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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・中
73/116

シナリオ修正は難しいから、シナリオ修正は難しい

 ははは、ここまで来れば認めざるを得ないではないか。

 あーあ、おもいだしちゃったよ。こんな大災禍(一大イベント)が、原作上で起きてないわけがなかったんだ。


 ――とうとう、現世(うつしよ)幽世(かくりよ)システムが、始まっちゃったんだろ。あくまでもこの世界は、シナリオ通りに進んでく、ってこった。


 なんだかおかしくなってきて、腹の底がびくびくと痙攣する。喉が引きつり、口角がひん曲がりそうにも。全身をガクガクと襲う震えを、外面の分厚い仮面の下へ、ぐいと押し込めた。




 いや、まあ運命(シナリオ)が存在することは、あたりまえっちゃ当たり前のことなんだけれども。だって”ここ”は、漫画、"『妖怪現世宵宴ようかいうつしよよいうたげ』の世界"なんだから。プロット通りに進まなくては、それは最早、"物語"とは呼べなくなってしまう。


 それで、その"原作"での、この厄災(イベント)の起こった、現時点の時系列はどこなのかって話だ。

 彼の物語を辿れば、この世に爆誕したばっかりのレベル1のラスボス君が、しょっぱなから公式チート(スサノオ)にぶち当たるだなんて、初見殺しのクソゲーから命からがら逃走に成功した後。弱い呪詛を飛ばしながら、彼が100年ほど穏やか()に隠居してたところを、難癖つける人間共の仕業でお山に封印されて、それが破られるまでの間の期間。それこそが、イマココにあたるわけだ。


 つまり、”俺の過ごしたこの世界”において、この間のジャジャマル達の領土争いの事件から、次におこるであろう、「ラスボス君ムカ着火ファイヤー都襲撃事件」に至るまでの期間が各当する。




 で、何が問題かっていえば、原作において、この期間に発生したイベントが、特に1つのストーリーとして描かれたことはない、ってことだ。


 現在進行形で俺が体験しているこの災禍(イベント)の扱い。思い出せる限りでは、特に掘り下げられることも無く、作中のキャラ達のセリフの所々にちりばめられているというくらいの、ごく軽いものであったのだ。

 判明していた情報といえば、ある日突然三つの世界が分離して、下界ではそこからさらに二つに裂けたという結果のみ。しかも、ギャグシーンでさらっと流されるような、そんな軽ーい展開で。


 前の世界で、一読者として物語を楽しんでいる時は、そういうものかと何も考えずに読み飛ばしていた。主要キャラクターが登場しない時代である分、そこまで突っ込んで描かれることもなかったのだろうと。そういう”設定”なのだろうと。――ああ、けれど。




 確かに、この災禍(イベント)の、物語上での役割はきちんとあるのだ。


 災禍によってもたらされた、「物理的に世界間が断絶している」という前提があるから、ムカ着火ファイヤー状態で結界をぶち壊して下界で暴れまわるラスボスを、神々が止めることが出来なくなったのだ。

 つまり、爆誕最初期にサクっと弱体化させた時のように、スサノオがラスボス君の元へとすっ飛んでこれなくなった、ということの理由付けだ。




 物語上において、きちんと役割のあるイベント。しかし、それはただ設定として存在するだけのものでもある。

 そんな、あんまし原作者(創造神)の構想の入っていないような部分は、こんなにもテキトーに進んでしまうのだろうか。


 ある日突然、バリッと分離したのだ。何の脈絡も無く、いきなりに。

 そんな、マジックテープでもあるまいし。分断されたのは世界だぞ。安っぽ過ぎて草も生えない。肥沃度がたりないんだ、出直して来な。


 だってこの現実は、俺が遭遇した、実際に起こった出来事なんだ。俺にとっては、本当に起きた出来事なんだぞ。

 それが、こんなにも取ってつけたような低品質なハリボテ的展開で、原作イベントとして昇華されてしまったなんて、そんな。――ああ、




 なんかこういう感じ、気味が悪い。






 前々から思っていたことではあるけれど、とうとう放ってはおけないところまでやってきたってことか。

 つまりは、”この世界”は、一体”何”なんだってことだ。


 俺は確かに"ここ"に存在してるんだし、そのことに対する自覚もある。

 だけれど、俺は"この世界"が漫画の世界観(作り物)であることも、確かに知っているんだ。




 こっちに爆誕して最初の十七年間は、俺自身が"『妖怪現世宵宴ようかいうつしよよいうたげ』という作品(・・)の世界"に飛び込んでしまったって事実に、気づいてすらいなかった。だから、俺がこの”世界"に「生きていた」という「あたりまえ」に対して疑問がわくはずもなく、ただ、この場所を、”自称神の野郎に雑に送り付けられた異世界”である、として認識していた。


 でも、今は違う。


 作り物(物語)として描かれた、数々の"イベント"に実際に遭遇した。用意され、取り決められた様々な出来事に、本当に出会った。

 カガチノミコトという人物がラスボスとして覚醒するシーンに遭い、姿を蛇に変えられて、俺は”この世界”が”、かつての世界で創られた物語の世界(作り物)”であることを確信したんだ。




 ――だけど、おかしいのだ。


 本来ならば、最初から"俺"という異分子が、ラスボスの進化前に成り代わってしまっている時点で、原作崩壊――つまり、”物語の破綻”が起きることは、必須のはずだった。


 だってそうだろう。物語において、最重要級のキャラクターである"カガチノミコト"の中身が、"俺"という別人にすり替わっちゃってるんだから。

 いくら原作通りのカガチノミコトとして振舞おうとしたって、それを完璧に踏襲する事は不可能だ。だって、"俺"は本物のカガチノミコトじゃない。


 俺は、"ホンモノ"にはどう頑張ったってなれない、"ニセモノ"なんだから。




 ――だってのに、この世界は時折妙な動きを見せる。


 俺が何にも考えていなくたって、好き勝手に振舞っていたって。この世界が"作り物の世界"だってことを裏付けるかのように、”歴史の修正力”とでもいうような謎の力が働いた。そして最後には、必ず”元の流れ”へと引き戻されるのだ。得体のしれない修正力。

 そのシナリオのいきつく先は、物語の終幕――”ヤトノカミ(ラスボス)”へのバッドエンド。




 結局、この世界は”何"なんだ。


 いくら修正力が働いたからって、すでに(ラスボス)がこうして野放しになってる時点で、”原作”と”この世界”には、どうしようもない齟齬が発生しているのだ。

 既に、どうあがいたって”この世界”は、”原作”とは違うものになっているのに。この世界は、”虚構(物語)”なんかじゃなくって、”本物の世界”なのに。”修正力”なんて、そんなものは存在しないはず――なのに、一体、何故。


 これじゃまるで、得体の知れない誰かの意思が、”俺”を殺そうとしてるみたいじゃないか。




 妙なことを考え出したときには、思考の渦も妙な方向へと捻じれて行くものだ。

 うだうだと考え続けて導き出される妄想に、何の意味もないというのに、お粗末な脳みそはその全機能を持って思考を回転させる。


 「気づいていなかっただけで、元の世界でも知らず知らずの内に、誰かの思惑の元に世界が動かされていたのだとしたら」


 そんな妄想に憑りつかれはじめる。


 「自分の意思決定だと思っていたものも、誰かの意思であったなら」


 そんなこともあったのかもしれない。

 否定なんて、今となっては出来ない。”原作”どおりの言動振る舞いをする、”キャラクター”たちを見てきた。


 ”違和感”というものは、本物の第三者でなくては気づけないのだ。その世界に生きる人物、つまり当事者である限り、違和感は違和感として捉えることはできない。あったとしても、日常の一かけらとして、道端の石っころのように誰も気に留めることはない存在。気づくことの出来ぬ存在。


 あったとして、知覚なんてできないのだ。

 ”原作”が存在することを知らない、この世界の人々のように。


 例えばこの世界を動かしている者があの自称神だったとして、エラーである俺をやっぱり始末しようとして、”この世界”でのシナリオを作っていたとして。

 その自称神を動かしているものが、また他にいたとしたら?

 俺が今自分の思考だと思っていることも、実は俺の考えですらなくて、誰かがコンピューターのプログラミングをするみたく、打ち込んでいるんだとしたら?

 でも、その人物がさらに別の人物によって動かされたものだってんなら……?


 ひねってひねって、考えて。いつの間にか気づきたくはない深淵のがけっぷちの中に落ちていて。目の前には果てしない暗闇しかなくて、でもどうにももう引き返せなくって。

 元から小さな器はもういっぱいいっぱいで、ティーカップよりちちゃなコップの縁からも、溢れそうで。


 吐き気がして、目の前がぐらついて、もう少しで、もう少しで――






 くちゅりと、思考が止まった。


 自業自得の知恵熱に、ショートして弾けそうになっていた脳髄を、ナニカが優しくぬるりと覆ってゆく。柔らかに、生ぬるく。うねうねと絡みついては、思考を包み込んでゆく。ぼんやり、ぼんやりと、ふわふわ、霧がかって――


 急速に、今まで考えていたことの全部が、どうでもいいことのように思えた。






 ああ、そうじゃん。そういえば、”歴史の修正力”は、がんばれば覆せるんだったな。

 そうさ、ポジティブシンキング。悩んでたっていいことなんてないさ。努力さえあれな、なんだって解決できるんダー!




 、あれ。おれは、さっきまで、何を考えていたんだっけ。

 なんか溢れそうになって――あふれ……?




 ……いや、まあいいや。どうせそんなに重要なことでもないだろう。


 ともかく、小憎たらしい歴史の修正力は、どうやら”この世界”にもあるようで。だけれど、それは覆せるんだ。今。俺がこうして外を出歩けているのがその証拠。なんだ、前にも結論付けた結果じゃないか。


 いやぁ、なんだか気分が晴れやかだな。心配ないさ、ハク○マタタ! ってね。崖の上から雄たけびを上げる百獣の王になったかのようだ。俺、蛇だけれども。




 心配ない心配ない。気になる最期だって、きっと覆えせるさ。SO、全てはやる気! ファイト、いっぱーつ!! なーんてね。

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