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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・中
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ウェイとの遭遇

大変長らくお待たせいたしました!! ようやく調子を取り戻してまいりましたので、ゆっくりと執筆を再開していきたいとおもいます。

 遠くの方から、段々と見知った神気が高速で近づいてくるのを感じ取る。まだまだ力の主の姿は見えないものの、蛇型と成って鋭くなった角レーダーは、しっかりとその気を受け取っていた。


 そのひとりが動き始めたのを皮切りとして、其方の方角にあった数多の神力の塊がこちらへ向かって来たようだ。

 俺の蛇型はでっかいからな。こんな真っ平なフィールドに突っ立ってるだけでも、結構遠くまでこの蛇姿は見えていることだろう。


 それならば俺は皆様の目印としての役割を果たしましょうか。やることと言っても、このままの姿でいればいいだけなんだし。ついでに触手サイリウムの照度(ルクス)を引き上げれば完璧だ。俺が灯台になるんだよぉ!!




 この大きさで進めば、自分では大して速度を出していないと思っていても、長距離を一瞬で詰められる。なんせ、こちとら巨大生物ですしおすし。尻尾のひとうねりで、ウン百メートル単位で稼げてしまうのだ。


 そうやってしばらく進んでいるうちに、遠くの方で白い米粒のようなものが空間を上下運動しているのが視界でも捉えられた。

 見知った神気を纏うその米粒は、地面を跳躍して、一歩ごとにかなり上空まで跳ね飛びながら進んでいるのだろう。一上下運動ごとに詰められる距離も半端ではない。正直ノミみたいに見えてぞわっとしたが、その正体が知り合いとわかっていれば、どこか心が安らぐような気がした。――見た目だけなら、相当に鱗が立ちまくりなシロモノなんだけどな!!


 その激しく上下に機動しながら跳ね飛ぶ米粒がこちらに近づくにつれ、段々と特徴的な”声”が聞こえ始めた。


『ェ――ィ』


 初め細かったそれはどんどんと大きくなり、最終的には大音量のやかまs……ゲフンゲフン、元気はつらつな”声”が辺りに響き渡った。




『ウェ―――イ!!!』


 特徴ある文言を放ちながら現れたのは、天界一の陽キャことウェイパイセンである。姿が見えずとも、その真夏のキョーレツサンシャインみてぇな気配を間違えることはまずない。

 近くまで爆速で跳ね跳んで来たのにそっと触手を差し出せば、パイセンはそれを足場に蹴り飛ばして、即座に俺の頭の二本の角の間にまで駆けあがって来た。


『久しいな、我が弟よ!』


 そんな風にダイレクトに頭の中に”声”が響いてきたものだから、一瞬にして脳内が渦を巻いた。


 ……弟? ん? 弟?? え? それ誰に向かって言ってんの?

 あーっと、ウェイパイセンってそういえばたくさん兄弟がいるって話だったよな。ってことは、俺の引き攣れてきた集団の中にいらっしゃるらしき弟さんに向けて言ってるんだろうか。……え?この流れで? 今明らかに俺に向かってきてたよね? 感動()の再会の流れだったよね??

 え、これ陽キャのノリで俺に向けて言ってる? 「ヘイ、ブラザー」的なニュアンスなのか? いやでも、リアルガチの弟へ向けてと言う路線もありうる……丁度背中のどこかに前に紹介してもらった弟さんの気配するし……。


 ウン。ちょっと一般市民には判別が難しぃですかな。

 困惑の渦の中に思考回路をぶん回していれば、どこか不満げなパイセンの”声”が降って来た。


『おい! ヤトよ! 無視とは酷いではあるまいか!!』


『あ、俺の方でしたか』


『そうに決まって居ろうが他に誰がいる! 其方は出会った時から我が弟なのであるぞ!』


『えっっっ??? 初耳……』


『む? 言っておらなんだか?

 ……ウェーイ!! ではそういうことで』




 いやどういうことだよ。


 いや、ホントに待って?? 今までそんなこと一ミリも言ってなかったじゃん? 何でそうなったんスカ唐突~~~! ボクちん、まだウェイの習得度低いんで、ちょっとわかんないです……。


 現在進行形で脳内ダイレクトに交わされるやり取りは、前に比べれば随分と砕けたものである。

 ここ100年で、ウェイパイセンに対する口調は、スサノオに(強いられて)していたものと変わりないものとなっていた。どうもマイペースな向こうの流れに引っ張られてボロを出しまくった結果、いつのまにかこのヒトの前で外面プリンスモードを搭載することはなくなっていたのだ。守り神様の時と同じパターンである。


 そう。いつの日もパイセンは自由なのであった。今も、生粋の陽キャの光に照らされて震える俺など歯牙にもかけずに追撃をかましてくる。


『其方も、私を兄と呼び慕ってもよいのだぞ?』


『えーっと、俺には既にアニウエがいますので……』


『ひとり増えても変わりあるまい!』


『えぇ……』


 いや、別に”究極魔法:ノリ”に従って「おにぃちゃん♡」と、上目遣いのオプション付きで呼んで差し上げることもやぶさかではないのだが、俺にはある重要な問題があったのだ。


 ――俺、まだアンタの名前、知らないのですが???


 出会ってから実に百年の年月が過ぎ去ったが、実は未だにパイセンの名前を知らなかったりするのである。聞くタイミングを逃し続けて早一世紀。さすがにヤバイとはと思ってはいるが、残念。コレが現実だ! 兄を名乗る前にまず名前を教えて欲しかったかな!!


 と、口ごもる俺の反応に進展はないとみたか、パイセンはアッサリと手を引いた。


『まあ良い! それにしても、其方が無事でよかった! 我は安心したぞ。まあ、其方が消え失せるところなど、みじんも想像がつかなかったのだがな!』


『お、俺も! あの、貴方が無事で良かったです……少し前から気配は感じ取っていましたが、やはり顔を見ると落ち着くものですね』


『然り~』


 なんだか気恥ずかしくて、後半は思念波の声量がすぼまってしまったが、彼の無事に安心したのは本当の事である。

 だって、あれだけの災禍だったんだ。誰か知り合いが消滅してたって、何もおかしくはなかったんだから。




 ほっと一息ついていると、空気を読まないウェイパイセンは華麗に爆弾を投下した。


『いや、実は一旦消滅したと思ったのだがな、何故だか気づいたら復活しておったわ! まあ結果的には無事だったと言えようぞ! ウェーイ!!』


『えっ』


『そんなことより聞け! 復活して荒野をさ迷ううち、多くの神々と群れ寄り合ったのだがな、その中にな、例の機織りの君が居わしたのだ!! フフフ、しかもだ! ほんのちびりではあったがな、一言二言、会話を交わしたのだぞ! ウェーイ! オシェーイ!』


『いや、え、ちょっと』


『しかしなぁ、どこぞの男に邪魔だてされてしもうた。何だったのだあやつは。目の玉がかっぴらかれた上に血走っておって、げに恐ろしきものをみたぞ。しかも君にベタベタ張り付きおって……

 なぁ其方、よく機織りの君の工房に訪ねていただろう。奴が誰ぞか知っているか?』


『待って♡』


 怒号の情報量に全く頭がついていかない。

 あ? なんだっけ? 消滅した? 復活してオリヒメさんとお話しして??

 こちらの混乱もお構い無しに、頭上からはニヨニヨと花が飛んでいるような気配が伝わって来る。いやマイペースか!


『ちょちょちょちょ、消滅したってなんですどういうことですか!?』


『む? 知らぬのか? まぁ其方は例外とするとして、此度の災禍の最中、多くの神々が一度は顕現を掻き消されておったそうだぞ。みな復活したようではあるがな。いづれも復活すると同時に力をごっそり抜かれたようであるから、持たざりし者共がいくらか、完全に淘汰されていてもおかしくはあるまいな。知らぬけど』


『いやさらっと流していい内容ではないですね??』


『むう、深く考えるのは苦手ぞ。私的には、機織りの君や弟ら、それから常をつるむ友共が無事であったのならばそれでよきなり。皆がここに在るというならば、それがすべてであろうぞ。ウェーイ!!』


 言い分を聞いて、何だか脱力するような心地になる。頭上にあるためその表情は分からないが、どうせまた何も考えていないような面してへらへらと笑っているのだろう。自分がどんだけ怖気だつようなことを口にしてるのか分かってるのだろうか。


 いやでもこのヒト、わざとアホそうに振舞って相手をおちょくるようなこともあるしな……。

 チャラそうに見えても、やっぱりパイセンだって長生きジジイであることには変わりないのである。




『ところでヤトよ、”常面(じょうめん)”共の行方を知らぬか? 奴らの内、幾柱とはまだ会い見えておらぬのだ』


 ふと何でもない様に零されたその言葉は、今までとは若干毛色が異なるもの。わずかに張り詰める空気には、不安げな心地が隠しきれずに見え隠れしている。

 その言葉を受け取り、角に意識を集中させ、周りの気配をまさぐった。なんとなく、いつもよりもより慎重に探って見れば、数巡の後によく知る気配を拾うことができた。瞬間、体の力が抜ける。知らず、頭上の彼に誘発されて、力がこもってしまっていたようである。


『あー、常の面子(イツメン)さん達のうち、あの太陽の位置を南と仮定して、三柱ほど東南の方角に気配を感じますね。あと半刻もすれば合流できると思いますよ』


 バグった世界に浮かぶ光源を触手で指して言えば、ぴょいとその場で軽く跳ねたらしいパイセンの、明るく弾んだ”声”が聞こえて来た。


『真か!? よっし、ウェーイ! これで常面は皆集まるぞ! さすれば、あとは弟らだけよな。うーむ、其方に探してもらいたいところではあるが……流石に彼らの全てを覚えてはいるまい?』


『あーっと、すみませんちょっとそれは……あ。でも、貴方の先ほどやって来た集団から9、西から3,西北から2、東南東から3ほど見知った気配を感じますよ。あ、私の背にも1柱いらっしゃるようですね。……でも、これでも半分くらいって話ですもんね……あんまりお役に立てなくて申し訳ないです』


『ウェッヘーイ、何を言うか! そこまで分かっておるなら上出来であるぞ! 元いた集団の9柱とは既にまみえた故、次は其方の背にいるという弟に会いに行くとするか。げにげにかしこ、それでは行って参る! ウェーイ!!』


 そう言うや否や、パイセンはひとっ跳びに鎌首を紐無しバンジーして、背棘の間まで降って行った。

 パイセンは神々の中でもとんでもない脚力をしていると思う。仕事してるところを見たことがないが、一体何の神なのやら。気になってはいるものの、なんとなく聞けずじまいでここまで来ている。


 そこでふと思い出した。

 そういえば、パイセン、オリヒメさんとのおしゃべりに実に喜んでたみたいだけど、交わした会話が二言三言て……涙がちょちょぎれそうなお話だ。加えて天変地異前に聞いた、オリヒメさんのキケンな恋バナが思い出されて不憫でならない。なんだか胸が痛いよ。




 そうして目玉に被さった鱗の端から溢れ出て来る謎の水分を、触手で拭いさりながら前に進むこと半刻、ついに他の神々の大集団の一派と合流することとなったのである。

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