気を失ってしまっているらしいというこの状況こそが、一番の異常事態なのだが。

 この災禍のせいで、どうも彼らの和魂ぱうぁが消滅して、荒魂だけの不安定な状態になってしまったらしい。気の毒なことである。


 ま、俺は何ともないんだけど。

 などと部外者の気持ちでいれば、ふと隣を歩くスサノオにガン見されていたのに気がついた。その実に恐ろしい眼力を見ては、思わずひゅっと息を飲み込んでしまう。


『な、なんです……!? 何か御用があるなら言ってくださいよ! あ、手合わせは勘弁ですけれどね!』


『……貴様は本当に何も無いのだな』


 スサノオは、感心したような声色で呟いた。そうも勝手にしみじみと頷かれては、こちらも怪訝に思わざるをえない。


『何もって……本当になんなんです? 急に』


『いやな。そういえば貴様は、初めて会い見えた時にも、かくのごとき様であったと思い出したのだ』


『初めて会ったとき……ってことは、俺がこの姿に成りたての時ってことですか?』


『いかにも。――貴様が祟り神となって数刻という折に、今と変わらず、すでに”こう”あったことだ』


 いつの間にか、歩みを止めていた互いの足。

 こちらに向き合ったスサノオは、”こう”と言うのと同時に、俺の胸に拳を当てた。




 スサノオが言いたいのは、俺が和魂ぱうぁが欠けた状態であっても、何で瘴気を保っていられたのかってことだろう。


 この災禍を越えた後の今でも、ちょっと調子のおかしい部分はあるものの、現在の俺の精神はいつもどおり健やかなものである。おそらくは自称神のアンチキショーの転生特典のお陰で、精神健康が保たれているのだろう。アイツ自身はクソだが、生み出された術はとんでもなく有能なのだった。

 こうして百五十年も人外道を突き進んでいれば、こうして野郎の力の格がすさまじいものであったことを、嫌でも分からされる瞬間がある。あー、やってらんないね!


『……俺は、大丈夫ですよ』


 当てられた拳をどけて言えば、うつむいた視界に、彼の黄金の雲を踏みしめる大きな足が目に映った。


『……ふん、大丈夫でなければ、今頃本気の貴様と戦えたのだがな』


『ちょ、怖いこと言わないでくださいよ! それ、百パーセント俺が消滅するやつじゃないですか! ほら見てください。俺はこの通り! 超絶健康的ですので!!』


『ふむ、そんなに元気があるのならば、どれ、一度剣を……』


『交えません!!』


 何を言ってもすぐに隙を狙ってくる戦闘狂様のお誘いを断固固辞して、鼻息も荒く目的地めがけ、雲の地をズムズム踏みしめながら歩き出す。すると、不服そうな空気を隠しもせず垂れ流しにしながら、このスサノオ様は俺の後ろについてくる。


 なんでこのヒトが俺なんぞの後を延々と追いかけて来るのかと言えば、今向かっている場所が同じだからである。俺たちは、俺の神域があった所を目指して歩いていた。




 それは、三貴子会議の直中のことである。

 情報共有を終えた後のことだ。突然のスサノオの登場を丁度良いと思ったのかどうなのか、最高神様は、弟ふたりに祟り神討伐の命を下した。

 それでようやく、この場違いすぎる空気感から解放されるとほっとしたのもつかの間のこと。なんと、かの最高神様は何を想ったのか、俺にもその命を実行するようにと令じたのである。


 何の罰ゲームだコレは。

 いや、俺も対祟り神相手の戦闘としては、奴らのまき散らす瘴気の影響も受けないしで、意外と適任ではあるんだろうけれども。祟り神を祓う決定打たる攻撃手段が今現在使えない状況なんだけどな!


 こうして俺に与えられた任務は、月や嵐と共に、各地で暴れまわる祟り神を成敗すること。

 ……だけれど、それは実はついでで、本当のメイン任務は、三世界の災禍の影響諸々を調べてくることなのだ。だからこうして、スサノオの補助として、一緒に行動することになってしまったのである。




 あーあ、全く。こんなキッツイ任務任されるだなんて、罰ゲームとしか考えられないよ。

 ……なんて、建前として考えてはみても、本当はその理由を分かってしまったかもしれないのだ。だって、角がさっきから嫌な予感感知して震えてるんだもの。こんな風に角にビビっと来るような予感がした場合、大抵何かあることは間違いない。


 その沸き上がる勘の言うことには、もしかして、最高神様は本当に俺に罰的な意味でこの命令を俺にも下したんじゃなかろうか……ってことだ。


 だってよく考えて見れば、不可抗力とはいえ、俺は八百万の神々が見ている前で一瞬自我を飛ばしかけたわけだし、正当防衛とは言え天上界で暴れまわったのも残念ながら事実だし、なんならさっき太陽の御殿の上に居座ってた=最高神様の上にマウントとってたわけだからな!


 おっと、よく考えてみなくても不敬オブ不敬。そりゃあツクヨミもブチギレ案件だろうが、そもそもあのひとが攻撃してこなかったら起きてない事実なんだなこれが。

 アッレ、なんだか討伐される側に認定されなかったことが奇跡に見えてきたぞ……? ウェッヘイ、喜んでこの任務拝命しなくっちゃ! 目指せ、120%の成果!!

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