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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・中
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切り替わるもの

 ぎぎぎ、と音を立て、重厚な門がゆっくりと開かれゆく。その中央に描かれた太陽の紋章に縦一閃、金光の筋が走った。

 紋章の日足をなぞらえるように、幾つものまばゆい光芒が門の内より出でる。目もくらむばかりの閃光が迸り、柔く暖かな光の風が轟と力強く駆け抜けた。


 夜明け。旭光。あけぼの。

 金色の光をたたえた、朝日の化身がそこには御座す。


 一帯を満ち満ちる神気は、全て目の前のそのヒトから発せられたもの。一瞬にして混沌たる世界を調じた、秩序の起源。




 ――     ――


 凛とした”声”が発せられ、はし、と空気が張りつめる。しかし、その緊張感は決して嫌なものなどではなかった。千年の大樹を思わせるがごとく、しかしそれすらも比べ物にならないほどの圧倒的な安定感。万物の拠り所たる威厳。覚束なかった足元が、しっかりと地につけられたような、世に繋ぎ止められたかのような心地がする。


 この場に介するもの皆一同、呆けていた顔を引き締め、しずしずと居ずまいを正した。

 太古の昔よりあらせられる昔神、天津神のその眷属たる神々一族。また末端の神使、果ては鳥蟲獣に至るまで。


 この陽の元(ひのもと)へ、日ノ本の天上世界は、再び一つに集ったのである。






 ひぇぇ、やっぱりパネェな。ケタがちがうよ。


 腕をさすりながらほっと息をつく。太陽の化身が御殿の中へ戻ってしばらく、ぴしっと引き締まっていた空気が緩和して、一気に力が抜けた。


 語られた言葉はほんの僅かであったけれども、一言に込められたパワーが違うというかなんというか……圧倒的安心感があった。


 太陽と入れ違いに、御殿の中からそよそよと出てきた、御殿勤めの高位神の方々を眺めながら、逆立っていた腕の鱗を撫でつけ整える。少ない言葉で多くをねぎらった()(ひと)は、後をこの殿上の神々に任せ、再び自身の力の管轄たる光球の維持へ向かったのだろう。


 マッジでやべぇよ、ハンパねぇ。

 そもそもが太陽の御殿(これだけ)の敷地をあの災禍の中、結界で守り通した上に、とんでもねぇ神気の衝撃波をぶっ放して世界に秩序を取り戻させたばかりか、まだあんなお天道様なんて超エネルギーの塊を維持する力残ってるとか、どんなMP量してんだ。


 俺なんて、結界をとりあえず広げるだけの対応で精一杯で、それもあの機織りクラブの小屋全域まで覆う暇なんてなかったぞ。しかも、どうやら不発だったみたいだし。変な化学反応が起こって、結果的に皆無事だったのは良かったことだけども。そもそも、咄嗟に結界術を展開できた(できてない)ことを褒めて欲しいよね。

 あーあ、こういうところに格の違いってもんを感じさせられるんだよなぁ……。まあ、そもそもがレベルが違い(レベチ)過ぎて、比べるなんて表現すらおこがましすぎる話なのだが。


 


 天地が逆転した折に、うまいこと御殿の門の正面近くに降り立てたらしく、現在俺は殿上の高位の神々の姿も良く目でとらえることが出来ていた。御殿の廊下に並んだ神々は、古来も古来の天津伸で構成された、錚々たるメンツである。


 さて、御殿の外にはこれだけ多くの神々がいるのだ。ヒトだかりも大変分厚く、下手したらタカマガハラの敷地の外まで飛ばされてしまっていたかもしれないことを考えると、相当ラッキーなポジショニングである。この感じ、アレだ。ライブ席でベストポジションとっちゃった感じか。

 視覚と臨場感で言えば満点なのだが、濃ゆーい神気の波動をモロに受けるという点では、神経ゴリッゴリ削りの刑に処されてしまうことが難点だろうか。


 ともかく、そうして御殿勤めの神々のありがたーい話を間近で聞くに、何やら今回の騒動が相当な被害を生み出しまくっていたことを知った。どうやら、俺たちが崩れた天上界をさまよいまくっている間、この殿上の神々は、臨時で災害対策本部みたいなものを豪速で発足し、この変わってしまった世界にて、いろいろ情報を探ってくれていたらしい。有能過ぎか。


 それで得た情報によると、この原因不明の災禍の衝撃にて下界と黄泉の国との移動手段が途絶えてしまったらしい。さらには、災禍でまっさらになった際に、天上界にいた「魂」たちが、軒並みかき消されて、輪廻の輪に戻ってしまったという話なのだ。


 移動手段と言うのは、今までは、オリヒメさんの話に出てきた天の川ルートのように、割と天上界のどこにでもある”道”をつかって下界に降りることが出来ていたのだ。しかし、その”道”がすべて遮断……というか、ねじ切られてしまっているようで、双方から通行出来なくなってしまったらしい。

 天上界そのものがまっさらに消し飛ばされたような衝撃だったからなァ……それも納得のいく話である。


 なんでも、下界に社をこさえてある神々だけは、自分の神域からならば、パスを通じて何とか下界に介入することが出来たらしい。社間テレポートの術である。神域とは概念のようなものなので、出発地点の座標さえ合っていれば、そこにある社の存在がかき消されていたとしても、下界側にゴールたる実物の社があるのならば、テレポートは問題なく使えるんだとかなんだとか。


 しかし、飛んだ先が問題だった。今までとは比べ物にならないほど、下界で自身の存在を保つことが難しくなってしまっているらしいのだ。最早、神力純度100%系の神様たちでは、下界では幽霊モード以外に存在をとどめておける手段がないのだとか。

 御殿の中のとびきり高位の神々でさえそんな状況なのだ。社のある者も、不用意に下界へ出かけない様にとのお達しが出た。


 ――出たんだけれども、絶対に後で行ってやる。

 そう固く決意し、こぶしをギリと握り込んだ。


 だって、気になる。

 それに、俺は霊力持ちだから、神力100%系のヒトたちほど、下界にて影響を受けることも無いと思うし。俺も自分の神域を持ってるんだ。試さない手はない。




 なにも、「遊びに行ってやろー。ウェーイ」なんて、野次馬気分でいこうとしてるんじゃない。

 実は、殿上の神々の話を聞いてから、即座に眷属たちとの縁を辿って下界の様子を探ってみようとしたのだ。けれど、ある一定のところでぷっつりと気配が途絶えてしまって、その先の情報は拾えなくなってしまっていた。


 まさか、”道”が閉ざされたばかりか、縁までもが追えなくなってしまっているとは。


 縁の探知は、俺にとっては、この体に成ってからずっと備わってきた感覚の一部だ。例えるならば、ある日いきなり嗅覚が効かなくなるようなもの。視覚や聴覚には劣るものの、無くなればそこには違和感しかないし、何より困る。そんな大切な感覚なのである。

 それに、大事な人の安否が分からなくなったということが一番堪えるのだ。


 けど、縁は切れたわけじゃない。ある一定のところから先が分からなくなっているだけで、その先端はちゃんと俺に繋がっている。ちゃんと感じるのだ。

 大丈夫。鼻だって、詰まってもまた開通するんだから。


 ――ああ、この感覚、前世の母さんや自称神の野郎に繋がっている縁の状態と似ている。この、”次元的に分離してしまった”ような、どうしようもない絶対の壁に阻まれているかのような。


 ああ、もやもやする。

 下界の皆は無事だろうか。いや、下界だけじゃない。黄泉の国にも知り合いはたくさんいるんだ。それに天上界だ。知り合いの魂の皆様とかも結構いたってのに、あのヒトたちもみんないなくなってしまったってことなのか……? にわかに信じられないよ。この目で確かめるまで、信じられる気はしない。




 心配な点はたくさんあるが、御殿からの話はこれで終わってはいなかった。


 御殿の発表によると、先ほど、最高神と最高位の神々とで、でっかい術を発動して、とりあえず天上界に先ほど仮の秩序を当てはめたらしい。けれど、あくまでも突貫工事であるようなので、意訳すると「何か変なことをしてそのバランスを崩すな、大人しくしてろ」といったような注意をされた。どうやら、まだ完全に世界が修復されたわけではなかったらしい。


 ひっくり返しの天地逆転のエネルギー波は、流石に最高神一柱の力だけではなかったようである。もしかしたら一柱でもどうにかなったのかもしれないが、それで太陽に消えられても困ると踏んだのだろうか。




 と、こうして最高位の神々たちで、現在下界と黄泉の国の状況を探っている最中らしいのだが、こんな状態なので捜査も難航しているらしい。


 というか、御殿の神々、仕事が早すぎる。今のでもかなりの情報量だぞ、もうそんなところまで掴んでいるのか。あのまっさら状態でよくもまあこんなに動けたものである。

 まあ、タカマガハラ自体が高位の神様たちの共通の神域みたいなものらしいから、一般の神々よりはやりやすかったのかもしれないけども。力の格も全然違うし。

 そういえばタカマガハラにあった他のオウチって、大体高位の神様の社だったもんなぁ。




 情報が開示されるのはいい。安心する。――けれど、どうにももやもやする。


 そうだ。どうにも違和感がぬぐえない。もやもやする。

 何が。

 天上界の外の知り合いとの、確かな縁が確認できないこと。

 それもそうだ。

 一瞬にして、多くの魂の知り合いが消え失せたこと。

 そりゃあ、別れも告げられないまま消えてしまったってんなら、もやもやするだろう。

 本当に唐突に大災禍がおきてしまったこと。まっさらになってしまったこと。

 そう、理不尽だ。けれど、不条理はままあるもの。対処できないから理不尽なのだ――だから、これもちがう。


 もっと、もっと妙にしこりがかったものがあるのだ。ひとつ、どうしても耐えられない事実があった。脳裏にかかるは、ひどくやるせない思い付き。どうにも気味が悪くて、視界が歪んで行くようだ。




 ――これは、原作イベントだ。


 ここでも、運命(シナリオ)通りに、世界は動いてしまったのだ。

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